FlowerLeaf

*AriaLien Sub BLOG*

2017年12月

FRIEND→LOVER 4話



目の前が真っ暗になり、意識が遠のきそうだと思った瞬間、私の意識は海斗の力強い言葉で引き戻された。

「凪子、俺に全てを話せ」
「…え」

真っ直ぐに私を見つめて、海斗はとても真剣な眼差しで云った。

「俺は凪子を裏切った康彦を赦さない。凪子のいい分を訊いて其れを俺から康彦に叩きつけてやる」
「海斗…」
「だからあいつに云いたい事があったら俺に全てぶちまけろ。俺が全部受け止めてやるから」
「…」

どうして海斗はこんなにいつも私の事に必死になってくれるのだろう。

思えば高校生の時から其の兆候はあった。

三年間片想いをしていた私の愚痴や戯言を海斗はいつも真剣に訊いてくれていた。

時々素っ気なく厭味や意地悪な事も云われたけれど、そういう海斗の言葉を訊くと自然と私は頑張ろうと思えたのだ。

(…海斗)

「えっ!な、凪子」
「…ふぇ」

何故か今、フラれた康彦に対する気持ちではなく、私をずっと見守って来てくれた海斗に対しての気持ちで泣けて来てしまった。

「ちょっと凪子、こんな処で」
「~~だ、だってぇ」

慌てている海斗を中心に、カフェにいたお客さんの何人かが泣いている私をチラチラと見始めていた。

(恥ずかしい!涙、止めなくっちゃ)

涙を止めなくてはいけないと思えば思うほどに嗚咽が酷くなり、もう私自身で収拾がつかなくなってしまったと思った瞬間

「行くぞ」
「!」

いきなり掴まれた腕。

そして無理矢理立たせられた私の肩を抱いて歩き、会計を済ませて其のままカフェの外に出た。

「か、海斗」
「泣きたいんだろう、思いっきり泣かせてやる」
「──え」

海斗は私の手を握って、其のまま近くのパーキングに停めていた車に私を乗せた。

「…海斗の車?」
「当たり前だ」

車が発進した頃には私の涙はすっかり止まっていて、私は次々と現れる海斗の目新しい行動、仕草に目が釘付けになっていた。

高校生の時の海斗しか知らない私は車を運転している姿を物珍しげに見た。

「おい、あんまこっち見るな」
「だって…海斗が車運転しているだなんて…」
「25になってんだぜ?車ぐらい運転する。おまえだってそうだろう?」
「私は免許持ってないの」
「はぁ?今時珍しいな」
「だって…康彦が危ないからって…免許取らせてくれなくて…」
「──なんだ、其れ」
「…」

少し康彦の話をするのは厭だなと思った。

とっくにフラれているのに海斗に未練がましく思われたら厭だな、と。


車窓から見た事もない風景を見て云った。

「ねぇ、何処に向かってるの?」
「俺の家」
「え、海斗の?」
「今のおまえは話を訊いてもらいたい状況なんだろう?そんで話したら話したで大声で泣きたくなる」
「…」
「其れが出来るのは俺の家ぐらいだと思ったから」
「…ありがとう、海斗」
「云っておくが下心はないぞ」
「うん、解ってる。海斗は私を女としては見ていないもんね」
「…」

(そう、海斗は私に対して女としての感情は持っていない)

ううん、私だけじゃなくて、女性全般において海斗は【女】という生き物に嫌悪していた。

其れは海斗の生い立ちに繋がる仕方がない感情だった。

(だから私たちはずっと友だちだったんだよね)

周りから良く私と海斗の事で色々云う人がいたけれど、私たちの関係はそんな周囲の噂なんて何処吹く風状態だった。

お互いが心地いい関係だったのだ。

男でも女でもない、本当の意味での友だちだったのだから──

(だけど…)

其れは高校生の時の話だ。

今、お互い25歳になった私たちに高校生の時の様な関係は通用するのだろうか?

何故かそんな事がふと頭を過った。

『云っておくが下心はないぞ』

そう云った海斗の言葉を心の奥底で寂しいと感じたのは気のせいなのだろうか──?

