FlowerLeaf

*AriaLien Sub BLOG*

2017年12月

夜明けのアリア 30話(終)




──瞬くんと再会したあの奇跡の様な日から二ヶ月後



「やーん、大きくなったねー美弦」
「こんにちは、つぐみちゃん」
「あぁ~可愛い!可愛過ぎる~!ねぇねぇ、おばちゃんの処にお婿さんに来ない?」
「おむこさん?」
「ははっ、なーに冗談云っているんですが、止めてくださいね、僕の可愛い息子に戯言吹き込むの」
「わっ、何よ、もうインタビュー終わったの?」
「はい、サクサクっと。物欲しげな肉食女性から可愛い息子を守らなくてはいけませんからね」
「…相変わらずサラッと毒吐くのね、君って」
「毒なんて吐いていませんよ、厭だなぁ~僕と風音さんの愛のキューピッドにそんなそんな…」
「ぅわっ…本当怖っ!…全く風音ったらなんでこんな──」
「ん?なぁに、つぐみ、私がどうかした?」
「あーいやいや、なんでも~」
「?」


この日私と瞬くん、そして美弦の三人は北海道から東京に出て来ていた。

瞬くんは一ヶ月ほどウィーンに帰国していて、粗方の仕事を片付けて少しずつ日本に帰国する準備をしていた。

これからしばらくの間はウィーンと日本を行ったり来たりするのだと云った。

一昨日北海道に帰って来た瞬くんは、東京で雑誌の取材があるからという事で私と美弦を連れて一緒に上京している、という訳だ。

取材場所がつぐみのジャズバーという事で、私にとってはつぐみとの懐かしい再会となった。


「ねぇ、やっぱりこっちに来る事に決めたんだって?」
「うん、瞬くんの仕事の事を考えるとやっぱりこっちに越して来た方が何かと便利だよねって事になって、どうせなら美弦の小学校の入学に合わせて少しずつ家探ししようかなって」
「そっかーじゃあ此処から近い処に越して来なよ。そうしたらいつだって会えるじゃない」
「そうだね、いい物件があるといいんだけど」
「物件を探されているんですか?」
「あ、はい。活動拠点を此方に移そうかと思っていて…」

私とつぐみの話の輪に、瞬くんを取材した旬堂出版の有城愛恵さんという人が加わった。

「いいですね、是非上京するべきです。北海道からだと仕事で移動する度に莫大な交通費がかかって仕方がないですからね」
「そうなんですよね、其れもあるから決めたんですけど…」
「わたしも色々伝手があるので探してみますよ」
「わぁ、ありがとうございます、助かります」
「いえいえ、わたしすっかり市ノ瀬さんのファンなので、其のご家族のためのお手伝いが出来るかと思ったら嬉しくて」
「まなちゃんね、クラシックなんて全然興味なかったのに、今回の仕事のために滅茶苦茶勉強したんだって」
「あわわ、バラさないでくださいよ、つぐみさん!」
「いいじゃないの~畑違いだっていうのに努力する其の前向きな姿勢は評価に値するわよ」
「そ、そんな…」
「そうだったんですね、ありがとうございます、有城さん」
「止めてください~わたしの方こそ感激しているんです。今まで敬遠していたものの中にこんな素敵なものが沢山あっただなんて知らなくて…其れを知れた事がわたしにとっても大変有意義なものになって心が豊かになりました」
「嬉しいなぁ、瞬くんの演奏を聴いてそう思ってくれたなんて」
「いや、本当に音だけ聴いてりゃ、すごーく美しい貴公子風情よね、あの子」
「つぐみ、瞬くんは音だけじゃないわよ。中身もそりゃ素敵なんだからって云っているでしょ」
「…恋は盲目だわ」

つぐみがため息混じりに云った言葉を少しだけ笑って、そして奥で美弦にホットケーキを食べさせている瞬くんを見つめていると泣きたくなるほどに幸せな気持ちを感じた。

「しかし若いのに子煩悩ですねぇ…あ、あのショットも撮影していいですか?」
「え…あ」

有城さんの言葉に咄嗟に返事が出来なかった。

これから色んな意味で注目を浴びそうな瞬くんに子どもがいて、しかも其の子は瞬くんが17歳の時の子どもだという事実は醜聞にしかならないだろうかと心配したから。

──だけど

「有城さーん、ジャンジャン撮ってください。可愛い息子と奥さんと一緒にいる僕を」
「! 瞬くん」
「あれ、ダメ?恥ずかしいの?風音さん」
「だって…」
「ははっ、風音、あの子あんたが思っている以上に肝の据わった男だよ?」
「え、どういう事」
「世間に見せびらかしたくて仕方がないって顔してる。若い時の恋がこうやって成就した事を自慢したくて仕方がないって感じよ」
「えぇ~」
「つぐみさんのくせによく僕の事解るんだね~偉いね、褒めてあげる」
「煩いわ、このエロガキ」
「はいはい、エロいですよ~光栄です」
「ったく…ね、だから心配しないの」
「…うん」

