「なぁ、尊兄の婚約者っていくつ?」
「確か…もうすぐ16歳になるって云っていたかな。この春高校に入学したそうだから」
「ゲッ、そんなに若いんか。え…尊兄って今年…」
「34」
「おいおい…其れって犯罪じゃないか?!いくらなんでも18歳差って…」
「いいんじゃないか?うち、特殊な家だし。跡取りの嫁は昔から年齢容姿家柄重視じゃなくて──」

「噂話は其処ら辺にしておきなさい」

「「!!」」

母屋に連れて来られて長い廊下を歩いていると話し声が聞こえて来た。

尊臣さんと私はしばらく足を止めて立ち訊きするような形になってしまったのだけれど…

(え…跡取りの嫁って…私の事…?)

『跡取りの嫁は昔から年齢容姿家柄重視じゃなくて──』

(其の後、なんて云おうとしていたんだろう)

肝心の処を訊く前に尊臣さんは話声がしていた部屋に入って行った。

「輝臣も幸臣もいい歳をして下世話な話をするんじゃないよ」
「あ、兄貴…笑顔が怖いよ」
「尊兄、俺、別に悪い事云ってないよ…うん、云ってない」

(中にいるの…尊臣さんの弟さんたちなんだ)

尊臣さんは三人兄弟の長男だと訊いていた。

次男のてるおみさん、そして三男のゆきおみさんはもう其々家庭を持っていて此処には住んでいないとも。

「十和子ちゃん、入っておいで」
「!」

廊下に佇んでいた私は尊臣さんに呼ばれおずおずと部屋の中に入った。


──瞬間


「わっ!」
「ゲッ!」

(わぁ…凄い、この部屋の中に美形が三人揃っている!)

と私が心の中で驚くよりも先に聞こえた、尊臣さん以外のふたりの男性の驚きの声にビックリした。

「…凄…っ…何、この子…」
「ちょ…ヤバっ…重い…」

ふたり共なんだか驚き顏から苦痛に満ちた顔つきになった。

「え?…あ、あの…」

訳が解らない私はポカンとしてしまう。

「十和子ちゃん、心配要らないからほら、僕の隣に座って」
「…はぁ」

尊臣さんに云われて私は懼る懼る尊臣さんの隣に座った。

広い和室に鎮座する立派な一枚板のテーブルを挟んで向かい側の弟さんふたりを見つめる。

すると

「ちょ…ごめんね、オレ、席外すよ」
「お、俺も!ちょっと──」

「…」

そんな事を云ってふたりはバタバタと部屋から出て行ってしまった。

(え、えっ…どういう事?!)

訳が解らなくてまたポカンとしていると隣からくくっと押し殺した様な笑い声が聞こえた。

「え」
「ふっ…あのふたりが…脱兎の如く逃げ出したよ…くくっ…あぁ愉快だなぁ」
「…」

(何がそんなに可笑しいのかな?)

尊臣さんはしばらく肩を震わせながら笑っていて、私はただ其れを見つめるだけだった。


「十和子?」
「え…あっ、お母さん!」

部屋から去ったふたりと入れ替わる様に入って来たのは母だった。

「もぉ~急にいなくなったからビックリしたわよ」
「ごめんなさい。なんか…よく解らないんだけど気が付いたら…」
「僕の元に来てくれました」

(あ…元の雅な人に戻っている)

先刻まで其の麗しい顔を崩しながら笑っていた尊臣さんはもうきちんとした顔に戻っていた。

「まぁまぁ、尊臣さん、お久し振りです。あぁ…ご立派になられて…」
「恐縮です。まだまだ半人前でありますが」
「いえいえ、はぁ…安心しました。こんな立派な方に娘を嫁がせる事が出来るなんて…」
「えっ?!」

母の言葉に敏感に反応した私はテーブルをバンッと叩きながら反論した。

「ちょっと待ってよ、私、まだ結婚するとかって考えていないんだけど!」
「おや、そうなんですか?」
「!」

母に反論した言葉を受けて尊臣さんは少し表情を曇らせて呟いた。

「十和子ちゃんは僕が相手では不服──という事ですか」
「あ…い、いえ…ふ、不服とかってそんな…」
「だって僕の処にお嫁に来るのは厭、なんですよね?」
「あ、あのですね…よく知りもしない人の処に『ハイ、お嫁に行きます』なんて直ぐに承知出来る訳ないですよね」
「…」
「尊臣さんだって…私の事をよく知らないでしょう?そもそも逢ったのだって私が1歳にも満たない赤ちゃんの頃の一回きりで」
「いいえ、僕の方は十和子ちゃんの事をよく知っていますよ」
「……は?」

(どういう事?)

「尊臣、おまえ──式を使っていたのか?」
「!」

いきなり聞こえた重厚な低音ボイスに戸惑っていた私はドキッとした。

「父さん──えぇ、使いましたね」

(えっ!父さん…って事はこのお屋敷で一番偉い人?!)

「全く…油断も隙もないな、おまえは」
「当然でしょう?未来の妻がどの様な女性なのか、どのように育っているのかが気にならない男はいないでしょう」
「…まぁ、多少強引ではあるが其処までの事をして尚、今回この席に文句も云わずに出たという事は」
「はい、僕は十和子ちゃんの事が気に入っています。是非妻として迎えたい」

「??!!」


なんだか私の知らない処でドンドン話が進んで行き、もはやいちいち驚きの声を発する事すら忘れてしまっていた私だった。

wu150
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