産まれた我が子に輝一路(キイチロ)と名付けてから二週間ほど経った頃、例の宇都宮のおばさんから連絡があった。


「…兵馬さん、亡くなっていたんですって」
「──え」

私は輝一路をあやしている正親の隣に座り込んで告げた。

「今…宇都宮のおばさんから電話があって…胃がんだったみたいでずっと遠い処で療養していたんですって」
「…」
「兵馬さん、私や智広さんに心配をかけたくないからって理由でずっと身を隠していたみたい。だけど…ついこの間…そう、輝一路が産まれた日と同じ日に亡くなったって…」
「……やっぱり」
「え」

正親が何かボソッと呟いたけれど、其れに気を留めていなかった私は何を云ったのか解らなかった。

「いや、其れにしたって亡くなってから随分経って静流に連絡して来るなんてあんまりじゃないか」
「智広さんが気を使ったみたい。私が出産したばかりで大変だろうという事で…其の、ショックを受けるんじゃないかと」
「…」
「葬儀も智広さんがごく内輪で済ませたみたい。兵馬さん北海道のなんとかって島に居たみたいで、其処で火葬してお墓も建てたって」
「──そう」
「…」
「静流、大丈夫?」
「え…あ、うん」

正親は輝一路を抱いていない、空いている右腕でそっと私を抱きしめた。

「不思議…あんなに気になって仕方がなかった兵馬さんの行方が解って…いなくなった理由もわかって…亡くなったって訊いたのに…私、なんだかホッとしている」
「え」
「…変な話、私、もしかしたら兵馬さんは私との事で気に病んで、何処かで…自ら命を絶っていたんじゃないかって…そんな考えをした事もあったから」
「静流…」
「病気だったのね…がん…最後は苦しかったんじゃないかしら」
「…」
「たったひとりで…近しい人の誰にも看取られる事無く…たったひとりで…逝ったのかしら」
「…静流」

兵馬さんは本当はとても気持ちの繊細な人なんじゃないかと思っていた。

いつも表面上は飄々としておちゃらけた人だったけれど、其れは仮の姿の様な気がした事もあった。

あの日…

最後に兵馬さんに会ったあの日に兵馬さんが呟いた

『…俺、静流の事、愛せたらよかったのに…』

あの言葉の真意は永遠に知る事が出来なくなった。



「…ごめん…正親」
「何」
「今だけ…今だけ…兵馬さんの事を想って泣くのを…赦して」
「…あぁ」
「う…ううぅ…」


嫌いじゃなかった。

私にとっての兵馬さんは兄の様な存在でとても…好ましい人だった。

(智広さんの事がなかったら私たちはどうなっていたかな)

義理とはいえ叔父と姪として、其れなりに違った関係を築いていたかも知れないね。


「兵馬さん…兵馬さん」
「…」

正親の事を思うと今、私は酷い事をしているのかも知れない。

だけど何故か、正親が私を抱きしめる腕はとても温かくて、優しくて、時折体を擦ってくれる感触から哀悼めいた感情が流れてくる気がしたのだった。

1sil
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