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*AriaLien Sub BLOG*

◆三角の天辺

三角の天辺 6話



「──知っているよね?俺の事」
「……え」

五條さんに連れて来られたのはサークルの部室だった。

今日は活動を急遽休みにして人払いをしたという。

おまけに恐ろしい事に鍵まで閉められてしまって、ある意味密室状態の中でいきなりそう切り出された。

「数日前、君、この部室の前で聞いていたよね?」
「え…えっと…何の事でしょう」
「俺が告白されていたのを」
「…せ、先輩なら沢山告白、されるんでしょうねぇ…」

苦し紛れに応対していると徐々に紳士的だった五條さんの口調は荒くなって来た。

「此処数日おまえを監視して来たけど誰に云い触らす訳でもなく、なんかひとりで抱え込んで悩んでいる風だったから声を掛けたんだが」
「え」

急に五條さんが私の左肩をバシンと強く叩いた。

「痛っ!」
「わざわざ自分から悪い気を呼び込むんじゃねぇよ!」
「?!」

其の瞬間、此処数日ずっと感じていた不快感が無くなった。

「え…えっ?」
「なんでおまえはひとりで抱え込むんだよ。云いたかったら云えばいいじゃねぇか。大した事じゃないだろう?おまえにとっては俺の事なんて」
「…」

先輩が何を云っているのか解らなかった。

「自分に関係のない秘密を後生大事に抱え込むんじゃない。云いたい事があったら云えばいい。いちいちなんでもない事に振り回されているんじゃねぇよ」
「…あの、一体何の事を…」
「──おまえの親父さんがずっと不安そうな顔してんだよ」
「!」

其の瞬間、ふわっと暖かい気配に包まれた気がした。

「おまえの親父さん、亡くなっているだろう?…不幸な事故で、訳の解らない内に亡くなっている」
「…あ…あっ」
「長い年月をかけてやっと自分がもうこの世からいなくなっているんだと気が付いて、あの世からも迎えが来てるっていうのにおまえの事が心配で行くに行けねぇんだってよ」
「…な、何…其れ…」

突然先輩が話し出した事が全く理解出来ない。

だけど其の言葉はあまりにも私の中にガンガン入り込んで来て、ただなすがままに聞いているしかなかった。

「愛する人を見つけて幸せになってくれ──だとよ」
「!」
「おまえ…今まで誰かを好きになった事がないのか」
「な、な、んで…」
「だから親父さんが云ってんだよ。自分のせいで不幸になっている娘が心配で成仏したくても出来ないって」
「……」
「人を愛する幸せをおまえにも知って欲しいって云っている」
「や…厭だ!何も云わないで!」

どうしてこの人がいきなり私の事を知っている様な事を云いだしたのかは全く解らない。

だけど今の私にはただ長い間固く決めて来た事を父の言葉を借りて否定された事が哀しくて…

「何も、何も知らないくせに!お父さんを…亡くした気持ちなんて解らないくせに…もう、もうあんな思いをするのは厭!好きな人を…家族を失う悲しみはもう味わいたくない!」
「…」
「だから私は好きにならない、誰も…誰にも恋しない!」
「馬っ鹿じゃねぇの」
「!」
「失うのが怖いから恋しないって、本っ当馬鹿だ」
「…」
「おまえは、とんでもない間違えをしている」

最後にそう云った五條さんは少しだけ哀しい目をして私の背後に視線をやった。

其処で黙ってしまった。

「…あ、あの」
「…」
「五條、さん?」
「…」

真っ直ぐ目を見開いて微動だにしない五條さんが心配になって、其の体を揺すろうとした瞬間

「──行ったぜ」
「…え」
「親父さん、あの世に」
「!」

其の言葉を聞いたら何故か自然と涙が出ていた。

ボロボロと、後から後から止め処なく溢れる涙が何故か心の重荷を減らして行く様な感覚をもたらした。

「おまえは悪い霊に憑りつかれやすい体質だ。今までは親父さんが護って来たみたいだけど其の親父さんがいなくなった今、仕方がないから俺が代わりに祓ってやるよ」
「…」
「俺が同性愛者だっていう事も云い触らしたかったら云っていい──まぁ、別にそんな事で俺はちーっとも困ったりしないけどな」
「…」
「俺の機嫌がいい内はおまえの事を護ってやるけど…そうだなぁ、俺の機嫌が損なった時は…どうなるんだろうなぁ」
「…」
「あ、おまえは何も心配しなくていいぞ。今まで通り、其のままで、色恋沙汰に関心がないなら其のままでいいぞ」
「…」


