FlowerLeaf

*AriaLien Sub BLOG*

2017年10月

甘やかな棘 22話



「愛恵さん、此方が八尋先生です」
「…」

立ち尽くしていた私の手を引いて、有城くんは私を八尋先生に紹介した。

「初めまして、八尋です」
「…」

今、私の目の前でにこやかな笑みを浮かべて挨拶している其の人は…

「あれ?どうしたんですか、愛恵さん。大丈夫ですか?」
「…」

私を心配して小さく体を揺する有城くんの掌の感触でハッと我に返った。

「あ…あの…わ、私…」
「北森愛恵さん、ですよね?お噂は有城くんから伺っています。指導の厳しいやり手編集者さんなんですって?」
「…」
「わぁ八尋先生、そういう事本人の前で云わないでください!僕にも立場っていうものが~」
「ははっ、ごめんごめん」

「…」


どうして


どうしてこの人は…


(今、私の目の前にいるの──?!)


「では早速取材を始めさせていただきます」
「お手柔らかに」
「八尋先生については色々噂があって、其れをまずはお訊きしたいのですが」
「噂…というと」
「先生の著書にあるプロフィール画像ですが、其れを観た読者の大半は先生は女性だという認識である訳なんですが、何故あの画像を公表しているのですか?」
「あぁ、あれ。何処でも訊かれるんだけど特に意味はないですよ。ただ濃厚な官能小説を女性が書いていると思わせる方が面白いかな?と思う程度の事で」
「其れはご自身が仕事とプライベートを明確に分けたいという意志の表れでもあるのでしょうか?」
「そうですね。別に知られて都合が悪い訳じゃない。実際コアなファンは八尋真己は男だっていう事を知っている訳だから、絶対隠したい事でもない。男であろうと女であろうと読む人にとっては作家の性別ってどうでもいい事なんじゃないかと思うから」

「…」


あぁ…


どうして気が付かなかったのだろう。


【八尋真己】


【やひろまみ】


(アナグラム──)


私は有城くんと八尋先生の対話をジッと訊きながら、ただ俯いているだけだった。



「八尋先生、今日はどうもありがとうございました」
「いや、此方こそ。いい記事になっているといいです」
「勿論、頑張ります──じゃあ僕、一度社に戻って取材報告を編集長にしますので、愛恵さんはこのまま帰宅してください」
「えっ、私も社に」
「いいからいいから。じゃあ、お疲れ様でした!」
「あっ」

何故か有城くんは私を置いて足早に去って行ってしまったのだった。

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甘やかな棘 21話



其の日はある日突然やって来た。


「愛恵さん、今夜って時間取れますか?」
「えっ、急にどうしたの」

出社したばかりの私に先にデスクに着いていた有城くんが話し掛けて来た。

「実は前からお願いしていた紹介作家の取材、最後のひとりの先生が今夜にしてくれって先刻連絡があって」
「あぁ、そういえば中々捉まらない先生がいたわね」
「そう、八尋先生ですよ」
「…」
「愛恵さん、八尋先生に興味ありましたよね?どうですか一緒に取材、行きませんか?」
「…取材」

例の企画の陣頭指揮を取っていたのは有城くんだった。

ピックアップされた官能小説家達への取材はほぼ全て有城くんひとりが行っていて、私は其の取材レポートをまとめたり紙面構成を考えたりといったデスクワークを請け負っていた。

そんな中、ひとりの作家の取材が予定通り行われない事を有城くんは常々愚痴っていた。

其の件(クダン)の作家への取材がようやく行われるとの事だった。

(八尋先生…か)

最後の作家先生が私の気にかけていた作家だと知って心がざわついた。

八尋 真己という官能小説家を知ってから私は彼女の本を読み漁った。

どれも男性目線の表現で、女の私が読むには時々吐き気がするほどに過激な場面もあった。

嫌いなのに、読みたくないのに、そう何度思っても何故か先へ先へとページをめくる指は止まらなかった。

何故女性なのにこれほどまでに男性目線なのだろうという不思議な引っかかりがあった。

彼女の心の中には一体どんなものが渦巻いているのだろうという事まで気になる始末だった。

そういった面からでも私にとって八尋先生というのは興味深い対象だった。

「…行くわ、取材」
「そうですか、じゃあ17時出発という事でよろしくお願いします」
「了解」


何故か其の日は一日中体が熱っぽかった。

別に体調が悪い訳じゃない。

病による熱っぽさではなく…


(欲情──しているの?)