なんだかつぐみの方が瞬くんの事を解っているみたいでちょっとだけ妬けちゃったけれど…

「そうだ、風音さん、アリア歌ってよ」
「え!」
「僕ヴァイオリン弾くからさ、共演しよう?」
「其れいいですね!夫婦共演ショット!是非いただきたいです」
「えぇぇ~」

途端に有城さんが目をキラキラ輝かせて若干興奮気味にデジカメを構えた。

「奥さんも有名なソプラノ歌手だったって知っていますよ。そんなふたりの共演だなんて…あぁっ、ダメだドキドキしちゃう」
「まなちゃん、興奮し過ぎ。でもさ、いいんじゃない?」
「…」
「風音は昔みたいにはもう歌えないって云っているけどさ、昔の杓子定規みたいな歌い方よりも今みたいに自由に伸び伸びと歌っている方がわたしは好きだけどなぁ」
「…」
「今のあんたには最強のパートナーがついてるじゃん。彼の隣で歌う風音は昔よりもうんと歌姫として輝いている」
「…つぐみ」
「いい事云うね、つぐみさん」
「あっ」

ヴァイオリンを片手に持ち、もう片方の開いた腕で私の肩を抱き寄せた瞬くんが耳元で囁くように告げる。

「ねぇ、聴かせて?僕に向けたアリアを」
「瞬くん…」

不覚にも一瞬の内に体中が熱っぽくなった。

「ママのおうた、ぼくもききたい!パパのヴァイオリンでききたい~」
「美弦…」

美弦の好奇心たっぷりのキラキラした瞳を見ると、人前で歌う恥ずかしさとか戸惑いといった気持ちがなくなってしまうようだった。

「さぁ、お願いします!」

有城さんの声掛けで私は一瞬にして気持ちの切り替えが出来た。

「瞬くん、奏でて──私を虜にしたあのアリアを」
「…了解」

そして静かに始まる細い弦の音。

4本の弦から生み出されるたおやかな音色はまた私の心を鷲掴みにする。


──あの日


初めて瞬くんと出逢って、夜明け前のアリアを歌った瞬間から私の本当の意味での人生は始まった。


「…なんて…美しいアリア…」

目の端にデジカメを構えながら涙を流している有城さんの姿を見ると、これから私の進むべき道が指示された様な気がした。

『風音さん…凄く綺麗だ…』

声にならない言葉を発した瞬くんと見つめ合いながら私は何ともいえない高揚感を味わった。

(あぁ…やっぱり私、瞬くんのヴァイオリンで歌うのが好き)

其の気持ちだけは誰にも恥じる事無く、いつでもいつまでも感じる私の瞬くんに向けた愛の証だった──






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夜明けのアリア 29話



(…ん)


ふと目を覚ますと私の隣で眠っている美弦の可愛い寝顔があった。

(ふふっ、はしゃぎ疲れてグッスリね)

瞬くんと散々はしゃぎまくった美弦はいつより早い時間に眠ってしまった。

美弦を寝かしつけた私もほんの少しだけウトウトと眠ってしまっていたようだ。

部屋にある時計を見ると21時を少し過ぎていた。

静かに寝室を出ると、リビングから話し声が聞こえた。


『だからもう一日だけ…うん、ちょっと予定が変わったから──』

(…瞬くん?)