自称、陰陽師体質だという五條さんになんとなく弱みを握られ、いい様に構われる事になったのはこの時からだった。


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三角の天辺 7話



あの妙な一件があってから、私と五條さんの奇妙な関係は始まった。


「えっ!ほ、本当に陰陽師、なんですか?」
「俺が、じゃなくて実家がな。昔、平安時代に名を馳せた偉い陰陽師の流れを汲む一族の本家なんだよ」
「…へぇ」
「おまえ、反応薄いな」
「だってよく解りませんよ…陰陽師っていわれても」
「まぁ、そうだわな。普通に暮らしていればそんなものとの関わりなんてないんだから」
「…」

何かにつけて私を構う様になった五條さんは徐々に自分の事を話す様になった。

実家はとても大きな屋敷でお金持ちだという事。

自分は本家の人間だけど三男だから好き勝手させてもらえているという事。

物心がついた頃から恋愛対象は男だったという事。

「なんでか解らないけど、たまに本家筋にはそういう人間が出るみたいなんだよ。其れは昔の家系図とか書き残されている文章にあって、うちでは大した事じゃないんだ」
「五條さんが同性愛者だっていう事、家族みんなが知っているって事ですか?」
「あぁ。まぁ、跡取りがそうだったら大問題になるんだけど、其れ以外の子どもに関しては大雑把な家でな。五條の名前に泥を塗らない程度の事なら黙認されているんだ」
「…」

なんだか別世界の話を聞いているみたいだった。

「俺は小さい時から幽霊とかっていうのが見えててさ。もう日常茶飯事過ぎて驚きもしないけど、たまにそういうのが鬱陶しくなるからちょっと修行してコントロール出来る様になったんだ」
「へぇ」
「割と自由に祓ったり憑かせたり、都合よく動かしている。其れによって俺は日常生活を過ごしやすくしている」
「そ、其れって…凄い事なんじゃないんですか?」
「そうかもな。でも…本当は要らないよな、こんな能力」
「…」

五條さんという人は自分の不遇を努力でないものにしようとしているのだと解った。

其れで少しは強引で傲慢な性格も仕方がないのかなと思う様になったのだけれど…

「好きな奴を振り向かせる能力の持ち主だったらなぁ…あいつを一瞬で虜にしてやるんだか」
「…」

(やっぱりよく解らない人だ、五條さんって)

たまに一緒にご飯を食べたり、私に憑りついた悪い霊を指一本で祓ってくれたり、いい処だと云いながら怪しげなお店に連れて行かれたり…

何かにつけて私を意地悪く構う五條さんが、一度だけ弱い面を見せた事があった。



「五條、さん?どうしたんですか」
「…」

大学を卒業して入社が決まった私がひとり暮らしを始めた頃、いきなり五條さんが私の住むアパートに来た。

引っ越しの手伝いをしてもらった事からアパートの場所を知っていた五條さんだったけれど、連絡もなくいきなりアパートに来たのは初めての事だったのでとても驚いた。

「雨降っているのに傘もささずに…びしょ濡れじゃないですか。とりあえず中に入って──」
「…倒れたって」
「え」
「あいつ…真裕が倒れたって…連絡が」
「まひろ…?って誰、ですか」
「…」

其の時初めて私は五條さんが想いを寄せる人が生瀬 真裕(イクセ マヒロ)という名前の男の人だと知った。

小学校からの同級生で、ずっと想いを寄せて来た人だった。

高校進学でお互い離れてしまったけれど、時間が合えばいつも遊んで、時には真裕さんの恋愛の相談を受けた事もあったそうだ。

其の度に五條さんは秘めた想いを押し殺して、純粋に男友だちとしてアドバイスして来たという。

そんな想い人の真裕さんが突然倒れたとメールが入り、気が動転したのだと云った。

「真裕が…真裕が…」
「五條さん、落ち着いてください!連絡って誰から来たんですか?」
「──え」
「真裕さんのご家族からですか?倒れたって他には何が書かれていたんですか?」
「…」