(海斗はまだ女に対して嫌悪しか抱かないのかな)

ぼんやりと流れる風景を眺めながらそんな事を考えていた。


やがて車は大きな建物の地下の駐車場に停められ、其のまま海斗の先導でマンション内の海斗の部屋までやって来た。

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FRIEND→LOVER 3話



『海斗、聞いてよ!持田くんが私にプリント手渡してくれたの!』
『…其れ、クラス中の連中が同じ様に手渡されていたぞ』
『其れでも!其れでも私に手渡す時、少しだけ指が触れたんだもん!』
『おまえは小学生か。今時指が触れただけで舞い上がる女子高生って』
『う、煩いなぁ海斗は!どうして私のこの湧き上がる嬉しさを共に喜べないの!』
『気色悪過ぎて喜べる訳ないってーの』
『海斗!』


友だち、というより悪友──だったのかも知れない。

高校に入学して同じクラスになって、五十音順に座った席で前後になってからの付き合いだった。

端正な顔立ちの海斗は見てくれはよかったけれど他人を寄せ付けないオーラを常に纏っていた。

いつ見ても不愛想で、みんなから一歩引いて遠くにひとりでいた。

だけど私は後ろの席から常に海斗の仕草、動向を観察している内に、本当の海斗は見かけ通りなんかじゃないと解って徐々に距離を縮めて行った。

最初は私もみんなと同じ様に海斗から睨まれ、無視された。

だけど毎日海斗の大きな背中を見つめていると何故か『ひとりにしちゃいけない』という気持ちが湧き上がって来て、どんなにスルーされても私は海斗に纏わりついた。


そんな毎日が三ヶ月程経った頃、ようやく海斗は根負けしたのか私に話しかけてくれるまでになった。

『おまえは…本当に変な女だな』

そう云って私の額をデコピンした痛さは今でも覚えている。



──そんな海斗が実は数ヶ月前から此方に戻って来ているという事を知った


(もう、なんでそうならそうと連絡してこなかったのよ!)

少し憤りを感じながらも私は何処かソワソワしながらカフェの入り口を気にしつつ、カップを手に取った。


昨夜、海斗からメールを受け取った私は直ぐに返信をした。

其れから2~3回メールのやり取りをして、私たちは直接逢う約束をした。

そして現在、待ち合わせのカフェに来た私は海斗を待っている──という状況だったのだけれど…

(遅いなぁ…約束の時間30分も過ぎてるよ)

この時になってやっと私は海斗の携帯の番号を知らない事に気が付いた。

海斗の方も私の番号を知らなくて、唯一高校卒業間近に教えた私のパソコンのメールアドレスだけは残っていたという有様だ。

(どうしたんだろう…約束を破る様な男じゃないし…まさか事故──)

良くない考えばかりが浮かんでは消え、随分あたふたとしているなと自分でも解って来た頃、いきなり私の後ろの席から「くっくっく」と押し殺したような笑い声が聞こえた。

「え」

厭な予感がしてそっと後ろを振り向く。

すると其処には

「ははっ、おまえ…相変わらず変な女だぜ」
「! か、海斗?!」

七年振りに再会した海斗は私よりも先にカフェに来ていて、私がお店に入ってから席を移動して以来ずっと私の動向を見ていたのだと云った。

「おまえなぁ、もう少し早く気が付けよ」
「だってそんなの気が付かないよ!七年振りだから私が知っている頃の海斗じゃないし…」
「俺、そんなに変わったか?」
「……変わった」

同じ席で向かい合って座った海斗を正面から見て、私は内心ドキドキしていた。

(なんで…更に格好よくなってるの?!)

高校生の時は常に康彦贔屓でいた私だったから、いくら海斗が恰好いいと女子たちに騒がれていても私は気に留めた事がなかった。

だけど今、改めて大人になった海斗自身を見て康彦よりもうんと雰囲気のいい大人の男になっていた事に胸が高鳴る。

(高校生の時とは違ったいい男になっていたんだね)

この目の前の男は、私の知っている海斗じゃないと思っても仕方がない変貌を遂げていたのだ。

ただ

(笑った顔はそんなに変わっていない…のかな)

私の知っている海斗を見つけて少しホッと安堵した。

(だけどこれじゃあ、少し見かけた位で海斗だって解る訳ないよね)

