私、寺門 水穂(テラカド ミズホ)は順風満帆な人生を送って来た。

心躍る様な出来事がそんなにある訳ではなかったけれど、仕事も私生活も其れなりに潤っていて、私は私の人生を謳歌しているのだとずっと思って来た。


そう、思って来た──のだけれど


「君、憑かれ易いから気をつけなさいね」
「……は?」

中高、大学と長きに渡って親しくして来た親友の結婚式の二次会にていきなり初対面の男性にそう云われた。

(疲れやすい…ってどういう)

「おーいテル、次の店何処ー?」
「はいはい、地図送るから待ってて」

『てる』と呼ばれた其の男性は如何にも今時風といった茶髪のチャラチャラした優男だった。

だけど

(…ちょっとカッコいい、かも)

長身に細身の黒いスーツがとても似合っていて、一瞬惹き込まれそうになった。

(い、いかん、いかん!私には雄二がいるってーの!)

高鳴った胸を押さえる為に一生懸命此処にはいない彼氏の顔を思い浮かべた。

「本当気をつけて──じゃあね」
「あ、あのっ」

其の男性は其れだけを云って私の元からいなくなった。

(…何だったの?今の)

私の元を去った男性は数人の男女の集団の中に入って行った。

(五條先輩の友だち?勤めていた時の澪の同僚?)

私の知らない交友関係の中のひとりなのだろうかと思いながらも、まぁいいかと瑣末な出来事はあっという間に頭から消えた。

ただ

『君、疲れやすいから気をつけなさいね』

男性の其の言葉だけがやけに鮮明に頭の端っこには残っていたのだった──






パンパン!

「…」

手を合わせ、無心になって拝む。

(神様、そろそろ決着をつけたいと思うのですが)

神社の参拝でする様な願いじゃないのかも知れないけれど、どうしても願わずにはいられない。


大学で【徒歩圏内歩き旅サークル】というのに入っていた。

其のサークルは主に歩いて行ける神社仏閣を巡るという主旨のサークルで、昔からそういった場所に行く事が好きだった私は迷いなく其のサークルに参加した。

大学卒業後もそういった場所を散策するために時間を割く事がわりとあった。


「はぁ…」

ため息をひとつついて、参道横にあるベンチに座った。

大学を卒業してから一年。

運よく希望していた出版社に就職出来て、忙しいながらも充実した日々を送っていた。

だけどほんの半年ぐらい前から私生活はにわかにざわつき始めた。

「…」

手に取った携帯を操作する。

だけど先ほど観た時から画面はなんら変わりはなかった。

(雄二、なんで連絡くれないのかな)

大学時代から付き合っている彼氏の雄二から急に連絡が途絶える様になった。

同じ歳で証券会社に就職した雄二は私以上に忙しい日々を送っていると知っている。

だけどそんな中でも私たちは時間を合わせて逢ったりして恋愛を継続して来た。

だけど半年ほど前から急に雄二からの連絡が途絶えがちになった。

雄二からの『一年目の下半期はやたらと忙しくなるから今までの様には会えなくなる』という言葉を最後に此方から連絡をしても応えが来る事はなかった。

(なんだかなぁ…私だって忙しいけど雄二と逢うための時間は作るのに)

「はぁ~」

私と雄二とでは恋愛に対しての考えに温度差があるのかなと思うとため息しか出てこない。


「幸せ、逃げるよ?」
「え」

頭上から降り注がれる様に掛けられた声にハッとし、俯いていた顔を上げると其処には──

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