どうやら電話で誰かと話している様だった。

今リビングに入るのは迷惑かな、と思いながら佇んでいると


ガラッ

「!」

廊下とリビングを仕切っているすりガラスの引き戸が開いた。

「風音さん、美弦寝ちゃった?」
「あ…うん」
「どうしたの、なんで入って来ないの?」
「だって…電話、していたでしょ?邪魔になるかなと思って」
「そんな気を遣う電話じゃないよ。其れに此処は風音さんの家なんだからそんな気遣う事ないでしょ」
「そっか…」

特に様子が変という訳ではない瞬くんにホッとした。


キッチンでお茶を淹れてソファに座る瞬くんに出した。

「ありがとう、風音さん。……ねぇ」
「ん?」
「僕さ、本当は今日の夜には東京に戻らなくっちゃいけなかったんだよね」
「…え」
「マネージャーとそういう約束をしていたから」
「マネージャーって…」
「僕は今ウィーンの交響楽団に籍を置いているんだけど、其処は僕の師匠だったウォールマン先生の義理で在籍していただけであって、先生が亡くなった今、やっと其処から独立出来る目途がついて近々フリーになろうと思っているんだ」
「フリー…」
「そんな僕についてくれているのがアーガントっていうオーストリア人のマネージャーでさ、僕を使ってお金儲けしたいって云っている変な奴なんだ」
「えっ、お金儲けって」
「正直さだけが長所の奴だよ。裏表がないから信用出来る数少ない僕の友人なんだ」
「…」
「其のアーガントがフリーになる僕に色々仕事をさせたいみたいでさ、其のためにウィーンでやらなくちゃいけない仕事があって直ぐに帰らなくっちゃいけないんだよね」
「…そっか、其れはそうだよね。瞬くん、今やクラシック界に躍り出て来た期待の新星ってもて囃されているもんね」
「大袈裟なんだよな…でも、これでやっと風音さんとの約束、果たせたよね?」
「…うん、瞬くん、立派なヴァイオリニストになったよ」
「だからさ、もう少しだけ待っててくれる?あっちで色々片付けて来たら此処に戻って来るから」
「えっ」

其れは突然の事で一瞬驚いてしまった。

「あれ、ダメ…なの?」
「ち、違うよ、此処にって…日本に?」
「そうだよ、日本を活動拠点にするために楽団辞めるんだから」
「そんな…だって瞬くんは世界で活躍するって」
「あのさ、此処にいても音楽活動は出来ると思うんだけど」
「…」
「まぁ、出来れば東京拠点の方が都合はいいかも知れないけどさ、でも仕事は此処から出張するって形で受ければいいでしょう?」
「…」
「北海道在住のヴァイオリニストってなんかカッコいいかなとか思うんだけど」
「…瞬くん」

(どうしよう…)

瞬くんの申し出は私にとっては凄く嬉しくて、幸せな未来図を安易に想像出来てしまう魅力ある話ではあるけれど…

(でも折角世界で認められつつある其の才能をもっと伸ばすためにはウィーンにいた方が…)

私が色々頭の中で考えていると、ソッと私の頬を瞬くんの大きな掌が覆った。

「!」
「ねぇ、またよからぬ事考えているでしょ」
「え…」
「僕のためを思ったらこのままウィーンにいた方がいいとか、日本にいたらダメだとか」
「…」
「もうさ、いい加減にして?僕は風音さんと、風音さんのアリアを僕のヴァイオリンで奏でたいがためにヴァイオリンを始めたんだよ。僕のヴァイオリンの全ての源は風音さんなんだよ」
「…瞬くん」
「六年前は風音さんとの約束を守るために仕方がなく風音さんと離れたけれど、もう絶対に離れないよ」
「!」

一瞬、瞬くんの表情が見た事のない険しいものに変化した。

体全体から流れ出るゾッとするような妖しくも美しい其の冷たいオーラに呑まれそうになった。

「風音さんと美弦の元で僕の音はさらに深みを増すと思う。其れを聴きたいという人がいれば聴かせてあげるってだけだよ」
「…」
「だから──いい子の風音さんは解るよね?」
「……はぃ」

もう、何も云えなかった。

私の方こそがもう瞬くんから片時も離れたくないと思ってしまっているのだから──

「よしよし、いい子だね~風音さん」
「ちょ、こ、子ども扱いしないの、私の方がうんと年上なんだから」
「こういう事する関係で歳なんて関係ないでしょ」
「あっ」

有無をもいわせず瞬くんは私をソファに押し倒し、性急に唇を奪った。

「んっ」
「ふっ…ん…風音さん…」
「あ…瞬、くん」

其れはもう解り切っている行為の始まりの合図だった。

再会してからごく短い時間の中でもう何度も繰り返された行為だった。

「ふっ、風音さん…濡れるの早過ぎ」
「や…だ、だってぇ…」

瞬くんに肌を触られただけで直ぐに潤ってしまう私の中は、早く早くと瞬くんのモノを強請って蠢き出す。

「あぁ…この調子だと直ぐにでも美弦の兄弟が出来ちゃうかもね」
「なっ」
「あ、中、締まったよ…ははっ、風音さん、そんなに締め付けて絞り出させないでくださいよ~」
「なっ…ななな、何を……瞬くん!」
「あ~また締まったぁ」
「~~~」

この時になって私は、つぐみと電話で話していた時、つぐみが私に云いたかった言葉が何となく解った様な気がした。

(瞬くんって…実は思ったより腹黒い…?)