体が男を求めているかのように火照っている。

そんな感じの熱っぽさだった。


(どうして…)


今すぐにでも抱かれたい衝動があった。

奥深くを突いて、私の中を滅茶苦茶に冒して欲しい感情が渦巻いていた。


(八尋先生に逢えると思うだけで…胸がドキドキしている、の?)


其れはとてもおかしな感情だった。

まるで恋い焦がれてしまっているかの様な気持ち。


(おかしいわ、私…まるで長年の恋人に逢えるかの様な反応を)


本の中を通してしか知らない八尋先生。

素顔の彼女の事は何も知らないというのに、どうしてこんな感情を持ってしまうのか全く解らない私はもどかしい気持ちを抱えながら、約束の時間までやり過ごしたのだった。



そして時間になり、有城くんとふたりで取材場所になるカフェまで来た。

「あ、拙いなぁ、八尋先生もう来ています」
「えっ」

店内に入って開口一番に有城くんが呟く様に云った。

有城くんが慌ててある席に近寄って行った。

私は其の姿を目で追いながら立ち竦んでしまった。

(嘘!)

其の瞬間、私の周りの景色は真っ白になり何もかもが消え失せてしまった──

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甘やかな棘 20話



「ん?何これ」
「…え」

疲れ切った体を少し起こして見ると、衛藤さんが机に積まれていた数冊の本を手にパラパラと見ていた。

「これって」
「官能小説。今度の仕事で知識が必要だから読んでいるの」
「へぇ、官能小説を扱う仕事、ねぇ」

そう云いながら衛藤さんは私が横になっているベッドに腰を下ろして本を読み始めた。

「衛藤さんもそういうの読んだりする?」
「しない。興味ないな」
「だよねぇ、文章で感じるより実際に体で感じた方がずっと気持ちいいもんね」
「其れは人によりけりだと思うけど…へぇ、結構凄いね、表現が」
「誇張されているだけで余計に萎えない?」
「そんな事ないけど」
「…」

一度ヌいて鎮まっていた衛藤さんのモノが大きくなっているのが目に入った。

「まさか文章読んで其の気になるの?」
「なるみたいだね、この作家、凄いね…擬音の使い方が面白い程に艶めかしい」
「男と女の感性って違うのね。私は嫌い。其の人の表現って女を見下しているみたいで辟易するわ」
「ふっ、そう思えるって事はこの文章で其処まで想像出来るって事だろう?上手いよ、文章表現」
「…」

衛藤さんはパタンと本を閉じて、またベッドの中に入って来た。

「ねぇ、もう一回していい?」
「もうすっかり其の気じゃない」
「悔しい事に本に触発された。生身の女の肉を味わいたいな」
「凄い云い方ね──あっ」

衛藤さんはすばやくゴムを着け、あっという間に私の中に挿入って来た。

「あっ、あぁぁっ」
「んっ、なんだ…君も濡れているじゃないか」
「…はぁ…あ、あなたの…モノに触発、されたのよ…」
「そうか」
「あっ!あぁぁんっ」

いきなり激しい律動が開始され、グチュグチュと水音が響いた。

「凄いな…先刻よりもずっと溢れている」
「はぁん…あっあっ…あなたも…は、激しい…わよ」
「ふっ…凄いな、官能小説──んっ」
「あぁぁぁ、あん、あんあん」

衛藤さんの激しい腰遣いに合わせて私の腰も動いていた。

一度絶頂を迎えていた私の中は既にヒクついていて、弱い収縮を始めていた。

「イキそうだ、愛恵…」
「ん、イク…イク、わぁ…あっ…あぁぁっ」

肌と肌がパンパンと当たる音の感覚が短くなった其の時、衛藤さんは腰の動きを止めた。

「はぁ…はぁはぁはぁ…」
「…んっ…んん…」

ドクドクと脈打つモノの存在を静かに感じる。

(官能小説って…こういう効果があるって事なのかな)

