(また昨日も有耶無耶になっちゃった…)


気怠い体を起こし、ひとりきにりなった部屋の中をぼんやりと眺める。 

天眞の様子がおかしいと思いながらも、其の確固たる自信は天眞に抱かれる度に薄く消え入りそうになる。

(私と結婚する事が厭って訳ではなさそう)

そもそもプロポーズをして来たのは天眞からなのだから其の理由は除外していい。

(結婚式を挙げる事に抵抗がある?)

其の点も昨夜の天眞との会話からは妥当な理由ではなかった。

其れ処か天眞はピロートークで「金の心配は要らないから凛子がいいと思った式場を探せ」と云ってくれた。

(じゃあ何が不満なのよ!)

私と結婚するのが厭じゃない。

式を挙げる事にも異存はない。

──でもいざ結婚に向けて具体的な事を決めようと詰め寄ると途端に心此処にあらずみたいな態度を取る


「気のせい…じゃないよね」

ボソッと呟く様に吐き出した言葉。

なんだか心に重い鉛が鎮座しているみたいだった。


軋む体を奮い起こして居間に行くといつも通り天眞が作ってくれた朝食とメモがあった。

(あぁ…いい加減私がちゃんと家事をこなさないとな)

ある程度の家事はこなしているけれど、どうしても朝食の支度だけは未だにした事がなかった。

其れは天眞による毎晩繰り広げられる濃厚な行為のせいで私が朝早くに起きられない──という理由があるからなのだけれど…

(よく考えるとこの理由ってかなり恥ずかしいよね)

どうしても夜の事を考え反芻すると体がカッと熱くなる。

「水、水を飲もう!」

火照った体を冷やすために台所にやって来ると其処であるものが目に入った。

「えっ、これって…」

調理台に置かれていた包みを見てギョッとした。

「これ、天眞のお弁当だよね」

其れは天眞が自分で作っていつも会社に持って行っているお弁当だった。

「やだ、忘れちゃってる」

時計を見ると9時を少し回った処だった。

この時間なら掃除や洗濯といった家事を済ませてから会社に届けてもお昼には間に合うなと思い、私は早速朝食を摂り始めた。


私は天眞の会社に行った事がなかった。

まだ天眞の暴君モードが日常的になる前に一度行きたいと云ったら『お嬢様がいらっしゃるような処ではありません』

と頑なに行く事を拒否されていた。

其の時はそうなんだと思ってやけにあっさり引き下がったけれど…

(家以外での天眞ってどんな感じなんだろう)

最近ではそういう欲求が湧き上がっていた。

(天眞の色んな顔が見てみたい)

其れは純粋な欲求だと思う。

だからこれは丁度いい機会だと思ったのだ。



「…よし、これでいいわね」

姿見で念入りに身だしなみのチェックをする。

(天眞の婚約者として恥ずかしくないようにしないとね)

この家に来てから天眞に買い与えられた服で一番お気に入りのワンピースを身にまとい私は少しだけ浮かれ気分で家を後にした。

天眞の会社【リンテン】の住所は知っていたので携帯で場所を検索して行き方を確認した。

最寄り駅から電車一本で行けるので近いと思っていた。

ただ会社の最寄駅から徒歩10分というのはちょっときつかった。


「はぁ…疲れたぁ…」

普段歩いていない運動不足が祟って思う様に進む事が出来なかった。

「えーっと…この花屋を左に曲がって…」

携帯を見ながら場所を確認していると急にメールの着信が入った。

差出人は天眞。

私は驚きながらもメールを開くと

【台所に弁当があるだろう?持って行くのを忘れたから凛子が食べていい】

と書かれていた。

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