FlowerLeaf

*AriaLien Sub BLOG*

◆甘やかな棘

甘やかな棘 1話



昔から本を読むのが好きだった。

だって本を読めば現実世界では味わえない出来事を想像という形で疑似体験出来るのだから。

あたかも体験したかの様な気持ちになれるのは、私にとっては最高の脳内娯楽だった。




「北森さんっていつも図書室にいるよね」
「え」

中学3年生の時、そうやって声を掛けて来た人がいた。

寒い時期の放課後、図書室に人はまばらで読書に集中するにはもってこいの環境だったけれど、其の人物によって静かな環境は一転した。

「あ、ごめんね。読書の邪魔、しちゃった?」
「そ、そんな事…ないけど」

私に声を掛けてくれたのは隣のクラスの間宮 紘(マミヤ ヒロ)だった。

頭が良くて優しくて面倒見がよくて頼りがいのある、女子の間では密かに人気の高かった男子のひとりだ。

同じ図書委員というだけの顔見知りだったけれど、あまり喋った事はなかった。

(私とはいる世界が違う人)

私も他の女子同様、間宮くんに対して淡い憧れみたいな気持ちを抱いていたけれど、私なんか──という気持ちがあって端っから其の気持ちには蓋をしていた。

「今は何を読んでいるの?」
「あ…海外の文芸作品なんだけど」
「えっ、原文で読んでいるの?」
「ま、まさか!読める訳ないよ」
「あぁ、日本語訳かぁ~びっくりした」
「…」

どうしていきなり間宮くんが私なんかに声を掛けて来たのか解らなかった。

私は本を読む事しか出来ない無能な女子で、大して可愛くもないし愛想も良くない。

当然男子とは用件以外の会話をした事がなかった。

つまり私、北森 愛恵(キタモリ マナエ)は性格も見た目も地味だという事だ。

(そんな私に何で)

私の戸惑う気持ちを余所に、間宮くんは静々と私に喋りかけていた。

「俺、いつも本を読んでいる北森さんを見ていたよ」
「えっ」
「最初は何をそんなに夢中になって読んでいるんだろうと思って本のタイトルとか気になっていたんだけど、段々本を読んで色んな表情をしている北森さん自身を気にしている事に気が付いて」
「…」
「好き…に、なっていた」
「?!」




何?!


(いきなり何なの、これはぁぁぁ──?!!)


「な…何、を」
「何をって、告白しているんだけど、俺」
「!!」

まさか


まさか


(まさか間宮くんが…わ、私を──?!)


突然の告白は私にとても大きな衝撃をもたらしたけれど、間宮くんの次の言葉を訊いて其れ以上の衝撃を受けた。

「俺、冬休み前に転校する事になったんだ。だから…今、告白出来てよかった」


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甘やかな棘 2話



冬休み間近の12月。

私の人生において信じられない出来事が降って湧いた。

其れは私に驚きと共に…


「せめて中学卒業まではいたかったんだけど…どうしても父親の転勤で融通が利かなくて」
「…転校って、何処に」
「アメリカ」
「アメリカ?!」
「うちの父親、貿易関係の仕事しているから仕方がないんだよね」
「…」
「だからさ、日本を離れる前に思い残す事がない様に気持ち、伝えたかったんだ」
「…」

初めて告白された男子が数日後には遠く離れる事になるなんて…

(そんな事って──)

何故か私の胸の中には猛烈な寂しさが募って行った。

「ごめんね、北森さん。俺の一方的な告白で…あ、返事はいいんだ。ただ気持ちを伝えたかっただけで」
「どう、して」
「え」
「どうして…告白、なんて…」
「…」
「そんな…間宮くんからそんな告白を受けたら私…私…」
「! 北森さん」