茫然としていた五條さんは、握りしめていたスマホを私に見せた。

「…」

其の画面を観た私は、少し冷静になって五條さんに話し掛けた。

「五條さん、これ真裕さん本人からのメールですよね?【急に胸が苦しくなって倒れた。 救急車で運ばれて検査入院する事になった。 あー明日合コンの約束あったのに行けないじゃん!】って書いてありますよ」
「…」
「ちゃんと最後まで読んだんですか?今の処大丈夫そうじゃないですか、安心してください」
「……あ」
「!」

急に五條さんが私に抱き付いて来た。

「ちょ、ちょっと五條さん!離──」
「よ、よかった…よかった、よかったぁぁぁぁ」
「…」

ギュッと抱きしめられた体から五條さんの体が震えていたのが解った。

(五條さん…そんなに?)

どうやら五條さんは最初の行を読んだだけで気が動転したみたいだ。

文章を最後まで読まずに、動転したまま私の元に来たという訳だった。

「よかった、よかった…真裕、よかった…」
「…」

五條さんの濡れた体を抱きしめながら私は思った。

いつもは強くて偉そうで怖いものなんて何もないみたいな五條さんでも、好きな人からのひと言ではこんなに脆く弱くなってしまう。

(やっぱり…恋は怖いものだ…)

私はこういう事が怖くて恋が出来ないでいるのだと──

(お父さん、ごめんね。私にはまだまだハードルが高そう)


いつか五條さんから通じて知った亡き父の想いを考えると少し申し訳なく思ったのだった。


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三角の天辺 8話



「あ、五條さん、私お手洗いに行って来てもいいですか」
「行って来い、病室で待ってる」
「はい、205号室ですね」
「ん」

ある日の休日、私は五條さんに連れられてとある病院に来ていた。

五條さんの想い人である生瀬 真裕さんが検査入院という形で病院に行くのは一度や二度ではなかった。

最初のあの雨の日から半年も経たない今までに何度か訊いた話だった。

私は五條さんの話だけの生瀬さんしか知らない。

五條さんが私を生瀬さんに逢わせてもいいと思ったのは、多分私が五條さんの本当の気持ちを知っていて、そして自分の隠しておきたかった弱い部分を見せてしまった相手だから。

好きな人を前にしてどういう態度を取ってしまっても、私の前でだったら気兼ねなく出来るという思いからなんだろうと思った。

(応援…してあげたいけど…)

五條さんの話を訊く限り生瀬さんは普通に異性が好きな男の人だ。

自分に対する五條さんの気持ちが恋愛の其れとは微塵も感じていないのだろう。

(う~ん…見事なまでの片想いだよね)



手洗いを済ませて病室に向かう途中、自販機が置かれたスペースで男の人が屈んでいた。

(あの人…もしかして気分が悪くなったんじゃ)

私は慌てて屈んでいる人に駆け寄った。

「あの、大丈夫ですか?」
「え」

パジャマ姿の其の人は、声を掛けた私の方を向いた。


其の瞬間


(!)


「あぁ、すみません、大丈夫です。小銭を落としてしまって…自販の下に入っちゃったみたいで」
「…」
「もう少しで取れそうなんだけど手の甲がつっかかって」
「…」
「──あの」
「……あっ!こ、小銭?この下、ですか?」
「はい」
「ちょっと、待ってください…」

私は床に這いつくばる形で狭い隙間に掌を差し込んだ。

「──ん、あ…あった」
「届いた?!」
「届きました、はい、10円」
「ありがとう!いやぁやっぱり女の子の手って華奢でいいなぁ」
「!」

其の人は私の手を取って汚れた部分を自分の掌で擦り合わせて取った。

「汚れてしまったね、手、洗いに行きましょう」
「い、いえ、あの、大丈夫です。私ひとりで」
「そんな事云わずに付き合わせて下さいよ」
「…」

(なんだろう、先刻から胸がドキドキする)

初めてこの人の顔を見た瞬間、私の中に電撃が走った。

痺れる位痛くて、でもじんわりと甘く、ジンジンする疼き。

(何、なんなの…これ)

私が手を洗い終わるまでを見届けた其の人は「あぁ、ハンカチ!此処でさり気なく出せたらカッコいいのに!」と云いながら悔しそうにした。

私は笑いながら自分のハンカチで手を拭いた。



「本当にありがとう。助かりました」
「いえ、大した事じゃないですから」

手洗いを終えた私は、自販でジュースを買った彼の手伝いをしようと5本の内2本を持って一緒に廊下を歩いていた。

「今から友だちが来るから何本かジュースを買っておこうと思ったんだけど、初っ端から10円落としちゃって」
「お友だち?」
「そう。あ、君も誰かのお見舞いに?」
「あ、はい。私は付き添いで──」