ただ可愛いだけじゃなくて

ただ素直で純粋なまま大きくなったんじゃないのかも知れない──と思うと、何故か怖さや失望感よりも訳の解らないときめきを感じてしまってドキドキしてしまう私だったのだ。


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夜明けのアリア 28話




~♪♪~♫



家から聴こえて来るのはモーツァルトの子守歌。

優しく美しいヴァイオリンの旋律が響いている。


(瞬くん…)


美弦を迎えに家を出る前に瞬くんにお願いしたのは、瞬くんが美弦に最初に聴かせたい曲を弾いていて──という事。

瞬くんの子守歌は涙が出る程に美しく優しく、そして慈しむ心が溢れるものだった。



「パパ!」

「!」

美弦の後を慌てて追いかけ、リビングに入った瞬間目に入ったのは美弦が瞬くんの脚元にしがみついているシーンだった。

「えっ…えっ」
「パパ!パパパパパパぁぁぁぁぁ」
「え…えぇぇぇぇ?!な、なんでっ」

美弦にしがみつかれている瞬くんは何が何だか解らない様子でただただ戸惑っていた。

「…瞬くん」
「あっ、か、風音さん、これ、一体」
「美弦はね、瞬くんが美弦のお父さんだって知っているの」
「!」

そう、私は美弦が生まれた時から瞬くんのヴァイオリンの音を聴かせていた。

其れはウィーンにいる直行にこっそり頼んでいた事だった。

私と瞬くんの関係を直行に全て話し、そして私の気持ちを理解してくれた直行は瞬くんの演奏を録音して送ってくれるという協力をしてくれていたのだ。

其の送られて来る数々の演奏を何度も何度も繰り返し美弦に聴かせて「これは美弦のパパが弾いているヴァイオリンの音よ」と云い訊かせて育てて来たのだった。


「高羽さんが?!やっぱりあの人、風音さんの居場所知っていたんじゃないか!」
「ごめんなさい、勝手な事をして。でも直行を恨まないで、直行は私のためを思って」
「其れは解っているよ、だけど僕の知らない処で風音さんと繋がっていたんだと思うとどうしても」
「! 繋がってって、そんな云い方する様な関係じゃないから」
「あぁ、そういう意味じゃなくて、ただ──」
「パパ…」
「!」

戸惑っているままに声を荒げていた瞬くんは脚元にくっついている美弦の存在に改めて気づき、そして──

「美弦!」
「!」

瞬くんは美弦を軽々と抱え上げた。

「美弦…初めまして、僕が美弦のパパだよ」
「うん、うん…パパぁ」

一瞬ギュッと抱きしめ合い、そして少し隙間を作りしばらくふたりは見つめ合った。

「今まで美弦の傍にいなくてごめんね」
「ううん、もうしゅぎょうのたびはおわったの?」
「へ?修行の…旅?」
「うん、だってママがいっていたよ?みつるのパパはヴァイオリンのしゅぎょうをしていていつかおおきなコンサートホールのまんなかにたつことができたらぼくとママのところにかえってくるんだって」
「…風音さん」

ふたりの様子を少し離れた処から泣きながら見ていた私に瞬くんは視線を合わせた。

「あの…あながち間違っていないでしょう?」
「…まぁね。でもまさか風音さんが僕の事を美弦に話していただなんて思いもしなかったから」
「だって…美弦にとっての父親は瞬くんで…其れに…信じていたから」
「…」
「いつか…いつか再会する事が出来て、美弦を…瞬くんに逢わせる事が出来るって」
「~~風音さんっ」
「!」

美弦を抱いたまま私の元に寄って来た瞬くんは、もう片方の腕で私を抱きしめた。

「本当に…本当にありがとう、風音さん」
「瞬くん…」
「僕を…美弦の父親にしてくれて」
「…」
「嬉しいよぉ…本当に、滅茶苦茶嬉しいよぉぉぉ」
「瞬くんったら、そんな、な、泣かないでぇ」
「パパ…ママ、なんでないてるの?なかないで、なか…ないでぇ~~」

