『凛子、結婚してください!』

確かにそう、天眞は云った。

「…え、え…?」
「凛子、俺と結婚して欲しい」
「ど、どうしたの…い、いきなり…」

このいきなりのプロポーズに戸惑っていた。

勿論厭という気持ちからではなく、どうしてこのタイミングで──と思って。

「…返事は」
「ど、どうしていきなり今、このタイミングなの」
「…」
「其れ、教えてくれなきゃ…答えられない」
「…お嬢様が…名前で呼んでと仰ったので」
「──は?」

(というかまた『お嬢様』に戻っているし)

「昨日お嬢様が名前で呼んで欲しいと云いました」
「云ったわね」
「其れで…考えました」
「何を」
「俺は何故お嬢様を名前で呼べないのかと」
「…」
「答えは──ごく簡単でした」
「何」
「俺はお嬢様を名前で呼んだら…もうお嬢様扱い出来なくなってしまうと思って、だから呼べないのだと」
「!」

(や、やっぱりそういう事?!)

予想していた事を実際天眞の口から云われた事にガッカリしている私がいた。

──だけど

「お嬢様を名前で呼んだらもう……俺はお嬢様を完全に嫁扱いしてしまう」
「……へ」
「だってそうでしょう!俺が本当に望んでいた事は…お嬢様と俺の行く着く先は結婚で…其処には主従関係は発生しない」
「…」
「ただの愛する男女で…夫と妻という同等の関係になるのです」
「…」
「だから俺は…まだそんな…お嬢様に何も伝えていない状態ではとても名前呼びなど出来なくて…」
「…」
「でもお嬢様があんなに懇願して…名前を呼んで欲しいとお強請りされるから──俺は腹を括りました」
「!」

天眞が鞄の中から小さな袋を取り出し、其の中身を取り出し私の前に差し出した。

青いビロードのちいさな四角い箱を開けると其処には

「お嬢様、俺と結婚してください!」
「……」

箱の中でキラキラと光を放つ指輪と共に天眞から紡がれた言葉が私の目と頭と心の中にスッと入り込んだ。

「…お嬢…様」
「……名前」
「え」
「名前で…先刻みたいに名前で呼んで…云って」
「…」

最初に云ってくれた時は名前を呼んで云ってくれた。

「もう一度…ちゃんと云って」
「…凛子、俺と結婚してください」
「~~~はい!」

感極まってボロボロ流れる涙で視界がぼやけて天眞の顔がよく見えない。

天眞からのプロポーズを受けた其の瞬間、天眞はどんな顔をしたのだろう?

「ほ、本当に?本当に…俺と結婚、してくれるんですか?」
「する!…するに決まっているでしょう」
「~~~」

涙を拭って見た天眞の顔は今まで見たことがない、幼い子どもの様な表情を浮かべていた。

昔から欲しくて欲しくて堪らなかった宝物をやっと自分だけの物に出来た時の喜びの表情みたいな…

そんな印象を受けた。

「…あ」

天眞が指輪を私の指にはめてくれた。

其れは驚くほど私の指にピッタリとあてはまって驚いた。

「よかった、凄く似合っている」
「もしかして…この指輪を買いに行っていたから遅くなったの?」
「そう。でも買ったのは今日じゃない」
「え」
「本当はもっと前に買っていて指輪の大きさを調節してもらっていた。いつか渡せる時まで店の方で預かっててもらっていたんだ。其れを今日は取りに行っていただけ」
「そ、そうだったの?」

そんな事をしていただなんてと驚いてしまったけれど…

(なんだか先刻から…違和感が…)

「俺はもうずっと凛子との結婚を視野に入れて色々動いていたんだ」
「…」
「だから…やっとこの日が来た事を嬉しく思っている」
「…」
「名前だって、本当はずっと呼びたいって思っていたんだ」
「…」
「凛子を抱いている時はいつも心の中で名前を呼んでいた」
「…あ、あの…」

堪らなくなった私は天眞の話に割って入った。

「ん?何、凛子」
「て、天眞…く、口調が…」
「え」
「急に…其の、タメ口に…なったね」
「…」
「なんだか…いきなりで驚いちゃって…」

そう、天眞の話し方が今までのかしこまった云い方から砕けたものへと変わっていて驚いた。

すると天眞は私を優し気に見つめて其のまま押し倒した。

「!」
「云っただろう?名前で呼ぶという事は──こういう事だと」
「あっ」

首筋に天眞の熱い唇が押し当てられた。

「これを凛子は望んでいたんだろう?」
「ふ…ぅ」

紡がれる天眞の甘い囁きにゾクゾクとした快楽が競り上がって来る。

「──覚悟しろ、これからは容赦しないからな」
「~~~」

いつかの時の天眞の様な妖艶な表情を向けられ、私の中はあっという間に天眞で満たされてしまったのだった。


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