「真裕」

(え)

「おぉー幸(ユキ)もう来てたんか」
「おまえら、なんで一緒に居るんだ」
「へ?おまえらって?えっ、え?」
「…五條、さん」
「えっ!君、幸の連れだったの?」

「…」
「…」


この日、初めて五條さんの想い人である生瀬真裕さんと逢った。


そして其の出逢いは私の後の人生を大きく変える出逢いとなるのだった──


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三角の天辺 9話



ちょっとしたハプニングから出逢った生瀬真裕さん。

「真裕って呼んでよ、澪ちゃん」
「えっ」
「…真裕、おまえ初っ端から軽いぞ」

病室に居なかった真裕さんを探しに廊下に出た五條さんと私たちは逢った。

其のまま病室に戻って、真裕さんから差し出されたジュースを飲みながら歓談していた。

「いやぁ~まさか幸にこんな可愛い後輩がいたなんて…おまえ、ちっとも俺に女の子関係紹介してくれないから実はモテないのかなって思っていたけど…そっか、隠していた訳か」
「隠していないし、こいつは可愛いくもない」

(可愛くなくてすみませんね!)

憮然とした表情で云い放つ五條さんの言葉にいちいち心の声で突っ込む。

「幸、何云ってんの?!滅茶苦茶可愛いじゃん!おまえ、いつから目が悪くなった?眼鏡作って来い」
「煩い。ってか、おまえ、滅茶苦茶元気じゃないか。本当に病気か?」
「だから大した事ないっていつも云ってるじゃん。たまーに胸が苦しくなって、其の時は死ぬほど辛いだけなんだよ」
「…」
「だけど入院した途端、痛くならないんだもん。元気其のもの!」

真裕さんは私と五條さんの前で両腕を上げ力こぶを作る。

(あ…)

其れを見た五條さんが、ほんの少し顔を赤らめたのが解った。

(うわ…五條さん、真裕さんの素肌の腕を観ただけで赤くなっちゃうの?)

いつも五條さんの顔を見ている私。

其のほんの少しの変化も何故か解る様になっていた。

「ったく、そんなに元気ならもう帰るぞ」
「えっ!来たばかりじゃん、もう少しいてくれよ~」
「…」
「ねぇ、澪ちゃんは幸と同じ会社に勤めているんでしょう?こいつ、厳しくない?」
「え?あ、あの…」
「…」

私が素直に答えようとすると、横から無言の圧力を感じた。

『余計な事云うんじゃねーよ』

という心の声が其の目力に込められている。

「…仕事に関しては厳しい…ですけど、でも其れは私が至らないから、私のためを思っての厳しさだと思っています」
「ほぉ~澪ちゃんって幸の厳しさをそう思うんだ。偉いねぇ」
「いえ、そんな…」
「…」

フイッと私から視線を外した五條さんは無言だった。

(やっぱり好きな人の前で自分の事、色々云われたくないよね)

「あの、真裕さんはお仕事、何をされているんですか?」

私は思い切って話題を変えた。

「俺?俺も会社員だよ。広告代理店に勤めている平社員」
「平社員って…じゃあ私もそうです」
「いやいや、澪ちゃんに平社員って言葉は似合わないなーどっちかっていうと──」

ガタッ

「あ」

急に隣の五條さんが立ち上がった。

「悪い、俺、先に帰るわ」
「え、何だよ幸、つれないなー」
「この後約束があるんだよ」
「え、何、もしかしてデート?」
「──そうだよ。だからおまえはこいつと話してろ」
「あ、いえ、私も帰ります」
「えぇー澪ちゃんまで?!ヤダヤダ、せめて澪ちゃんはもう少しいてよー」
「…え、で、でも」

チラッと五條さんに視線を合わせると無言で合図された気がした。

『もう少し相手してやれ』

(いいのかな…私、まだいても)