カフェで海斗を見つけられなかった云い訳を心の中でそっと呟いた。

「凪子は変わっていないな」
「其れは厭味?」
「いや、厭味じゃない。少し安心した」
「…海斗」

ふと優しい目つきをした海斗にまた胸が高鳴った。

高校生の時にもたまに見た事のある、何ともいえない表情だった。

「其れより凪子、おまえ大丈夫か?」
「大丈夫って何が」
「何がって…康彦の事」
「あ!」

私は海斗から康彦の名前が出るまですっかり彼の事を忘れていた。

「あいつ…二股掛けていただなんて信じられないぜ。とりあえず思いっきり罵倒しておいたけどよ」
「…海斗」

康彦にフラれた事を思い出して一気に気持ちはドンと落ち込んだけれど、其れと同時に私は今、物凄く厄介な事案を抱えていた事も思い出して急に目の前が真っ暗になったのだった。

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FRIEND→LOVER 2話



郊外に佇むシンプルな店構えのヘアーサロン【SEA】

其処のお店のオーナー兼店長の洋子さんは44歳とは思えない美貌の持ち主だった。

若々しい姿、妖艶な雰囲気は男女共に魅了し、独身の洋子さん目当てでやって来るお客さんの7割は男性だった。

完全予約制のお店は三ヶ月先までギッシリ予約が詰まっている。


──そんな完璧な美魔女の洋子さんがまさか同性愛者で…


(よりにもよって私なんかを好きって──!)



ゴクゴクゴクッ

「…はぁ」

自宅アパートになんとか帰り着いた私は、コップ一杯の水を飲み干しやっと一息ついた。

明かりを点けた部屋の中で座り込んで茫然と考える。

(…どうしよう)

十年間好きだった彼に失恋したばかりだというのに、其のタイミングで告白された相手が雇い主でもあり同性でもある洋子さんだという事に驚きを隠せない。

(洋子さん…本気、なのかな)

つい数十分前にあった出来事を反芻する。

あの時の洋子さんの表情を思い出しては、決して私をからかって云って言葉じゃないという事だけは解って…

(だから余計にどうしようって思うよ!)

勿論洋子さんの事は女としても美容師としても尊敬している。

サバサバした性格でたまに意地悪な時もあるけれど、スタッフ想いの人格者だ。

私は今のお店で働ける事が愉しくて、そして洋子さんの事も恋愛抜きでは大好きで…

だからこの事で洋子さんと気まずくなって雰囲気のいいお店を辞めたくないと思った。


(本当どうしよう…何か洋子さんと気まずくならずにお店も辞めなくていい様な回避策はないかな)


私はテーブルに置いてあったパソコンを起動させた。

そして何処かに今の私と同じ様な悩みを持った人が何かいい解決法を披露していないかと探し始めた。




カチカチとマウスをクリックする音が静かな部屋の中に響く。

(…もう2時…かぁ)

ただ闇雲に時間だけが過ぎ、今日が定休日でよかったと安堵していると、ふとメールの受信トレイに新着メールが届いているのに気が付いた。

其のままクリックして見てみると

「あっ」

発信者の名前を見て私は思わず声を上げた。

「嘘、海斗からだ!」

メールの送り主は佐々原 海斗(ササハラ カイト)からだった。

海斗は私と元彼の共通の友だちだった。

海斗とは高校三年間同じクラスで、元彼の事にもよく相談に乗ってくれていた私にとっては一番仲のよかった男友だちだ。

そんな海斗は高校卒業後、他県の大学に進学してしまって其れ以来疎遠になってしまっていた。

最初の頃はメールを頻繁に交わしていたけれど、年月が過ぎるほどに連絡は途絶えて行った。

其の海斗からのメール。

驚くなという方が無理だ。


【久し振り、元気だったか凪子】

そんな言葉から始まった懐かしい人からのメールをドキドキしながら読んでいる内に、私はある一行に釘付けになった。


【康彦から凪子との事を訊いて驚いてメールした】


「はぁ?!康彦から訊いたって何よ!」

康彦というのは私の元彼の名前だ。

「何よ…康彦と海斗ってずっと交流があったの?!」

其の事実に驚いてしまった。

だって元彼から高校卒業後の海斗についての話は全く訊いた事がなかったから、つい私同様遠く離れた友だちとは疎遠になっていたんだとばかり思っていたから。

(男と女では友情の厚さが違うって事…なの?)

