FlowerLeaf

*AriaLien Sub BLOG*

◆Silent killer

Silent killer 6話



其れはいつもの朝だった。

いつも通り咲子さんに起こされ、寝ぼけ眼で身支度を整え、朝食を摂るためにダイニングルームへ向かった。

「!」

しかし一歩ダイニングルームに入った瞬間、其処に繰り広げられていた光景によって其の日はいつもの朝ではなくなった。

「やぁ、おはよう静流」
「…智広…さん」
「ん?どうしたの、よく眠れなかったのかい」
「ち、違う…眠れた、よ…」
「そう、じゃあ座って。一緒に朝食を食べよう」
「…」

いつも座る私の座席の真正面に其の人は座っていた。

約三週間ぶりの顔合わせだった。

憧れて憧れて

好きで好きでどうしようにもない私のたったひとりの人。

(智広さんに逢えた!)

「旦那様は和食、静流さんは洋食でよろしかったですね?」

いくつかのお皿が乗ったトレイを掲げて咲子さんは云った。

「あの、私も和食が食べたい」
「あら、珍しい。いつもパンじゃないと入らないと仰っているのに」
「きょ、今日は和食って気分なの!」
「そういうのってあるよね。其の日によって食の嗜好が変わるって事」
「智広さん…」

さり気なくフォローしてくれる其の優しさが嬉しかった。

「左様でございますか。解りました、少々お待ちくださいね。今ご用意して来ますから」
「うん、ごめんね咲子さん」
「どういたしまして」

咲子さんはいつもの様に、静流さんの我儘には慣れていますよ──みたいな表情を見せて、ダイニングルームを出て行った。

室内に智広さんとふたりきりになって、私の胸は張り裂けんばかりにドキドキしていた。

「静流、最近はどう?」
「えっ!なっ、な、何が?」

いきなり話しかけられて思わず声が裏返ってしまった。

「ふふっ、慌てないでゆっくり喋ろう──最近、何か変わった事とかあったかい?」
「変わった事…其れは特には…」
「此処数ヶ月、やたら業務が忙しくて中々一緒の時間を持つ事が出来なくて悪かったね」
「そんな、智広さんが頑張っているの、私解っているから!そんなに気を使わないで」
「…ありがとう、本当に静流は僕には勿体ないほどよく出来た娘だね」
「娘…」
「不遇な環境にいても静流はとてもいい子に育ってくれたね、僕は本当に幸せ者だよ」
「…智広、さん」

思わず目頭が熱くなった。

いつもそう。

智広さんは私と逢うと、必ず『いい子』と褒めてくれる。

私を本当の娘の様に可愛がってくれて、慈しんでくれて、溢れるほどの愛情を注いでくれているというのを私は解り過ぎるほどに解っている。


──だからこそ私は智広さんに思慕を抱く以上の行為をしてはいけないのだ


「ねぇ静流、今度の土曜日は僕のために時間を空けてくれるかい?」
「えっ!な、何…其れ」

一瞬智広さんの言葉に驚いたけれど、すぐに次の土曜日が私たちにとって忘れられない日だったという事に気が付いて、昂った気持ちは瞬く間に萎んだ。

「早いものだね、もう六年だ」
「……そう、だね」

毎年其の日は気持ちが暗く沈む。

私により一層【智広さんに義父以上の感情を持つな】とジリジリと畳み掛けられる気持ちになるから。

(本当、厭になる)


今度の土曜日、其の日は母の6度目の命日にあたる日だった──

1sil
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Silent killer 7話



私の母は六年前、突然この世を去った。

不慮の事故だった──と訊いている。

其の時母は妊娠していた。

智広さんとの初めての子どもで、私にとっては妹か弟になるはずだった。

其の時私は10歳になったばかりの頃だったけれど、そんな幼い私の目にもあの時の嘆き悲しむ智広さんの姿は未だに消えない記憶としてはっきりと思い出される。

遺体が火葬される其の寸前まで母に寄り添い、一時も傍を離れなかった智広さんは、母に語り掛ける様にずっと『愛している』と繰り返していた。

其れを見たら私は母には到底敵わないと思い知ったのだった──





「麗華(レイカ)逢いに来たよ」
「…」

土曜日、私と智広さんは兵馬さんの運転する車で郊外の霊園に眠る母の元を訪れた。

母のお墓の前まで来るのはいつも私と智広さんだけ。

兵馬さんは、私たち親子水入らずの語らいの場を邪魔したくないと云って、お参りが終わるまで車の中で待機していた。

「麗華が好きだったカサブランカの花を今年も持って来たよ」
「…」

お墓に供えるには派手な仏花。

でも其の白く華やかな花は母のイメージに合っていて、不思議と漆黒の墓石と妙にマッチしていた。

いつも智広さんは長い時間手を合わせる。

(何を語り掛けているんだろう)