私はぼんやりとそんな事を考えていた。




初めて読んだ官能小説という分野の本。

書く人によってさほど明確な違いはない。

結局はヤるまでのプロセスを少し前後に配置して、あとはひたすら卑猥な行為の表現をしているだけだ。

ただ中には上手い──という作家も何人かいて、今私が気にかけている作家も其のうちのひとりだった。

(この人…衛藤さんがやたらと褒めていたなぁ)

私は本を手にパラパラとページをめくっていた。

【八尋 真己】

(やひろまみ…か)

巻末にある作家の顔写真を見ると、サングラスを掛けていて顔自体は解らないけれど、形のいい唇には流行りの色のルージュが引かれていて、綺麗な長いストレートヘアーが印象的な細身の女性だった。

(女なのに男の心理に詳しくて、だけど女の心理も決して下手って訳じゃないのよね)

解り過ぎるから其の情景を想像すると怒れたり呆れたり辟易したりする。

そういった意味ではやっぱり衛藤さんのいう様にこの人は上手い、という事なのだろうと思った。

「…」

何故か私は彼女の事が気になって仕方がなくなっていたのだった。

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甘やかな棘 19話



平穏な日常は静かに終わりを告げようとしていた──


「は?恋とセックス特集…ですか?」
「そう、有城の提案なんだけど、どう?」
「…」

いきなり編集長に呼ばれてなんだと思ったら、突然そんな事を云われた。

「なんでもね、官能小説っていうの?其の分野が最近にぎやかなんだって云うんだよ」
「昔から其の手の分野はにぎやかでしたよ。ただ、うちの出版物とはあまり縁がない分野じゃないですか」
「そうなんだよ。お堅い文芸ばかり扱って来たからちょっと抵抗あるんだけどさ、志形先生を筆頭に其の手の作家さんの作品紹介やおススメの官能小説のコメントとか、6ページ前後で構成したいと思うんだよね」
「…はぁ」

(志形先生を筆頭にって)

なんだかこの企画自体に何かある種の企みが含まれているんじゃないかと構えた。

「うちの雑誌もさ、もっと若年層に読んでもらいたい感じじゃない?読者層の幅、広げたいなと思っていたからこの機会にどうかなと思って」
「…編集長がそう思うならいいんじゃないですか?」

編集長の中ではもう決定事項の様だ。

(そりゃそうよね。志形先生が連載の他にページを割いてもいいなんて云ったらそりゃ即OKでしょうに)

「そうか!じゃあこれ、北森と有城とで進めてくれるか?」
「解りました」

ほんの少しだけ煮え切らない気持ちのまま編集長のデスクから離れた。

自分のデスクに戻り、はぁとため息をつくとトントンと机を叩かれた。

「愛恵さん、訊きました?」
「…」

隣のデスクに座っていた有城くんに話しかけられた。

「編集長、OK出してくれましたか?」
「…なんであんな企画を出したのよ」
「え、なんでって愛恵さん、反対なんですか?」
「特にうちで扱うものじゃないと思うわ。そういうのは他の女性誌だってゴシップ誌だって組んでいる企画だもの。なんだかうちの雑誌のカラーとは合っていない気がする」
「そういう考え、世界を狭めている気がするな」
「…」
「僕、色んなリサーチを掛けて来ましたけど、やっぱりそういう企画は購買数を増やすひとつの指針になりますよ。気になる記事観たさにうちの雑誌を買ってくれる人が増えればいいと思いません?」
「其の号だけ買って終わり、ってパターンになりそう」
「だけど反対に雑誌其のものを気に入って買ってくれるきっかけになるかも知れないじゃないですか」
「…」
「兎に角うちの雑誌の存在を知ってもらう事が最優先なんです」
「…解ったわよ、やるからにはきちんとやるわ」
「流石愛恵さん、頼りにしています」
「…」

いつからこんな前向きな意見を云う様になったのだろうと少し感心した。

少し前までは私が指示した事を忠実にこなしているアシスタント的な位置にいた子だったはずなのに。

(成長…なのかな)

ぼんやりと有城くんを眺める。

体の関係を解消した頃から常にある有城くんに対する焦燥感。

其れが一体何なのか未だに解っていない。

(もしかして…子どもが親離れする瞬間に感じる気持ちってやつなのかな?)