何故か其の事が寂しいなと思った私だった。

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FRIEND→LOVER 1話





十年間好きだった人にフラれました。



「もぅ本っ当信じられませんよぉ~私の青春返せ!って感じですぅ」
「はいはい、そうね」
「15の時からですよ?!高校1年の時から!好きで…大好きで、彼だけ見て来たんですよぉ!」
「そうね~偉いねぇ」
「初めは友だちからって…其れでもいいと思って…だけど高校卒業の頃になってやっと…やっと私を彼女にしてくれて…だから私の初めてだって捧げたのにぃ~」
「そりゃ好きな男に求められれば女はヤッちゃうわよねぇ」
「…進路…別々だったけど…時間を見ては逢って、彼氏彼女らしい事していたのに…其れなのに…」
「二股掛けられていた挙句、片方の女がデキちゃった、とはね」
「~~ぜ、全然…気が付かなかったんですよぉー!まさか、まさか…っうぅ~」
「所詮男っていうのはそういう生き物なのよ。常に複数の女を渡り歩く本能を持った下衆なのよ」
「…でも…彼だけは違うって思ってて…」
「恋は盲目ね、馬鹿な女の典型例よ」
「うぅ…洋子さん~~其れ慰めてもらっていない~」
「だって本当に呆れているんだからね」
「!」

営業終了後のお店の休憩室で、失恋して自棄酒を渇喰らって管を巻いている私の顎を、洋子さんはクイッと持ち上げた。

「凪子、あんたを本当に幸せに出来るのはわたしだけだって解らないの?」
「…よ、洋子…さん?」
「ずっとあんたの事を可愛がって来たわたしの気持ち、どうして解らないのよ」
「…冗談…ですよね?」
「冗談じゃないってーの」
「!」

間近に迫った洋子さんの顔で、私は一気に酔いが冷めた。


私は澤部 凪子(サワベ ナギコ)25歳。

美容学校を卒業してからずっと働いている美容院の店長である天石 洋子(アマイシ ヨウコ)さんにはずっと可愛がってもらっていると感じていた。

だけど、其の特別可愛がってもらっていた理由──というのがまさか…

(まさか!)

「凪子、いい加減わたしのものになりなさい」
「じょ、冗談…ですよね、だ、だって洋子さん女で…私も女で…」
「だから何」
「だから何って…あの、女同士っていうのは──」
「同性恋愛しちゃダメって誰が決めてるの?」
「そ、そそそ、其れは~~」

何故かグイグイと私に迫って来ている洋子さん。

初めは私をからかっているのだと思っていたけれど、洋子さんの其の表情はとても真剣なもので──

「凪子、わたしは男以上の幸せと快楽をあんたに与えてあげられるわよ」
「! やっ」

洋子さんの綺麗な顔が私の目の前に来た瞬間、私は火事場の馬鹿力よろしく思いっきり洋子さんの体を跳ね除け「失礼します!」と捨て台詞を吐きながらお店を飛び出したのだった。


まさか…


まさか洋子さんが…


(私をそういう対象として見ていただなんて!)

失恋したショックなんてあっという間に吹き飛んでしまい、夜の街中を全力疾走しながら私はこれからどうしたらいいのだろうと頭を悩ませたのだった。

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夜明けのアリア(番外編)



今日のわたしのお店はちょっとだけ騒がしかった。


「うふふっ~♪」
「ご機嫌ね、まなちゃん。何かいい事あったの?」
「はい~ありました!実は今度の市ノ瀬さんのリサイタルチケットでSS席が取れたんです!」
「へぇ…でも其れってあの子に頼めば幾らでも融通してくれるんじゃないの?」
「な、何を云っているんですか、そんな恐れ多い事出来ません!今や市ノ瀬瞬のリサイタルチケットといったらプレミアムものなんですよ?!みんな喉から手が出るほどに欲しいと思っている価値のあるものなんです!」
「…はぁ」
「倍率高くてダメかなーと諦めていたんですけど……見事当てる事が出来ました!」
「まなちゃん、すっかりあの子に毒されているわね」
「いやいや…もう中毒です。なんですかね、あの魅力っていうか……魔力?」
「あははっ、魔力!そっちの方があの子には合ってる~」

出版社に勤めているまなちゃんはすっかり市ノ瀬瞬のファンになり下がっていた。

確かに彼女が手掛けたクラシック雑誌に市ノ瀬瞬の特集が掲載されると通常の3倍は売れるという事から、静かに其の世界においては有名になりつつあるといってもよかった。

(まぁ、たまに逢うと相変わらずのクソエロガキって感じしかしないけれど)

