そうするんだと決意してからの私の行動は早かった。


「えっ…み、水穂?!」
「やっと逢えたわね、雄二」

「…」

此処数ヶ月頭を悩ませて来た悩みをハッキリさせるために私は強硬手段に出た。

幾らメールを打っても電話をかけても繋がらなかった雄二の元に、私は直接やって来たのだ。

嘘をついて早引けした其の足で雄二の会社まで赴き、そしてずっと退社する雄二を待っていたのだ。


19時過ぎに会社から出て来たのは雄二と

「其方どなた?」
「あ、あの、こ、これは…!」

雄二の少し後ろに小柄な女が立っていた。

慌てている雄二を見て事の顛末が一気に解り、そしてあっという間に熱が引くのを感じた。

「──どうしてさっさと云ってくれなかったのよ」
「…え」
「好きな子が出来たならなんでちゃんと云ってくれなかったのよ!」
「み…水穂…そ、其れは…」
「怖かった?別れ話を切り出したら私が駄々をこねて面倒な事になりそうだと思った?」
「…」
「甲斐性はないけど優しくて、私の云う事、する事に文句ひとつ云わずに付き合ってくれる処が好きだった」
「…」
「気が弱い処だって、私が引っ張って行けばなんの問題もないと思ってた」
「…」
「だけどね、堂々と二股掛けて平然とのうのうといられる位図太い神経しているなんて知らなかったよ!」
「…」
「私との三年という付き合いを自然消滅出来るって軽々しく考えたあんたの事を軽蔑する」
「!」
「さようなら──今までありがとう」
「み、みず」
「──其れからあなた」

「!」

雄二の後ろで私たちのやり取りをオドオドしながら見ている女に声を掛けた。

「金輪際私の事を考えないで。私はもうこんな男と何の関わりも持ちたくないし、好きだって気持ちだってないんだから」
「…」

まるで恐ろしいものを見たかの様に見開いた目を私は見た事があった。

(やっぱり…)

昨夜私を襲ったあの生霊の放った視線と今、目の前にいる女の其れは何処となく似通っていた。

ただ本人は自分が生霊を飛ばしている事には気が付かないのだと輝臣さんは云っていた。

(無意識に生霊を飛ばすほどに私の存在を気にして疎ましく思っていたって訳)

其れほどまでに雄二の事を好きでいるのなら、もうとっくに私の雄二への気持ちは彼女相手に負けていたのだ。

「じゃあね、お幸せに」

少し気を緩めると涙が出て来そうだったから私は慌てて踵を返した。

背中越しに聞こえた雄二の「水穂、ごめん…本当にごめん!」という言葉をまとって私は一度も振り返る事無くふたりの元から去って行った。




(何て事ない…これでスッキリしたんだから!)

ボロボロと溢れる涙を何度も手の甲で拭きながら闊歩する。

やがて霞む視線の先に見慣れた派手ないでたちを見つけた。

「…あっ」
「おかえり、水穂ちゃん」
「て、輝臣さん」

なんでこんな処に居るのだろうと思った。

「なんでこ──」

そう訊こうとした言葉は途中で途切れた。

「よく頑張ったね、いい子いい子」
「~~~」

いきなりギュッと抱きしめられて、また頭を撫でながらいい子いい子を連発された。

(なんで…なんで…)


なんでそんな事をするの?


なんでいつも気が付くと傍にいるの?


なんで


なんで…



「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
「よしよし、泣きなさい。うんと泣いて喚いてスッキリしなさい」

なんでまだ知り合って間もない、よく知りもしない人に全てを曝け出して任せてしまう事が出来るんだろうと不思議に思った私だった。

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