気が付いたら私はボロボロ涙を流していた。

住む世界が違う人だと何処かで諦めていた人から受けた突然の告白。

恋している事を『仕方がない』という言葉で恋にしなかった想いが急に大きく成長して実が熟してしまった。

「一方的に気持ちを押し付けて…終わりにしないでっ」
「…」
「私、私だって…間宮くんの事」
「北森さん…」

私たちのやり取りに図書室内にいた数人が何事かとひそひそ話しているのが気配で解った。

そんな気まずい中で私は慌てて帰り支度をして図書室を飛び出した。




薄暗くなった宵の頃、校門を出て数十メートル走った処で息が切れた。

「はぁ…はぁはぁ…」

冷たい木枯らしが流れていた涙の跡を容赦なく冷やした。

「…寒い」

私は手袋を出そうと鞄を探った。

「北森さん!」
「!」

後ろから聞こえた声に体がしなった。

「待って、北森さん」
「…」

私の後を追いかけて来ただろう間宮くんもはぁはぁと息を上げていた。

「北森さん、ごめん。俺、俺…独りよがりな事しちゃって」
「…」
「其の…もしかして…北森さんも俺の事を」
「…」
「好きだって…自惚れてもいいのかな」
「…」

私は静かにコクンと首を縦に振った。

「嘘!ほ、本当に?!」
「でも…!私の好きって今、自覚したばかりで」
「其れでもいいんだ」
「え」
「俺の事、嫌いじゃないって解って…其れだけで嬉しい」
「…」

そういって間宮くんは私の掌を取った。

「!」

間宮くんと繋がれた私の冷えた掌が一気に熱を帯びた。

「ねぇ、今度の日曜日、デートしない?」
「え」
「デート、という名前の思い出作り。ダメ?」
「…」

少しぎこちない笑顔を向けた間宮くんは、私からの返事を訊いた瞬間、零れんばかりの笑顔を見せてくれたのだった。

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甘やかな棘 3話



初めて自覚した『好き』という気持ちを抱きつつ、私は間宮くんと最初で最後のデートをした。

定番だけど遊園地に行って、一日愉しく過ごした。


「なんで北森さんってお化け屋敷平気なんだよ」
「だって全部作り物じゃない」
「いやいや、こういう処って本当に幽霊、出るんだよ」
「脅かしてもダメ。私、そういうの平気なの」
「なんだよー怖がる女の子を助ける頼れる俺っていう目論見大外れじゃん」
「ふふっ、そんな事考えていたんだ」

たった一日一緒にいただけで、随分間宮くんの事が解った様な気がした。

「あ~俺、柑橘系ダメなんだ」
「そうなの?スポーツ得意だからレモンとか好きだと思っていた」
「其れ偏見。酸っぱいものは全般ダメ」
「そうなんだ」

知らなかった面や、知った事が沢山あって、私は間宮くんと一緒にいればいるほどにグングン惹かれて行くのが解った。


(…あぁ…失敗、したかなぁ)

陽が傾きかける頃、やっと私は其の事に気が付いた。



冬季の遊園地は閉園時間が早かった。

蛍の光が流れる中、私と間宮くんは人の波に乗って出入り口ゲートに向かって歩いていた。

「一日って早いね」
「…うん」

間宮くんが話しかけてくれるひと言ひと言が私の気持ちを暗くした。

「愉しい時間って早く過ぎるんだなって今日、実感した」
「…うん」

別れる時間が刻一刻と迫る中、私の胸は苦しくて苦しくて、周りの空気が薄くなって酸欠状態になっているんじゃないかと思う位に息苦しかった。

「北森さん、大丈夫?!」
「あっ」

気が付くと私は足元から崩れそうになっていて、其れを間宮くんが抱きかかえてくれていた。

「顔色が悪い。気分、悪い?」
「……ふっ」
「? 北森さん」
「や…やだぁ」
「!」

私の我慢の限界はあっけなく来た。

「やだよ…間宮くん…わた、私…好きだよ、間宮くんの事」
「…」
「アメリカなんて…そんな遠くに行っちゃうなんて厭だぁ」
「…」

私は今日一日で間宮くんの事を想って泣くぐらいに好きになってしまった。

憧れの気持ちはあっという間に本物の恋へと変貌してしまったのだ。

「ひっ…ひぃくっ」
「…北森さん」

私が泣きじゃくっている間、間宮くんは私をギュッと抱きしめながら背中をポンポンしてくれていた。

其の感触の気持ちよさと、優しい振動が私の荒ぶった気持ちを鎮めてくれた。

「…ごめんね、間宮くん。もう大丈──」
「──したくない」
「え」

少し放された体を間宮くんに向き合った時、間宮くんは真剣な眼差しで云った。

「これで…終わりにしたくない」
「…」


──間宮くんの其の短い言葉の中には、色んな意味が込められていた

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甘やかな棘 4話



15歳の私たちはお互いがこういう処に初めて入ったために少し勝手が解らなかった。

中に入るまではもの凄く悪い事をしているんじゃないかという罪悪感が強かったけれど、其処は思いのほか普通のホテルみたいだったから選んだ部屋に入る頃にはカラオケルームに入るぐらいの気易い気持ちになっていた。


「ふ、普通の部屋、だね」
「…う、うん」

大きなベッドの端にふたりして座って話す事といったらとても他愛のない事ばかりで、本来の目的の行為には中々移行しなかった。

(時間…3時間って決まっているんだよね)

休憩3時間という設定は長いんだか短いんだかよく解らなかった私は少しだけドキドキしていた。

『これで…終わりにしたくない』

そう云った間宮くんの気持ちは私の気持ちと同じで、其の気持ちを抱(イダ)いたまま間宮くんに手を引かれて連れてこられたのがこのラブホテルだった。

朝、遊園地へ行く電車の中で目に入っていた数々のホテルの看板の風景。

其れを間宮くんは覚えていて、遊園地と家の間にある駅で一旦降りた私たちだった。

勿論此処で何をするのかは解っている。

そういう行為をするには私たちは早過ぎるという事も充分解っている。

──だけど

「…俺、多分アメリカに行ったら北森さんの事を忘れると思う」
「!」

急にそんな言葉が耳に届いて私は驚いた。

「今は北森さんの事が好きだけど、でも日本とアメリカで離れ離れになって今度いつ逢えるか解らない状況で俺は…北森さんを好きでい続ける自信が……ない」
「…」
「新しい環境に馴染めば其処で出逢った人に恋する事があるかも知れない」
「…」
「でも其れは北森さんも同じかも知れないよね」
「…」
「だから俺は北森さんの事を好きだけど彼女になってとは云えない」
「…」
「多分こういう時は『ずっと好きでいるよ、忘れない』とか云った方がいいんだろうけど…俺は確信の持てない無責任な言葉を北森さんに残したくないんだ」
「…」
「だから俺の事を待っていてとも、ずっと好きでいてとも…何も云えないんだ」
「…」