とっくに目を開けていた私は、隣で静かに目を瞑って手を合わせている智広さんの其の端正な横顔を胸を高鳴らせながら見つめる。

母がこの世からいなくなってから六年。

其れだけ経っても未だに智広さんの心を掴んで離さない母の事を時々嫉妬したりもする。

悔しくて羨ましくて歯痒くて…

色んな複雑な想いが胸の中に堆積してどうにも出来ないもどかしさにどうにかなりそうだった。

(だけど死んだ人間には勝てない)

行き止まりの気持ちをどうにかするには、私自身が智広さんに愛される資格がないのだという事をこの体を穢す事で云い聞かせるしかないのだ。

(其のために私は兵馬さんを利用しているのだ)

愛する智広さんの事を知るために弟である兵馬さんに抱かれ、其の対価としてご褒美を貰う。

まるで一端の娼婦の様だ。

(こんな私は純粋で清らかな智広さんには相応しくない)

そう思う事でなんとか気持ちを抑え込んでいるのだった。


「お待たせ、静流」
「…あ」

いつの間にかお参りを済ませた智広さんがとても安らかな表情で私に声を掛けた。

「もうじきお昼だ。お腹が空いただろう?何処かで食事して行こう」
「うん…」
「何が食べたい?なんでも云ってごらん」
「そうだなぁ…新鮮なお魚が食べたい」
「そうか──じゃあ少し足を延ばして海沿いの方まで行ってみようか」
「其れって、ドライブ?」
「がてらに。いいかい?」
「いい、いいに決まってる!」
「ふっ、そうか。じゃあ兵馬に連れてってとお願いしよう」
「うん」

気が重い母の命日であっても、こういった嬉しい出来事があるから私は決してこの日を逃げ出したりしないのだった。

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Silent killer 8話



久しぶりに智広さんを堪能したあの日からまたしばらく智広さんとすれ違う日々が続いていた。

「…なんでそんなに忙しいんだろう」
「え?」

いつも通りのひとりきりの朝食の時間を過ごしている私はつい呟く様に零した。

「あっ、なんでもない」
「静流さん、寂しいんですか」

給仕をしている咲子さんが珍しく私の言葉に応対した。

「寂しくなんかはない。もうずっとひとりだし」
「…」

そう、ひとりが寂しいんじゃない。

智広さんがいないから寂しいのだ。

「ねぇ、本当にうちの会社って大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。ただ麗華様が亡くなってから其の跡を継いだ婿養子の旦那様の立場は、代々世襲制でトップを務めて来た【UTSUNOMIYA】では未だに盤石ではないという事です」
「幹部が智広さんを認めていないって事?」
「簡単に云うとそういう事ですね。昔ながらの役員の中には旦那様の経営方針に反発している方もいると訊きます。そういった方たちをどうにか認めさせる事で大変なんでしょう」
「そういう事…」

うちの会社【UTUNOMIYA】は大正時代、ちいさなお菓子問屋から大きく成長して来た。

創始者である宇都宮泰平太の直系の子孫が代々社長を務めて来た世襲企業だ。

ひとり娘だった母は前社長──つまり私の祖父が亡くなってすぐに婿を取り若くして社長業を担って来た。

其の母亡き今、本来なら娘である私が【UTSUNOMIYA】を継がなければいけないのだと母の葬儀の時、名前も知らない年老いた幹部数人に云われた事があった。

ただ其の当時、あまりにも私が幼かったために止むを得ず婿養子である智広さんが一時的に社長の座に就くという形で其の場の状況は治まったのだけれど…

(そっか…そういう内紛みたいな事があるから智広さんは色々と忙しいのね)

私は智広さんとの時間が持てない事に対してむやみやたらと不満を零すのは止めようと思ったのだった。




「おぉー今日も美味そうな弁当だなぁー」
「咲子さんのお手製だからね」

これまたいつもの通り正親に誘われ、生徒会室でお昼ご飯を食べている私。

正親は生徒会長権限で昼休みに生徒会役員の生徒会室使用を禁止にして、自分だけのプライベートルームにしているダメな生徒会長だ。

(だけど其のお蔭で助かっている)