世の女性は完全に表向きの市ノ瀬瞬に騙されていると思った。




「あぁぁぁーダメだったぁ~!」
「何、どうした」
「市ノ瀬瞬のリサイタルチケット取れんかったぁー」
「あぁ…あれ、ファンクラブに入っていないとほぼ全滅だって噂あるじゃん」
「う゛~入っているのにぃ~」
「えっ、いつの間に入ったの?!っていうかあんた、いつからクラシック好きになったのさ」
「…だってさぁCMで使われていた曲聴いた瞬間、ビビッて来ちゃったんだもん」
「なんだ、其れ。ってかさ、市ノ瀬瞬ってもう結婚してておまけに結構大きい子どもいるって訊いた事があるんだけど」
「奥さん、瞬より13歳上の元ソプラノ歌手の束原風音。瞬が17の時に瞬の子ども産んでる」
「えっ!やだ何其れ!犯罪じゃない?!っていうか市ノ瀬瞬って熟女好きなんだ…13歳上って…気持ち悪っ」
「そういう事云うな!純愛なんだよーずっと憧れていた束原風音にアタックしてようやくものにしたっていう一途な男なんだから!」
「でもさ、よく考えてみ?息子が13歳も年上の女を嫁にするって云って来た時の母親の気持ち」
「瞬の母親が元々束原風音のファンで、諸手をあげて祝福したって逸話がある」
「ゲッ!な、何其れ…そんな親もいるんだねぇ…」
「そんな事よりチケットォォォー!オークションに出てるかなぁ」
「そんなん出てたって元値の何倍も値がついているよ、無理無理」
「あぁぁぁーもうもっと大きなホールでやってくれればいいのに~」

「…」

(凄いなぁ…ボックス席のふたりの会話)

何処かの会社の制服を着たOLふたりがランチを取りながらわたしの良く知る知人の噂話に花が咲いているのを見ると、なんとも複雑な気持ちになる。

(いつの間にか有名人になっちゃって…)

普段のふたりを知っている身としては、世間の羨望に満ちた評価が面白可笑しくて堪らなかったのだった。





「…ハァ」
「ため息つくと幸せが逃げるって言葉がありますよ」
「アァ、キイタコトアリマス…デモツカズニハイラレナイ」
「何かありました?」
「シュンガワタシノイウコトヲキイテクレナクテ」
「そんなのいつもの事じゃないですか」
「デモ!ワタシハイツモシュンノタメニナルコトシカイッテイナイノニ!アタマゴナシニハンタイスル」
「はぁ…」
「モットオオキナホールデリサイタルスレバヨリオオクノオキャクサンガシュンノエンソウヲキケルノニ…ソウシタラオカネモットガッポガッポフトコロニハイルノニ…」
「アーガントさんって本当裏表のない金の亡者なんですね」
「…オカネハヒトヲウラギラナイカラネ」
「なんか…意味あり気ですね」
「イロイロアリマスヨ、ジンセイ40ネンチカクイキテイレバ」
「40近く?見えませんね、若いですよアーガントさん」
「オォ、ツグミアリガトウネ…トコロデツグミハイクツ?」
「女性に歳を訊くのは失礼ですよ、アーガントさん」
「! オォゥ、ナゼソンナニコワイカオヲスルノデスカッ」
「…」

片言の日本語でいちいちアメリカ人的なオーバーアクションをしているこの外人は、市ノ瀬瞬のマネージャーでオーストリア人のアーガント・ゲーデル。

あの子の才能にベタ惚れして、其の才能を使ってお金儲けをするために引っ付いている害獣らしい。

日本に活動拠点を移すと云った彼に同行して其のまま日本に居付いている。

そんな縁で市ノ瀬瞬から紹介され、以来いつの間にか私の店の常連になっていたのだった。




開店から4時間。

様々なお客の歓喜や落胆や嘆きの声を端々に聴きながら、お昼過ぎになってやっと一息ついた頃──


ピリリリリリリ

不意に鳴った携帯に慌てて出る。

「はい…あぁ、うん…うん、今?いいよ…うん、解った、じゃあ待ってる」

通話終了ボタンを押してから、私はそそくさとお店の扉まで行き、外扉に掛けていたプレートを【OPEN】から【CLOSED】に変えた。

(これでよし)

