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*AriaLien Sub BLOG*

甘やかな刻印

甘やかな刻印 6話



私と衛藤の間には何もなかった。

──ううん、正確に云うと何もなかった事にしたかった


衛藤の事を好きだと自覚してから私は其の恋に悩み、日々心を蝕まれる事になる。

衛藤との関係に恋愛を匂わせたらもう友人としてすら付き合えなくなると。

解っていたから…苦しかった。

だけどそんな苦しい気持ちに終止符を打つ出来事が私と衛藤の間で起きてしまった。

退職する職員の送別会があった夜、積もりに積もった鬱積した恋心を晴らすように酒を食らった私は酷く泥酔して衛藤に介抱された。

酔い過ぎていてタクシーにも乗れなくて困った衛藤は私をおぶって繁華街にあったラブホテルに入った。

だけど私の意識はラブホテルのベッドに下ろされた時にはまともになっていた。

憔悴しきっていた私はこの状況を利用して衛藤に迫ってしまったのだ。

万が一気まずくなっても『酔っていたから』という言葉で誤魔化せるという算段があったからだ。

迫る私に衛藤は少し戸惑いの表情を浮かべながらも『セックスするだけならしてもいい』と云った。

そして私たちはたった一度の過ちを犯した。

其の時衛藤から与えられた快感は恐ろしいまでに私の体中全てに消えない刻印として残った。

行為の間中、衛藤はとても優しかった。

其処には愛があるんじゃないかと錯覚するぐらいに愛された私は勘違いしてしまったのだ。

真剣に告白すれば衛藤を手に入れる事が出来るんじゃないのか──と。

そして私は其の気持ちのまま衛藤に告白をした。

だけど答えは想像以上に辛いものだった。

いつか衛藤に告白した女性の様に私の告白も体よくあしらわれてしまったのだ。

ただ其の時、衛藤は話してくれた。

何故自分が女性を本当に愛する事が出来ないのかという理由を。

衛藤が味わった過去の苦い恋愛の全てを訊いた瞬間、私は諦めてしまったのだ。

急に怖くなったのだ。

衛藤を手に入れる事を。

私なんかでは衛藤を幸せに出来ないと…

何故かそう思ってしまったのだ。


私には自信がなかった。

過去の傷を癒せないまま其の気持ちをずっと引きずっている衛藤を私なんかが幸せに出来るのか。

仮に出来なかった時はどうなるのだろう?

今度は私が衛藤を酷く傷つけてしまうんじゃないのかと。

…怖かったのだ。


──だから私は衛藤から離れた


幸せに出来る確証がないままこの恋を貫くには私は恋愛に対して未熟過ぎたのだ。








「はぁはぁ、はぁ…んっ」
「ん、っ…ぁ」

激しい腰遣いで私の中からは愛液と淫らな粘着質の音が零れていた。

グッグッと奥深くに彼のモノが突き刺さる度に私は甲高い喘ぎ声を上げた。

「はぁぁぁっ、あんあんあんっ」
「はぁ…イキそうか…?」
「んっ…んっん…はひぃっ~~~」
「はっ…変な声」
「!」

感じるまま声を上げていた事に恥ずかしさを感じた。

すると途端に盛り上がった波が鎮まった。

「おぃ…何正気に戻っているんだよ」
「だ、だって…衛藤がぁ…」
「いいから、変な声でもなんでもいいから聞かせろ」
「~~~」


脱衣所で裸を見られたあの時、私も衛藤も、何年か前のあの夜の時の気持ちが蘇ってしまった。

私が衛藤の過去を知り、そして逃げ出したきっかけとなったあの夜の様に──


「はぁんはぁ…あっあっ」
「は…んっ、んっ

私の太ももを持ち上げ結合を深くする。

衛藤のが私の奥深くにギュウギュウと押し付けられ、そして擦られるとビリビリと電流が流れる。

「はぁん!あ、あっ…ひぅ…い、イク…ゥ」
「ん、イケよ…ぁ、締めて来たな」
「はぁはぁはぁ……ん~~~っ」

ジワジワとせり上がって来た快感の波が一点に集まりそしてパァンと弾けた。

ガクガクと震える腰と、衛藤の体を太ももでも締めて私は快楽に堕ちた。


「はぁはぁはぁ…あ…」
「…なんて顔してるの」
「…」
「変わらないな、其の恍惚に満ちた表情」
「……んで」
「ん」
「なんで…衛藤…私を抱いたの…」
「…今、其れを訊く?」

快感の波が引きかけた頃、でもまだ私の中には衛藤のモノがギッチリと填まっていた。

「だって…だってこんな…私…」
「好きだからに決まっているだろう」
「!」

(い、今…なんて)

こんな状況にはあまり相応しくない言葉を訊いて茫然としてしまった私だった。

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甘やかな刻印 7話(終)



『好きだからに決まっているだろう』

衛藤から投げ掛けられた言葉にしばし唖然とする。

「おい、訊いているか」
「…え、えっ…え」
「俺は君の事が好きだ──だから抱いた」
「~~~嘘ッ!」
「嘘じゃない、本当だ」
「だ、だって…だって…そんな…だって衛藤は…」
「もうあの時の俺じゃない」
「!」
「もう闇雲に体だけの関係を求めていた頃の俺じゃない。俺は…ちゃんとひとりの女を愛したいと思える様に変わったんだ」
「…」