間宮くんの其の言葉に何故か私は本当の意味での誠実さを感じた。

其れは一見矛盾しているかの様な言葉だったけれど、私にとっては間宮くんの私に対する気持ちが真剣なんだという事が解って何故か嬉しささえ感じてしまっていた。

「ただ今、本当に俺は北森さんの事が好きで好きで…この気持ちを心と体と記憶に刻み込みたいって思うんだ」
「…間宮、くん」
「其れって…ズルい、かな」
「…ううん、ズルくない」
「…」
「私も間宮くんの事が好きで…今、凄く好きで…其の好きだっていう気持ちを間宮くんが云う様に心と体と記憶に刻み込みたいって思うよ」
「…一緒だね」
「ただ私の場合は…そんなに簡単に忘れられないと思う」
「え」
「間宮くんとの事、私はそんなに簡単に忘れられないよ」
「…北森さん」
「だから…私が間宮くんの事を好きな気持ちが消えてなくなってしまうまでは間宮くんの事を好きでいても…いい?」
「其れは…」
「ただ好きなだけ。間宮くんには何も求めないから」
「…」
「…ダメ?」
「愛恵」
「!」

いきなり名前で呼ばれ、其のままベッドに押し倒された。

「ま、間み…」
「好きだ、好きだよ、愛恵!」
「んっ」

私の唇はぎこちない間宮くんからのキスで塞がれた。

私にとっては初めての…

初めて好きになった人とのファーストキスで…


そして───


好きな人に処女を捧げられた事は私にとって幸せな記憶として心と体と記憶に残ったのだった。

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甘やかな棘 5話









久しぶりに胸が熱くなる夢を見た。





『──えさん』





だけど夢の内容は全く覚えていなくて…





『ま、えさん』




ただ泣きたくなるほどに幸せなひと時だった気がしたのだ──



「愛恵さん!起きて下さい!」
「んぁっ」

耳に劈(ツンザ)く声と揺さぶられた体の感触で飛び起きた。

途端に周りの騒々しい音の洪水に呑み込まれる。

ジリリリリリーン!

「もしもし?!え、まだ刷り上がっていないってどういう事!」

「えっ違う違う、其の進行は先月号ので今月は──」

(あ~ …朝、だぁ)

「もう、愛恵さんまたデスクで夜を越したんですか?」
「…あ、有城(ユウキ)くん、おはよう」
「おはようじゃないですよ、いい加減家に帰って寝たらどうですか?」
「あ~だって面倒くさい」
「そんな事やっているから誤解されるんですよ、愛恵さんは。本当勿体ない使い方していますよね」
「は?何が」
「其の美貌を、です。ちゃんとしていればモテ要素満載なのに…仕事ばかりにのめり込んで自分を顧みなくて…あー勿体ない!」
「私、褒められてるの?けなされてるの?」
「両方!もう、いいから顏、洗って来てください」
「はいはい」
「はいは一回!」
「…はぃ」

(あんたは私のオカンか)


もたつく足取りで洗面所に向かう途中、四方八方から声を掛けられ時には笑われたりもした。

こんな光景はもうすっかり当たり前の事で、誰も彼もが私の事を【枯れ果てた女】という評価付けしているのが解り過ぎる程に解っていた。

(いやいや、これでいいんだ。余計な波風は立たせたくない)


ザバザバと水道水で顔を洗って、ふと鏡の中の自分を見つめる。

(…酷い顔)

女も25を過ぎると肌の手入れをきちんとしているかいないかの差が目に見えて現れる。

当然私は仕事の忙しさにかまけている事を云い訳にしている堂々の後者側である。

デスク仕事とはいえ一応其れなりに身なりは整えるけれど、すっかり手を抜く事を覚えた。

(今の私を見たらなんて云うかしらね)

薄いベージュの口紅を引きながらふと思った。

飛び起きる寸前まで甘く初々しい気持ちを感じていた。

其れは昔懐かしい初恋を思い出す夢を見た、からだったか。

「…ま、みやくん」

私の全てに刻み込まれている人の名前を呟く。


北森 愛恵──あの15歳の甘いひと時から一気に十年の年月を経て得たのは、地味さが益々進化した仕事をするしか能のない枯れ果てた姿──だった。

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樹野 花葉

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