これはいつも来るふたりのために配慮した行動だった。


──そして電話から10分後


カランカラン

「こんにちは」
「こんにちは~来ましたぁ」

「いらっしゃい」

相変わらず仲良さ気にベタベタ引っ付いて姿を現した友人夫婦に苦笑する。

「あんたたち、いっつも手繋いでいるの?」
「そんなの当たり前でしょ。ちょっとでも放したら風音さん、絶対ナンパされまくっちゃうよ」
「瞬くん、そんなの心配無用だから。こんなおばさん、瞬くん以外誰も見向きもしないから大丈──」
「何云ってるの!風音さんに憧れている輩なんて世の中にごまんといるんだからね!風音さんは僕のものって見せつけておかないと心配で心配で」
「其れを云うなら瞬くんだって…若い女の子から綺麗な大人の女性まで瞬くんのファン、沢山いるから…私なんていつも心配で…」
「風音さん、何馬鹿な事云っているの。僕には風音さんしか眼中にないんだから。まだ其れ、疑っているの?」
「疑ってはいないけど…でもやっぱり私、もう歳が──」
「ふぅ…風音さん、家に帰ったらお仕置きね」
「え!」
「僕の風音さんへの愛がどれ程のものかまだまだ解っていないようだから、今夜じっくりとねっとりと解らせてあげる」
「な…なっ…」

「はいはい、セクハラ会話其の辺で止めてねー胸糞悪いですよー」

「あっ!ご、ごめんね、つぐみ」
「愛する夫婦の会話の何処がセクハラ会話ですか」
「…本当、あんたたちって世間との評価と全く正反対よね」
「「?」」

世間ではそら一途で美しい純愛物語で結ばれた憧れの夫婦像として語られているけれど(其の大きな要因はまなちゃんの書いた雑誌記事による処が大きいのだけれど)

実際は

(この子のストーカーじみた行為から始まって結果を得た不純物語よね)

「其れより何か食べる?お昼まだなんでしょ?」
「あ、うん。午前中はリサイタルの打ち合わせでバタバタしてて」
「そういえば先刻までアーガントが来ていたけど、打ち合わせに顔を出さなくてよかったの?」
「あぁ、アーガントはリサイタル内容にはノータッチなんだ。お金になりそうな営業しかタッチしない」
「そんなんでいいの?大丈夫?」
「大丈夫。あぁみえて仕事は出来るから。上手~く僕を働かせてちゃっかり分け前摂取しているんだからさ」
「ふふっ、なんだかんだ云って瞬くん、アーガントが取って来た仕事には文句云わないよね」
「まぁ…僕の性格を熟知しているからね。僕が厭がる様な仕事は持って来ないから其の辺では少し譲歩しているかな」
「へぇ、あんなんでも一応信頼関係っていうの築けているのね。でもさ、なんかもっと大きなホールでやってお客さん入れたいみたいよ?」
「何、此処に来てそんな事愚痴っていたの?」
「愚痴って云うか…戯言だったけど」
「戯言って…つぐみ」
「大きいホールかぁ…僕的にはまだ早いかなって思ってるんだけど。だっていざ大きなホールでリサイタルするって事になって、実際お客さんって入るものなの?」
「…瞬くん、そんな事思っていたの?」
「……」

(へぇ、こんなに世間でやいのやいの云われているのに…天狗にはなっていないのか)

ほんの少しだけ意外な面が見れて新鮮な気持ちになった。


音大を出たくせにそっちでは芽が出ず、いつの間にかこんな風にお店を構えて其処に集う色んな人の様々な話を訊いて、其の中でわたしも其の人たちの人生の中の端役として登場しているのかなと思うとちょっとくすぐったい気持ちになった。

──でも其れと同時に、華やかに活躍する人たちを羨んで見ている自分もいたりして…時々切なくなってしまうのだけれど…


「そうだ、つぐみ、これ今度のリサイタルのチケット」
「えっ、いいの?!凄く入手困難なプレミアムチケットなんでしょ?」
「ふふっ、何云っているの。つぐみは特別。私と瞬くんにとっては大切な友人なんだから」
「…風音」
「そうそう、いつまでも僕たちの深くて濃ゆい愛の人生をつぐみさんは見届ける義務があるんだからね」
「もう、ちょっとは見直したのにすぐブチ壊す様な事を云うんだからー」
「はははっ」

「…」


(まぁ、こんな人生も中々いいんじゃないのかな)


わたし自身が決めて歩んで来た人生。

其処に周りの人たちから時々与えられるご褒美に喜べちゃうわたし。


──うん…


これはこれで愉しい人生だと思うわたしだった。





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