高校生になって半年が過ぎようとしていても、私には友だちらしい友だちがいなかった。

智広さんが勧めてくれた品行方正な上流階級の子息子女が通う私学に、私は未だに慣れていないのだった。

(…ん?そういえば)

「ねぇ、正親」
「何」
「あんたの実家って何をしているの?」
「へっ、何、いきなり」
「だって」

そう、この学校は一応名門私学。

高額な入学金や授業料、其の他諸々発生する寄付金などの事を鑑みても其れなりの社会的地位のある家の息子や娘じゃないと通えない学校だ。

そんな学校に通って、ましてや生徒会長までやっているこの正親だってただの普通の一般家庭の子であるはずがないと今更気が付いた。

「なんだぁ、今頃になって俺の全てが知りたくなったって云うのか?さてはとうとう俺に惚れ──」
「ていないから。単に思いついただけ。そんな事を云うなら別に知りたくない」
「なっ、なんて冷たい云い方なんだ!どんだけツンなんだよ」
「ツンって何よ」
「ツンデレのツン」
「デレなんてないからね」
「くぅぅぅ~静流~いい加減俺の魅力に気がついてくれよ~」
「…阿呆くさ」

見てくれは其れなりにカッコいいのに、喋ると途端に其の姿形とはかけ離れた、軽薄でおちゃらけた印象になる。

智広さんとは全くタイプの違う優男。

(多分、いい処はあるんだろうけれど)

今の私には其処が何処かなのかは全く解らない。


こうして正親の家の事に関する会話は頓挫した。


──しかし


今思えば私はこの時、もっと深くこの会話を掘り下げればよかったのかも知れないと思う出来事が直ぐ傍まで忍び寄っていたのだった。

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Silent killer 9話



休日だった其の日、私は誘われるままいつもの様に兵馬さんのマンションに来ていた。

「ふぁっ、あっ…あぁっ」
「ん、んっ」

兵馬さんの太くて固い熱が何度も何度も私の中を行き来する。

グチュグチュと独特の生臭い音が響き、私は其の音に嫌悪を抱きつつもよがり、甘い喘ぎ声を出し悶えていた。

「ひゃっ!あっ!あぁぁっ」
「ふぅっん──あっ…んっ」

中から外れるギリギリまで抜き、そして一気に押し込められ、其れを何度か繰り返したのち、奥深くグラインドしながら中の両襞を擦られると一気に快感の波にさらわれた。

「あぁっ、あぁぁ、んっ」
「くっ────ぅ」

ギュッと私の中が収縮して兵馬さんのモノを絞り上げる。

ヒクヒクと痙攣するのが治まるまで兵馬さんは私をギュッと抱きしめて身動ぎひとつしない。


やがて


「はぁ…はぁ、はぁ…静流…」
「…何」
「…」
「? 何よ」
「──いや、なんでもない」
「あ」

何か云いかけて止める──なんて事、今までの兵馬さんにはなかった事だったから少し気になったけれど、少し萎えたモノを私の中から抜く頃にはいつもの飄々とした兵馬さんに戻っていた。


「あーなんつーか…最近マンネリだよな」
「何が」

お互いが身なりを整えている最中に急に兵馬さんが云った。

「マンネリって言葉は見当違いかも知れないが、なんかさ、最近俺、罪悪感に満ちている気がする」
「…」
「16そこそこの少女相手に条件つけてセックスしているなんてさ」
「…どうしたの、いきなり」
「え、いや」
「おかしいわよ、兵馬さん。なんで急にそんな事を云うの?」
「…」

『なんで急に』という言葉は少し違うかも知れない。

実は兵馬さんは毎年母の命日が過ぎた頃の数日間、少しナーバスになる事があった。

私は知っていた。

兵馬さんは母の命日を何日か過ぎた頃、ひとりで母のお墓参りをしているという事を。

命日当日は何故か私と智広さんに遠慮してお参りをしないけれど、後になってこっそりとひとりでお参りしているなんてどうしてだろうとずっと思っていた。

だけど兵馬さんには兵馬さんなりの考えがあって、其れで行動しているのだろうと思うと私は何も云えなかったし訊けなかった。

「罪悪感なんて持たないで」
「え」

私は姿見の前で乱れた髪の毛を梳かしながら、鏡越しに兵馬さんを見た。

「私が必要だと思っているから兵馬さんとセックスしているの。本当に厭だったらしないわ」
「…」
「兵馬さんだって無理強いしないじゃない。ただ誘いをかけているだけ」
「…」
「其れに乗って、利用しているのは私の方なんだから、兵馬さんが気に病む事ないわ」
「…静流」

