兵馬さんは最初、冗談で云ったのだそうだ。

『静流、昔の兄貴の写真、見たいか?』
『えっ、見たい!』

私が兵馬さんの其の言葉に飛びついたのには訳があった。

其れは、智広さんが昔の写真を何故か私には見せてくれなかったから。

というか、智広さんは過去にまつわる全てのものは兵馬さんに預けたと云ってアルバム類などの思い出の品はひとつも家にはなかったのだ。

そんな経緯があって丁度今から半年前、何故か兵馬さんがいきなり私に冒頭の言葉を囁いて来たのだ。

『そうか…見たいか』
『うん、見たい!』

私は智広さんの事はなんでも知りたかった。

当然昔の、若い頃の智広さんはどんな風だったのか──其れは私が一番関心のある事柄だった。

『兄貴は恥ずかしいから絶対静流には見せるなって云っていたけど…』
『えぇ…』
『そんなに見たい?』
『見たい!』
『そっか…見せてやってもいいけど…ひとつ条件がある』
『条件?』
『…』

つまり兵馬さんのいう其の条件というのが、私とのセックス──だった。

兄妹の様に育って来たとはいえ血の繋がりはない。

だけど戸籍上は義理の叔父と姪。

兵馬さんはそんな背徳的な位置にいる私を抱きたいと云った。

だけど其処に愛はないとも云った。

兵馬さんは私の事を好きでも嫌いでもないけれど、ただセックスがしたいのだと云った。

私は其の条件を呑んだ。

兵馬さんが其のつもりなら私もそうだと答えた。

私はただ智広さんの事を知りたいがために兵馬さんに抱かれるのだと。

其れでもいいのかと私が反対に訊いた時の兵馬さんは驚くほど呆けた顏をしていた。

そして

『いや…ほんの冗談だったんだけど』
『冗談にしないで』
『…』

思春期特有の好奇心と興味が入り混じった感情に、兵馬さんの其の言葉は私にとっては物凄い誘惑だった。

本当なら最初は智広さんがいいと願った。

だけど其れは到底叶わない願望なのだ。

だって

智広さんは永遠に母のものなのだから──


叶う事のない願望は早々に諦めがつく状況に持って行けばいいと思った。

どんな女にも最初というものがあるのなら、私は智広さんと同じ血筋を持った兵馬さんがいいと思った。

智広さんの弟──というだけで、いくらかの嫌悪感は薄れた。

だから私は智広さんの情報を得るために、智広さんと近しい男と寝るのだ。

ただ其れだけの事だった。



「え、これ…智広さん?」
「そう、中学ん時の空手の試合の時の兄貴」

体を差し出した対価として今日も過去の智広さんと出逢う。

「信じられない。空手なんて習っていたんだ」
「今じゃすっかり優男だけどね」
「うん…」

今の智広さんからは想像出来ない様な、精悍な顔つきのあどけない智広さんが優勝トロフィーを持って満面の笑顔を写真の中で見せていた。

(こんな顏もするんだ)

胸がドキドキ高鳴って堪らない。

今の智広さんしか知らない私にとっては、兵馬さんから小出しに見せられる昔の写真で過去の智広さんを知る事が出来るこの時間が至福の時だった。

例え其の至福の時間を手に入れるために苦痛に満ちたひとときを過ごさなくてはいけないのだとしても──


「はい、今日はこれだけでおしまい」
「…ちぇ」

こういう処はやけにキッチリしている兵馬さん。

得た快楽分の報酬しか払わない。

「また見たくなったら静流から誘ってくれてもいいんだからな」
「…」

其れだけはない──と心の中で呟きながら曖昧な笑みを見せた。

(自分からなんて絶対に誘わない)

私は誘われたから仕方がなく応じているだけ。

決して自分からお願いして体を晒しているのではない。


──其れだけは私なりの智広さんへ立てたちっぽけな忠誠心だった

1sil
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