『はい、僕は十和子ちゃんの事が気に入っています。是非妻として迎えたい』

尊臣さんの其のハッキリとした意思表示に私は面喰っていた。

(なんで…何で其処までキッパリ云えるのよ)

「おまえが其処まで云うのなら私の目に狂いはなかったという事だな」
「勿論です。誰が父さんの決めた事に反論出来ますか。心の中では最初から受け入れていましたよ」
「よう云うたわ。しかし式を使うとは…やり過ぎではないか」
「其れはまぁ…生活の張りというか潤いというか」

(ちょっと…ちょっとちょっと)

「ちょっと待ってください!先刻から何の話をしているんですか!」

私は思わずふたりの話の間に割って叫んだ。

「これはこれは…自己紹介が遅れましたな。十和子さん、私がこの五條家現当主の五條忠臣です。其処の尊臣の父です」
「あ…は、はい…あの、安部…十和子です」

不躾な云い方をしてしまった私に対して五條忠臣さんという人はとても丁寧に挨拶してくれた。

多分、とても偉い人なんだろう人からそういう態度を取られると思わず恐縮してしまって先刻までの威勢がなくなってしまう。

「ふむ…まこと健やかにお育ちになりましたなぁ…」
「はぁ…?」

なんだか繁々と見つめられ、そして何故か感慨深い表情を浮かべた。

「これは…私でも少々キツい放出だな──おまえは平気なのか?」
「えぇ、逆に今まで失っていた分を僅かですが補給させていただいています」
「其れは…よほど相性がいいのだろうな」
「ですね。先ほど輝臣と幸臣が一目見て慌てて逃げ出しました。もう可笑しいのなんのって」
「ははっ、そりゃあの子らにはキツ過ぎるだろうな──なるほど…申し分ないな」
「はい」

(また私には解らない話を…)

チラッと母を見るとやけにうんうんと頷きながらふたりの話を訊いていて、なんだか私ひとりが蚊帳の外にいるみたいで居心地が悪かった。

「十和子ちゃん」
「!」

不意に肩に触れた温かな掌にドキッとした。

「ほったらかしにしてすみません──少し場所を移しましょうか」
「え」

尊臣さんにそう云われて手を引かれた。

「尊臣、無体な事はするではないよ」
「肝に銘じています」

にっこりと微笑みかける尊臣さんにやっぱりドキッとする。

「十和子、お母さんは忠臣さんとお茶しているから。ゆっくりね」
「え…えぇ~っ」

母にもにこやかに送り出されて何とも妙な気持ちになったのだった。




尊臣さんに連れられて来たのは母屋から離れた平屋の建物だった。

「此処は…」
「僕の住まいです」
「えっ…住まいって…」
「母屋とは別に居を構えているんです。とはいえ狭い1LDKですが」
「…」

マンションの一室が一軒家であるって感じのちいさな家だったけれど、其れでも庶民の私からみれば其れは凄いなと思う事だった。

中に通された私はリビングを見てまた驚いた。

「あ…洋風、なんですね」
「あぁ、意外ですか?まぁ外観はまるっきり和風の作りでも中は洋風というのはギャップがありますか」
「其れもあるけど…なんだか尊臣さんのイメージからてっきり畳のお部屋かと」
「普段の仕事が和式だからね。せめて家では楽にしたいなと思ってソファを置いたりベッドで過ごしたりしているんですよ」
「そうなんだ…ちょっと意外だったから驚きました」
「ふふっ、見かけがこれでもごく普通の一般の人と同じ生活をしているよ」
「…」

案外私たちと変わらない生活をしているのかなと少しだけそんな処が見えた事に安心した。

初めて見た時、なんだかとても遠い存在の人──ってイメージが強くて気後れしていたから。

「十和子ちゃん、紅茶でいいかな?其れともジュースの方が」
「あ、紅茶でいいです」
「そう、じゃあソファにでも座って寛いでいて」
「はい…」

お言葉に甘えてソファに座って其の辺りをキョロキョロ見渡していた。

物が少なくて小奇麗にしている内装はよく云えばさっぱりしていて、悪く云えば無機質な少し温度の低い印象を受ける。

(なんだろう…また少し肌寒いなぁ)

思わず掌で体を擦った。

「十和子ちゃん、寒い?」
「あ…」

トレイを持ってリビングに戻って来た尊臣さんが私の隣に座ってそっと肩に手を置いた。

其のまま流れる様な動作で尊臣さんは私の体を抱きしめた。

(えっ…!)

「ちょっとごめんね。少し我慢していて」
「…」

尊臣さんに抱かれる事数十秒。

其の間、なんだか私の体から細い糸がまかれる様な感覚がした。

(な…なんだろう…この妙な…感じ)

妙──ではあるけれど、決して不快なものではなく、見えない細い糸がスルスルと体の中から巻き取られる様な…

(あぁ、なんて表現したらいいんだろう)

そんな事を考えているとスッと尊臣さんは私から離れ、そして立ち上がって部屋の四隅に順に立って何かをしていた。

「…あの、尊臣さ」
「ごめんね。ほんの少しだけお喋り待ってもらっていていいかな」
「あ…はい」

後ろ向きのまま紡がれた声が柔らかいものの中に少し厳しさが混じっているのを感じて私は黙った。

全ての角を回る間、私はジッと尊臣さんの後姿を眺めていた。

(綺麗な人は後ろ姿も綺麗なんだなぁ)

なんて呑気な事を考えてしまっていた私だった。

wu150
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