「だけどさ、いくら私が悪いからってわざわざ結婚式とか招待するかなぁ」

『あーそうだね、ちょっと其の神経は解らないけどね』

昔付き合っていた彼から届いた結婚式の招待状を手に私は大学時代からの友人のつぐみに電話で愚痴っていた。

「しかもウィーンで挙げる式に招待だなんて…信じられる?」

『其れ、もう風音が来ない事前提で出してるんじゃない?』

「え」

『彼にしたら今更なんて云って別れたらいいのか解らなくなったんじゃないの?だからさ、遠回しに結婚式の招待状を送りつけて其れで終わりにしたかったんじゃないの?』

「…」

『まぁ、真相は解らないけどさ』

「…うん…そう、だね」

私と彼の事をよく知るつぐみは確信をついた事を云う。

ダラダラとした関係が続いていた遠距離恋愛。

此処一年はもうほんの数える程しか連絡を取り合っていなかった。

自然消滅していたと私たちを知る人は云うかも知れないくらいの関係。

『彼にしたら風音に黙って結婚するのも、ハッキリと別れ話をするのも躊躇っちゃった結果なんじゃないのかな』

「…まぁ、気の弱い処あったからね」

『うん、そうそう。だからさ、後はもう風音の気持ち次第だよ。文句のひとつでも云いたいならウィーンに行くのもいいんじゃないの?』

「…」

(文句…かぁ)

確かに今まで中途半端な関係でいた事については文句のひとつも云いたい。

ちゃんと関係を終わらせていない状態で新しく彼女を作っていた彼に対しては憤慨する処もあった。

(…だけど)

彼をそんな風にしてしまったのは私のせいでもあるのかも知れない。

──だから

『おーい、風音?』

「つぐみ、話訊いてくれてありがとう。どうしたいのか解ったから、私」

『…そう?ならよかった。じゅあね──あ、たまにはこっちに出て来て店に寄ってよね』

「ん、機会があったら。うん、じゃあね」


通話を終えた私はなんだか気持ちがスッとしていた。


曖昧な関係だった私たち。

其のお蔭で前に進む事も戻る事も出来なかった。

だけど今は吹っ切れる事が出来そうだと思った。

彼が私ではない人と人生を歩んで行く事を決めたのなら、私だって其れに応えなくてはいけない。

(私も前に進まなくっちゃいけないんだよね)

そんな気持ちになれた事に感謝しなくてはいけないのかなとすら思えたのだった。







「うぅ~寒い!」

12月下旬の陽暮れの時は短い。

あっという間に漆黒の闇が其処らに広がっている。

招待状の返信をポストに投函した後、食料雑貨を扱う昔ながらの商店に寄って夕ご飯の調達をした。

出欠席状の返事は勿論【欠席】

だけど其処にひと言添えた。

【末永くお幸せに】

其の言葉は決して負け惜しみや皮肉ではなかった。

私の心からの言葉だった。

(彼には幸せになってもらいたい)

私自身が幸せになるために、其のきっかけと決意が込められたひと言だった。

(そんな私の心境を彼が素直に受け取るかどうかは解らないのだけれどね)

言葉其のままに祝辞として受け取るか皮肉と受け取るか──其れは彼に任せるとした。


漆黒の闇の中、ぼんやりと点る我が家の門灯が見えて来た。

門をくぐって引き戸の鍵を開けていると

『にゃぁ』

「え」

庭の方から猫の声が聞こえた。

この辺は野良猫が多くて、たまに私の家の庭に入り込む事があった。

「またにゃんこが来てるのかな」

私はグルッと回り込んで庭に足を踏み込んだ。


───瞬間


グニャ

「?!」

踏み込んだ足が何か柔らかいものを踏んづけた感触がして飛び上る程に驚いた私だった。

150alia
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