いつの間に泣き出してしまった私と瞬くんを見て、ポカンとしていた美弦も私たちにつられて泣き出してしまっていた。

先刻まで美しい調べが奏でられていた我が家には、いつの間にか泣き声の大合唱が響き渡っていた。

本当はもう少し美しく、しっとりとした再会シーンを思い描いていたのだけれど。

でもこれはこれで私たちにとっては“らしい”再会シーンだったのかも知れない。


「幸せだよ…僕、本当に凄く幸せだよ、風音さん」
「うん、私だって…瞬くんに負けないぐらい幸せだよ」


泣き声は次第に笑い声に変わって行き、そして私たちは離れていた六年間を埋める様に沢山話をした。

美弦と瞬くんはあっという間に仲良くなってしまったけれど、其の様子は父と子、というより年の離れた兄弟にしか見えなくて少しだけ気恥ずかしく思ったのだった。



──そうして其の日から私たちは本当の意味での家族になったのだった


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夜明けのアリア 27話



『本当にごめんね、風音!絶対に云わないって約束していたのに…』

「だからもう謝らないで。寧ろ…つぐみには感謝しているくらいなんだから」

『風音…』


翌日、私はつぐみに電話を掛けた。

瞬くんからつぐみに私の居場所を訊いたと教えられた為ひと言連絡しておこうと思ったのだ。


「私ね、心の奥底では瞬くんが迎えに来てくれるの待っていた。瞬くんが私を見つけ出してくれて…私と美弦の手を引いてくれる其の時が来るのを…」

『…うん』

「だけど私からは動けないから…私は受け身でいる事しか出来ないから、だから本当に今回の事は…」

『そう云ってもらえて嬉しいよ…風音』

「瞬くんを導いてくれてありがとう、つぐみ」

私は心からの言葉をつぐみに伝えた。


『だけどさ、風音が幸せになるのは嬉しいんだけど…本当にあの子でいいの?』

「え?」

『あーいや…なんかさ、風音から訊いていた可愛らし~いイメージとは違って…其の…』

「? 瞬くんは可愛いよ?そりゃ大人になって見てくれは可愛いって感じじゃないかも知れないけど…中身がね、相変わらず子どもっぽくって別れた時其のままで」

『…』

「あれ?つぐみ、もしもーし」

『…あーううん、ごめん、変な事云ったよ。そっか…風音にはそんな感じなんだね、あの子』

「?」

つぐみが何を云いたいのか解らなかったけれど、最後には瞬くんと結ばれた事を喜んでくれて、そして一度店に来てピアノを弾く事を約束させられ通話を終えた。


(つぐみ…本当にありがとう)

掌の中の携帯をギュッと握っていると急に後ろから温もりを感じた。

「あっ」
「電話、終わった?」
「…瞬くん」

後ろから覗き込まれる様に顔を見つめられ、ドキッと胸が高鳴った。

「つぐみさん、僕の悪口云っていたでしょう?」
「え?ううん、そんなの云ってなかったよ」
「そう──ふぅん…いい人だね、つぐみさんって」
「えぇ、とても」
「…風音さんにそんな笑顔をさせるつぐみさんにちょっと嫉妬するなぁ」
「は?な、何云って──んっ」

体を反転させられ、其のまま瞬くんが私の唇を奪った。

「ん…」
「はぁ…んっ、ん」

クチュクチュと恥ずかしい音を立てて交わされる深いキスに体中が火照りだし、其のまま雰囲気に負けそうになった。

(あ…ダ、ダメっ!)

「瞬くんっ」
「!」

私は甘い気持ちを振り切る様に瞬くんからの深くなる行為に抵抗した。

「何、風音さん、続きさせてくれないの?」
「あのね、もうすぐ美弦のお迎えの時間で…」
「あ」

横目で見た時計の針は、美弦のお迎えの時間を差そうとしていた。

「近くの場所まで保育園のお迎えバスが来てくれるの。だから其処までお迎えに行かないと」
「そうなんだ…じゃあ僕も行った方がいい?あ、でもいきなり知らない男が『お父さんだよ』って云ったらマズいかな」
「…ふふっ」
「何」
「瞬くん、お願いがあるの」
「?」