其の衛藤の告白には本当に驚いて直ぐには何も云えなかった。

「少し前に…俺の考えを変えてくれた女性との出会いがあって…其れから俺は其れまで信じて来た考えを改める事になった」
「其の女性って…」
「最初彼女も俺と似た様な考えの持ち主で、そんな処で気が合ってほんの短い間だけ付き合っていた女性だけど…彼女の変化が俺をも変えたんだ」
「…」
「本当はたったひとりの人を愛したいし、愛されたいんだって事に気が付かされた」
「… 其の人は…今」
「別の男と結婚した。確かもうじき子どもも産まれるって訊いた」
「そう…なんだ」
「だけど俺は彼女から気が付かされる以前に一度、本当はそういった気持ちを持っているのだという事に気が付いていた」
「え」
「其れは…君に出逢ったからだ」
「!」

意外な話の流れに驚いた。

そして衛藤の其の言葉の意味がよく解らず首を傾げた。

「あの夜、酔った君が俺に迫ったあの夜、君に俺は過去の恋愛を告白したよな」
「…うん」
「君が告白してくれた事を嬉しいと思っている俺がいた。本当は嬉しかったのに…でも心の奥底に燻っている苦い経験が君からの告白を素直に受け入れる事を邪魔した。だから俺は君に過去を話す事によって、其れを乗り越えてくれた君と真剣に付き合いたいと思った」
「!」
「だけど──結果的に君は俺から逃げて、いつの間にか出来ていた男とサッサと結婚した」
「…あっ」

次第に体が小刻みに震え出した。

「裏切られたと思った。また俺は好きになった女を手に入れられなかったし幸せに出来なかったと…」
「そ、そんな…」

(まさか衛藤がそんな風に思っていただなんて!)

「益々恋愛に対して意固地になっていた俺の前に現れたのが先刻話した彼女だった」
「…」
「君で出来た傷を癒すように体だけの関係を彼女に求めた──だけどそんな彼女も他の男に攫われて…もう恋なんて絶対にしないと思った」
「…」
「だけど其れは違うのだと教えてくれたのも彼女で…だから俺はあの日、離婚した君と再会したあの時、もう一度だけ賭けたくなったんだ」
「…」
「自惚れでもなんでもいい、君が離婚した原因のひとつに俺への気持ちがあればいいと思いながら君を手元に置いていたかったんだ」
「~~~」

衛藤の告白は私の冷え切っていた体と心に温もりを与えた。

そして私は本音を衛藤にぶつけた。

衛藤から逃げた私は弱かったのだと。

衛藤の全てを受け入れて、でも受け止めきれなかった事を考えると怖くて逃げ出してしまったのだと。

衛藤を忘れるために好きだと思い込んだ男と結婚したけれど、結局は衛藤の事が忘れられなくて徐々に夫との仲は酷いものになって三下り半を突き付けられたのだと。

「夫に抱かれていても…其処にはいつも衛藤とのたった一度の行為が思い出されて…夫に衛藤を重ねる事に辛くなって…もう…これ以上はって…」
「…幾田」
「ずっと私の中に衛藤から受けた行為が消えないの…たった一度だけの事だったのに…どうしても消えなくて…体中に刻み込まれているの!」

私の抱えていた気持ちを全て吐き出すと、衛藤は複雑な表情を浮かべながらくしゃっと笑った。

「なんだよ、俺たち…両想いだったんじゃないか」
「!」
「なのに…なんでこんなに回り回って…長い月日をかけて、幾つもの傷や迷惑をかけて結ばれようとしているんだよ」
「…きっと…私と衛藤は…色々傷つかなきゃ結ばれない運命だったんだよ」
「…」
「だって私…離婚して色んな人に迷惑かけて…でも其れがあったからこそ今、ちゃんと気が付いた」
「…」
「私が衛藤を幸せにしてやるんだって自信がある事を」
「…幾田」

そう、私は失くした物が大きかった分、得た物もとても大きかった。


「私は衛藤の事が好き、愛している!」
「俺もだよ──俺も君の事が好きだ」



私が衛藤の元を去ってから二年。

そして再会してから一週間。


私たちはようやく気持ちを確かめ合い、本当の意味で結ばれた。


「…ねぇ、衛と──」
「貴哉」
「!」

盛りあがった気持ちで再び熱い愛撫を交わし合う私に彼は云った。

「名前、ちゃんと呼んで」
「…た、かや」
「ん、何、史恵」
「~~~」

急に名前呼びになって恥ずかしいやら嬉しいやらで云いたい事を忘れてしまった。

「史恵、もうハローワーク通わなくていいよ」
「…あ」
「史恵は俺の処に永久就職」
「べ、ベタだね…」

遣い古されたプロポーズの常套文句に可笑しく思ったけれど、だけどやっぱり実際に云われるとじんわりと嬉しさと幸福感が溢れて来た。

「ベタで結構。いいよね、永久就職」
「……はい、よろしくお願いします」
「ん、よろしい」


私の知っている恋愛に一歩も二歩も引いていた時の彼なんて微塵も感じられない位ベタベタに愛された。


でもきっと私も彼もこんな恋愛がしたいのだと思って来たに違いない。


だって今、本当に心から幸せで仕方がないのだから──





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