そんな事を考えている間に五條さんはあっという間に病室を出て行ってしまった。

「…五條さん」
「放っておいていいよ。いつもあんな感じなんだ」
「え」
「俺が女の子と話しているとさ、いつもああやって不機嫌になって帰っちゃうんだよ」
「…」
「なんでか解らないけどさ。でも俺からいわせてもらえば幸の方が女の子にモテてさ、いつも告白されるのに断ってばかりで其れこそ羨ましいぞ、この野郎!と俺の方が不貞腐れたい感じなのにさ」
「…そう、ですか」

少し哀しくなった。

五條さんの本当の気持ちを知らない真裕さん。

燃え上がるほどの五條さんの思慕は、真裕さんに勘違いされて其の関係を危うくしている。

「幸が俺に親しくしているって紹介してくれた女の子は澪ちゃんが初めてなんだよね」
「そう…ですか」
「澪ちゃんと幸って…本当にただの先輩後輩って関係なの?」
「え、えっと…はい、先輩後輩という関係だけ…です」
「だけどただの後輩を同じ会社に呼ぶかなぁ」
「そ、其れは…色々…」

なんだか私が真裕さんの質問に答えれば答える程、五條さんと真裕さんの微妙な関係を崩しそうで怖くなった。

(あぁ…なんだかもどかしいな)

正直、五條さんの事を抜きにしてただ純粋なお喋りをしたいなと思った。

もっと真裕さんの事を話して欲しい。

(彼女って…いるのかな)


今まで考えた事がない様な事を思ってしまっている私に戸惑いながらも、この時間の生温さに浸っていたいと思う私だった。


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三角の天辺 10話



あっという間に恋に落ちる──そんな事、ある訳がないと思っていた。

そもそも私は一目惚れを信じない。

した事もなかったし。


(なのに…あの瞬間)


屈んでいた彼が顔を上げ、私を見つめた瞬間受けた衝撃は物凄かった。

私の中で今まで感じた事がなかった衝撃が一瞬で駆け抜けた。

甘い疼き、傷み、そして


(ときめき…)


人は其れを一目惚れ──というのだろうか。





「…まいったなぁ」
「何が」
「!」

仕事場のデスクで呟く様に出た言葉を目敏く拾った人──其れは当然

「ご、五條さんっ」
「何慌てているんだよ。発注書持って来たんだけど」
「あ…は、はぃ」

衝撃的なあの休日から一夜明けて、またいつもの平日がやって来た。

朝起きて会社に行くために身支度をした。

電車に乗って会社に着き、そしていつもの業務に精を出す。

そんな当たり前の日常なのに、何故か今日は今までとは違う感じがした。

「──おまえさ」
「え?」

私に書類を手渡しても其の場にいた五條さんがいつも以上に不愛想な顔をして云った。

「真裕と何かあったか」
「!」

(と、唐突に何を云うかと思ったら)

【真裕】という名前を出され一気に顔に熱が集まった。

「…」
「あ、あああ、あの…」

初めての動悸に焦る私は上手く言葉が出ない。

そんな挙動不審の私を一瞥して五條さんはフイッと離れて行ってしまった。


(あぁ…ダメだ、絶対バレている)


こんな私は初めてだ。

ほんの短い瞬間、刹那で私の信念は変わってしまった。

絶対人を好きにならない。

失う悲しみが待っている結末を私はあえて選びたくない。

(ずっとずっとそう思って来たのに…)


──其の気持ちは11年であっという間になかった事になってしまった





業務が終わり、携帯をチェックするとメールが届いていた。

五條さんからだった。

【19時にいつもの居酒屋で待つ】

(いつもの居酒屋…)

たまに五條さんに付き合ってお酒を飲む事があった。

場所は大抵五條さん行きつけの居酒屋で中々雰囲気のいい処だ。

(多分真裕さんの事…だよね)

このタイミングで誘われたという事は其れしか考えられなかった。






「いらっしゃいませー」

雑多な店内を進むと直ぐに五條さんを見つけた。

(なんでだろう、五條さんって人混みの中に居ても直ぐに見つけられるんだよね)

顏がいいというだけではなく、なんとなく醸し出す雰囲気が他の人の其れとは少し違っていて、ただ座っているだけでも目を惹く魅力というのが五條さんにはあった。

そんな雰囲気に周りの女性は熱を上げるのだけれど、残念ながら五條さんにとっては其のモテ要素は無用の長物だった。

(勿体ないなぁ…本当)

「何ボサッと突っ立っている。座れ」
「あ、はい、失礼します」

考え事をしながら進んでいた足は五條さんの座る席の手前で止まってしまっていた。


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