車での送迎に渋々承諾した私は、代わりに乗る車に対しては大いに希望を通させてもらった。

よくある黒塗りのごっつい車は厭だと云った。

軽自動車の四角いバスみたいな車がいいと、其処だけは譲らなかったのだ。

「よぉ、おはようさん」
「…おはよう」
「咲ちゃんから訊いた?今日は俺が送り迎えするって」
「訊いた。だから別に驚いていない」
「そっか──じゃあサッサと乗る乗る」
「…」
「と、おい、何処に乗るんだ」
「何処に乗るって、いつも通りの後部座席だけど」
「おまえねぇ…俺の運転する車に後部座席って、有り得ないから」
「…」
「こーこ!俺の隣の助手席が静流の指定席!」
「…」

(いつもながら強引な人だ)


──本当に信じられない


(兵馬さんが智広さんの弟だなんて)


「其れじゃあ出発進行ー!」

勢いよく走り出した車のスピードの反動でグッとシートベルトで押さえつけられた胸が苦しかった。

「兵馬さん、あ、安全運転でね!」
「了解了解!」
「…」

常盤 兵馬(トキワ ヒョウマ)は智広さんの10歳年下の弟だった。

つまり私にとっては義理の叔父さん──という事になる。

兵馬さんも【UTSUNOMIYA】に勤めている。

現在は私の家の近くのマンションで独り暮らしをしている25歳。

「いやぁー朝っぱらから静流とドライブなんて、今日はツイてるなぁー」
「ドライブじゃないから」
「俺にとってはドライブだな」
「…」

智広さんが母と再婚した時、兵馬さんは16歳で智広さん同様私の家に一緒に住んでいた。

というのも智広さん兄弟は早くに両親を亡くされ、智広さんは随分苦労して弟の兵馬さんの面倒を見て来たのだ。

兵馬さんが大学に進学して独り暮らしをするまでの三年間、私は兵馬さんと歳の離れた兄妹の様な付き合い方をして来たのだった。


やがて車は学校の校門少し手前で止まった。

「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。んで、帰りは?何時頃来たらいい?」
「えっと…何もなかったら16時下校になるんだけど…」
「ん、解った。じゃあ16時前には此処にいる。もし遅れるようならメールして」
「うん、じゃあね」
「勉強頑張れよ」
「…」

満面の笑みを浮かべながらヒラヒラと手を振っていた兵馬さんは、私が校門をくぐるまで見送っていた。

「おはよう、宇都宮さん」
「あ、おはよう」

いきなりクラスメイトが声を掛けて来て少しだけ驚いた。

「今日の送迎の運転手さん、いつもの人と違っていたわね」
「えぇ、いつもの運転手さん、風邪をひいたとかで休みだったの」
「そうなの。でもカッコいい人が代わりでいいわね」
「え」
「あの運転手さん、イケメンじゃない」
「…」
「いつもあの人なら送迎も愉しいんでしょうね」

(兵馬さんがカッコいい?)

この人の審美眼ってどうなのかしら。

私にとってのカッコいい、イケメンと評されるのは智広さんだけだ。

(智広さん以外の男なんてカスにしか見えない)

こんな私の持論を兵馬さんは『恋は盲目だな』と呆れる。

「…」

そう

私の恋心は、お手伝いの咲子さんにも義理の叔父さんである兵馬さんにもバレバレなのだった。


1sil
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