私はずっと考えていた。

もしも…

もしも瞬くんと美弦が出逢う時が来たらこんな感じで逢わせたいというシチュエーションがあったのだ──








「ママぁー!」
「お帰り、美弦」

保育園のバスから元気よく飛び出来た美弦を抱きしめる。

「お迎えありがとうございます。美弦くん、ずっと元気で愉しく過ごせていましたよ」
「そうですか、ありがとうございました」

保育士さんと簡単な伝達をして、走り去ったバスを見送ってから私と美弦は手を繋いで家までの道を歩いていた。

「あのね、おぼうさんがね、しんくんのかたにパーンってやってね、しんくんないちゃってー」
「あぁ、座禅の警策(キョウサク)かぁ。子ども相手にも容赦ないのね」
「ぼくもたたかれたけどぜんぜんいたくなかったよ?」
「おぉ、えらいね、美弦」
「うん、ぼくはつよいの!もっともっとつよくなってママをまもらなくっちゃだから」
「…美弦」

思わず涙腺が崩壊しかけた。

なんだか年々子どもの事で涙脆くなるのは歳のせいだろうか?と考えてしまう。

(あーいやいや、老け込んでいられないよ)

私は繋がれている美弦の手をほんの少し強く握った。

「ママ?どうかし──」

私の顔を見上げていた美弦が急に立ち止まった。

(あ…)

其れは私の耳にも届いた。


「…ママ、おとがきこえるよ」
「…」
「おうちから…ヴァイオリンのおとが」
「あっ」


其の瞬間、美弦は私の手を放し、物凄い勢いで家に向かって走り出していた。

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夜明けのアリア 26話



時計を見るともう夜の22時過ぎだった。


遅くなった夕食を瞬くんとふたりで食べた後、瞬くんをリビングのソファに座らせてお茶を出した。

「ありがとう、風音さん」
「うん」
「はぁ~久しぶりに食べたなぁ…風音さんの手料理。やっぱり美味しい」
「瞬くんって見かけはすっかりカッコいい大人の男性って感じなのに喋るとあの時と何も変わっていないのね」
「ん~其れは風音さんの前だからだよ」
「え」
「僕ね、他の人からはクールで何考えているか解らない腹黒い奴だって云われている」
「えぇ、そうなの?」
「うん。ヴァイオリンだってさ、どうしても弾かなきゃいけない時はいつも風音さんの事を思い浮かべて弾いている」
「…」
「風音さんが聴いているつもりでいつも、いつも弾いていて…だからね、風音さん無しでは僕はヴァイオリンを弾く事は出来ないんだ」
「…」
「風音さんに関わりのないものや事には基本無関心だからさ、自然と周りの人間関係とか演奏の仕事も僕にとってはどうでもいい事になっちゃうんだ」
「…瞬くん」
「あ、でもね、師事したウォールマン先生はいい人だったよ。厳しい人だったけど僕がヴァイオリンを弾くのはたったひとりの人のためだけだっていう持論も否定しなくて…だったら余計に其のたったひとりの人の心に響く演奏をしなくてはいけない、其のために君は努力しなければいけないって云ってくれて…だからずっと頑張って来れたんだ」
「…そう」
「でも其の先生も亡くなってしまって…僕はもうウィーンに留まってヴァイオリンを弾く意欲が枯渇してしまったんだ。あとはただ風音さんしか…風音さんの元でしか弾く意義を見出せなくて…だから必死になって探したんだ」
「…ごめんなさい、瞬くん」
「…」

隣に座っている瞬くんの掌をそっと握って顔を覗き込んだ。

「瞬くんは私との約束を頑なに守ってくれて、こうやって私を見つけてくれた」
「…うん」
「本当にありがとう、凄く、凄く嬉しい」
「うん」
「……だからね、私もちゃんと話すね」
「え」
「どうして瞬くんの元から消えたのか」
「!」

一瞬顔を強張らせた瞬くんの元から立ち上がり、私はリビングのチェストの上に隠す様に置いてあった写真立てを取って其のまままた瞬くんの隣に腰かけた。

「…これ」
「? 写真立て?何の── って……えっ」

写真を見た瞬間、瞬くんは今までに見た事のない表情をした。

「…この子が今、私と一緒に住んでいる男」
「…」
「私が選んだのは瞬くんじゃなくて……この男、の子だった」
「……か、風音…さん」
「…ごめんなさい、勝手に…産んでしまって」


