「ため息つくと幸せが逃げちゃうって訊いた事ない?」
「あなたは…」

私の前に居たのは、いつか結婚式の二次会で妙な事を云った茶髪のチャラ男だった。

(うっ…今日も派手な形(ナリ)してるっ)

神社の景観にあまりそぐわない胸元が大きく開いたシャツに黒いスーツを着込んでいる。

一見してホスト風情だ。

「──あぁ…濃くなっているねぇ」
「は?」

其の男性は私をジッと見つめて呟く様に云った。

(何を云ってるの、この人)

訳が解らない状況を問い質そうとした瞬間

「痛っ!」

其れはあっという間の出来事だった。

男性がいきなり私を抱きしめ、そしてバンッと強く背中を叩いたのだ。

「まぁ、とりあえず応急処置」
「い…痛…な、何、なんなの、いきなり!」

叩かれた背中が熱い位に痛んで息をするのが苦しかった。

「あぁ、痛かったね~ごめんね」

ニッコリと微笑まれてドキッと胸が高鳴った。

其れと同時にあんなに痛かった背中が何事もなかった様に戻っていた。

「え…あれ…」
「君、憑かれ易いから気をつけなさい」
「!」

(またあの時と同じ事を!)

疲れやすいとはどういうことなのか──と問い質そうとした私だったけれど、肝心の男性はスタスタ歩いて行ってしまっていた。

「あの!ちょっと」
「まったねぇ~水穂ちゃん」
「……え」

ヒラヒラと手を振って去って行った男性の捨て台詞にギョッとした。

(なんで…なんで名前!)

確かに最後、私の名前を云った。

(え…なんで知っているの?!知り合い?…いやいや、あんな派手な知り合い、いたら絶対忘れないよ!)

あっという間に見えなくなった男性の後を追う様に、私の視線は其処から中々動かなかったのだった。








「えっ、どうしたの?水穂」
「う゛~もう何が何だかぁ~」

参拝の後、私は親友の澪の家に来ていた。

澪とは中高大学まで、同じ学校に通っていた時から一番仲のいい友だちで、つい先日大学時代に私が入っていたサークルの2歳上の先輩と結婚した。

「大丈夫?なんだか顔色、よくないよ」
「あ~仕事が忙しくて疲れているのかな…澪だって大変なのに心配させちゃってごめんね」
「私は全然平気よ?仕事を辞めて今は専業主婦だから」
「今七ヶ月だっけ?二次会の時はあまりお腹目立たなかったけど…やっぱり出てるね」
「うん、急に大きくなったの。不思議だよね~」
「…」

ケラケラ笑う親友は沢山辛い事を乗り越えて来てやっと今、心から笑える状況になっていた。

そんな幸せな中にいる親友に私の事で要らぬ心配をさせたくないなと思った。

「ちょっと待ってて。今、お茶用意するから」
「あぁ、構わなくていいよ?──ん、あれって」

ふとリビングテーブルに散乱しているものが目に入った。

「あぁ、写真。今のうちに整理しようと思って広げていたの」
「結婚式の時の?ねぇ、見てもいい?」
「いいよ、確か二次会の時のもあったよ」
「式のが見たいよ。神社で親族だけで挙げてて私、見られなかったんだからさ」
「そうなんだよね。ごめんね、なんか五條家のしきたりとかで式は親族参加のみって事で来てもらえなくて」
「いいのいいの。由緒正しき五條家の結婚式なんだからそういうのは神聖なものなんだろうね」
「ふふっ、相変わらず神社とかお寺とか好きなんだね、水穂は」
「うん、写真で見られるだけでも嬉しい」

澪から訊いた話によると、当初は式を挙げず写真撮影だけで済ませたのだけれど、何故か急に五條家の方から儀式的な式だけは挙げた方がいいと打診され其れに納得、了承した澪は其れなら、と式に参加出来ない近しい友人たちのために二次会なるものを用意した──という事だったらしい。

嘘か本当か解らないけれど五條先輩が云うには

『真裕が澪の白無垢姿が見たいんだって親父の枕元でダダこねたらしい』

とかなんとか。

(…って冗談だよね?)

そんな事を思い出しながら一枚一枚感嘆のため息をつきながら写真を眺めた。

「…凄い…綺麗、澪」

白無垢姿の親友に紋付き袴姿の新郎である五條先輩。

ただでさえ美男美女のふたりがこの時は何倍も割増しになって輝いていた。

(其れにしてもこの…五條先輩のお父さんかな?袈裟が凄く豪華)

写真からでも充分伝わる独特の荘厳な雰囲気にドキドキして堪らなかった。

(えっ)

だけど其の神聖な気持ちからのドキドキはある一枚の写真を見た瞬間、違うドキドキに変わったのだった。

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