鏡に映る兵馬さんはベッドに座りながら俯いていたから其の表情は解らなかった。

そして

「…俺、静流の事、愛せたらよかったのに…」

ボソッと呟かれた其の言葉の真意も、今の私にはよく解らないものだったのだ。

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Silent killer 10話



人生とは、ある日突然どうにかなってしまうものなのだと16にして知る事になるとは、私は全く予想だにしなかった──


「静流は兵馬と付き合っているのかい?」
「──え」

珍しく早くに帰宅した智広さんと夕食を共にした後、私は智広さんの書斎に呼び出された。

書斎を訪れるまでのドキドキとかソワソワとかいった甘酸っぱい気持ちは智広さんの開口一番で綺麗さっぱり消え失せた。

「静流の口から訊かせて欲しい。静流は兵馬と好き合っているのかい?」
「…な、なんで…」

体が小刻みに震えてくるのが解った。

心の奥底から湧き出す得もいわれぬ恐ろしさがじわじわと私の体を凍り付かせる。

「…」

少し黙った智広さんは私の前に薄い小冊子を置いた。

「何…これ」
「今朝、僕宛てに直接届いたものだ」
「…」

私は恐る恐る其の小冊子を手に取り、目を通した。

「!」

ほんの数行読んだだけで目を背けたくなった。

「…っ」

まともに言葉が出ない。

其処には私と兵馬さんのこの半年間にあった事を示す記述がびっしりと書かれていた。

おまけに何処から撮ったのか、兵馬さんの部屋のベッドで抱き合う私たちの姿が小さく写し出された写真も添付してあった。

「なっ…何よ、これ…」
「多分、社長更迭推進派の人間の仕業だと思う」
「しゃ、社長更迭、推進派…って」
「静流には黙っていたけれど、今【UTSUNOMIYA】での僕の立場はとても危ういものなんだ」
「!」

(其れって前に咲子さんが云っていた?)

「麗華が亡くなってから六年──根強く蔓延る世襲制を何とか打破して、新生【UTSUNOMIYA】として一層の発展を遂げようと頑張って来たけれど、やはり僕が社長という立場の元で働くのを躊躇う昔堅気の役員が数名いてね。そういう一派を社長更迭推進派というのだけれど…其の者たちが宇都宮本家から切り崩そうとして来たようだ」
「…」
「未成年の静流が義理とはいえ叔父という立場の兵馬とこういった関係にある事を興信所を使って調べさせたらしい」
「…」
「其処には、静流は其の環境上兵馬から脅されて、無理やり性的暴行を受けているといった記述が書かれているけれど…本当はどうなのだろう」
「…」
「向こうは場合によっては兵馬を訴える気でいる。そして義父である僕も静流とあらぬ関係があるんじゃないかと疑いの──」
「…ちが、う」
「え」

智広さんの冷静な物云いが徐々に私の中の動揺を鎮めさせた。

冷静に物事を考えられる様になって、今、どうしたらこの状況を切り抜けられるのか考えた。

(私の軽薄な行動が智広さんの足を引っ張ったんだ)

まさか此処まで【UTSUNOMIYA】の内紛が酷いとは思わなかった。

こんなに恥ずかしい事を愛する人に露呈されるくらいに切迫している状況だとは思わなかった。

(私が…私がいるからいつまで経っても智広さんが社長として認められないんだ)

社長更迭推進派なる者たちは多分、私がいるから──いずれは世襲制に則って私を社長にしたいのだろう。


──だったら私が宇都宮からいなくなればいいのだ


そう


話は簡単な事だった。


「…智広さん、私、兵馬さんに酷い事なんてされていないよ」
「…」
「私から興味本位でせがんだの。だって…兵馬さん、カッコいいから一度は寝てみたいって思っていたの」
「…」
「セックスしてくれなきゃ酷い事するわよって脅して、無理やり抱いてもらったの」
「…静流」
「私…私が悪いの…全部…」
「…」
「だから…だからどうか…私を智広さんの有利になる様に処罰して」
「…」
「私…私のせいで…智広さんを…社長を辞めさせたくない」
「…」
「だから…」
「──静流」
「!」

泣きじゃくる私の体を智広さんは其の温かい体で包んでくれた。

痛いくらいに力強く抱かれた其の感触は、一生私の体から消える事はないだろうと思ったのだった。

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