其の写真に写っているのは私と──私の5歳になる息子だった。


「…え、この子の…父親って…」
「あの日…瞬くんと最後に抱き合った時に出来た子、なの…」
「!」


そう、あの日──六年前のあの大晦日の前日。

瞬くんをウィーンに帰すと決めてから抱き合った私たちは避妊をしなかった。

コンドームがない中、妊娠するかも知れないのにという危機意識も忘れてしまう程に夢中になって貪り合った結果──私は妊娠した。


「…僕の…子」
「うん…」

妊娠に気が付いた私は悩んだ。

これから世の中に羽ばたいて行くだろう16歳の若い彼の子どもを身籠り、其の彼に父親になってくれとは到底云えなかった。

瞬くんの事を一番に考えて、そして同時に私の中に芽生えた愛おしい命をも守るために取る手段はひとつしかなかった。

「だから…だから僕の前から消えたの?」
「だって…其れしか方法がなかった」
「…」
「絶対…お腹の子は絶対に産みたかった!だって好きな人の…瞬くんの子どもだよ?!堕ろすなんて選択肢最初からなかった」
「…」
「だけど瞬くんには云えなかった…だって云ったら戸惑って悩んで…だけどきっと最後には…ウィーンから帰って来てしまうでしょう?」
「…」
「ヴァイオリニストになる夢を諦めて、私と赤ちゃんのために生きて行く人生を選択すると思ったから…瞬くんはそうしてしまうと容易く想像出来たから…云えなかった」
「…」
「瞬くんを色んな意味で傷つけると思った。きっと私を…約束を破って消えて、知らない間に勝手に子どもを産んでしまう私を恨むんだろうって…解っていたけれど…其れでも私は瞬くんの未来の事を考えたら──」
「風音さん!」
「!」

瞬くんの腕が再び私を力強く抱いた。

「風音さん…ありがとう!」
「えっ」
「僕の子どもを産んでくれて…ひとりで育ててくれて…本当にありがとう!」
「しゅ、瞬く…」

ギュッギュッときつく抱きながら瞬くんからの言葉は止まらなかった。

「風音さんがそんなに強い気持ちで僕の事を想ってくれていただなんて…其れは僕への最大級の愛の証だよ!」
「…ふっ」
「たったひとりで辛かったよね…ごめんね、ごめんね、何も知らなくて」
「ふぇ……うぅ…」

瞬くんからの言葉は私の歩んで来た苦悩の時間をあっという間に昇華させてしまう程に威力のあるものだった。

「泣かないで…風音さん」
「あ…ありが…ひぃっく…私の…方こそ…ありがとう、だよぉ」
「え」
「み…美弦を…美弦を授けてくれて…ひっく、ありがとぉぉ」
「みつるっていうの?僕の子」
「うん…うん…美しい弦って書くの…ひっくっ…瞬くんの…ひっく、息子、だからぁ」
「ははっ、凄く愛されているなぁ~僕も…美弦も」
「瞬くん、瞬くん!」
「もう泣かないで、これからは僕も一緒に美弦を…美弦のいいお父さんになるから」
「瞬くん…」


私の方がうんと年上なのに…

何故か年下の瞬くんには甘々に甘やかされてしまう。


「で?其の可愛い僕の息子は今何処にいるの?」
「…っ、きょ、今日は保育園の…お泊まり保育で町のお寺に…行っているの」
「そうか…間が悪いなぁ…っていうか、いいのかな」
「?」
「だって明日になれば帰って来るんでしょう?」
「うん…午前中には」
「だったら明日逢えるって事だし、其れに」
「あっ」

グッと押されて私は其のままソファに仰向けになった。

そしてゆっくり私の上に跨った瞬くんはゾッとするような艶めかしい顔をして云った。

「美弦がいたらこんな事、出来なかったよね」
「んっ!」

首筋に唇を寄せジュッと強く吸った。

「風音さん…六年分の想いはまだまだ晴らせていないからね」
「…瞬くん」
「何度抱いたって足りないよ…もう好き過ぎて…あぁ、ずっと風音さんの中に入り込んでいたい」
「あっ…しゅ、瞬く──」


再会してからまだ数時間しか経っていないというのに、私たちはまた抱き合った。

何度体を重ねても厭きる事無く、もっともっとと強請ってしまう。


「愛してるよ、風音さん」
「私も…瞬くん」

もう絶対に揺るがない愛を確信し合った私たちに怖いものなんてないと思ったのだった。

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