そんな知りもしない気持ちにまで考えが張り巡らされる程に燻っていた私だった。

「そうだ、愛恵さん。愛恵さんって官能小説読んだ事ありますか?」
「ない。興味ないもん」
「そうですか、じゃあこれ」
「何」
「今回の企画に参加してもらう予定の作家さんたちの主な作品リスト」
「──はぁ」

有城くんから差し出された紙面には数名の作家の名前と作品タイトルが書かれていた。

本のタイトルを見ただけで其の中身が解るストレートさに少しうんざりしたのだった。

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甘やかな棘 18話



最近の私は公私共に充実した生活を送っている様な気になっていた。

(仕事もプライベートもいい感じじゃない?)

好きなジャンルの仕事が出来て、私生活だって私のいい様に潤っている。

こんな気持ちは久しぶりだったかも知れない。

思わず鼻歌でも出て来そうな程浮かれた気分で社内の廊下を歩いていると、前方から見慣れた人が歩いて来た。

「あ」
「あら、北森さぁん」

(相変わらずフルメイクの舌足らず口調)

其れは今では我が社のドル箱作家のひとりでもある20歳の志形ナナだった。

「志形先生、お久り振りです」
「本当!お元気でしたかぁ」
「えぇ──今日はどうなさったんですか?」
「先日の取材旅行の報告を含めた作品の打ち合わせにぃ」
「あぁ、そうなんですね。京都、どうでした?」
「うん、すっごくよかったよぉ~色々愉しい事がいっぱいあってね」
「…」

つい先日、作品の取材旅行と称して志形先生は有城くんを指名してふたりで京都に行っていた。

帰って来た有城くんはやけにさっぱりした顔をしていて、私に対して今まで以上に社交的に接する様になっていた。

其処からは私に対して【思慕】という感情は見えなくなっていて少し安心していた処だった。

(この旅行で志形先生といい感じになったのかな)

ぼんやりとそんな事を考えていると

「丁度良かったぁ。はい、これ北森さんにお土産」
「え、私に…ですか?」
「うん。あたしとお揃いですよぉ~ずっと持っていて下さいね」
「…」

志形先生から手渡されたお土産というのは京都にある有名な神社のお守りだった。

(…恋愛成就)

「じゃぁまたねぇ~」
「…はい」

少し鼻につく香水の香りを残して志形先生は去って行った。

私は掌に残ったお守りを何となく眺めてしまう。

(一体どういうつもりでこんなものを私に)

志形先生の気持ちが解らない。


志形先生との付き合いは彼女が高校生の時に送って来た投稿小説を私が読んだ事から始まった。

高校生にしてはやけにドライで大人びいた文章を書くなと思い興味を持ってから、私単独でちょこちょこ接触していた。

だけど私がいくらいいと褒めても当時の上司には彼女の小説の良さを中々理解してもらえなかった。

しかし彼女が別の出版社主催の文藝賞で大賞を取ってから状況はにわかに微妙なものになった。

あれよあれよという間に時の人になってしまった彼女の才能に手をこまねていたうちの出版社は一時期才能を見極める目の持たない編集者ばかりがいる落ちぶれた出版社だというレッテルを張られた。

だけどそんな危機的状況を救ってくれたのは他でもない志形先生だった。

すっかり有名人になった彼女の作品を我が出版社でも取り扱いたいと云って来た幹部の命令で、私は志形先生に頭を下げた。

そんな私に彼女は『いいですよぉ~だってあたしにとって北森さんは最初の人ですからぁ』と云った。

其の云い方に一瞬茫然としたけれど

『北森さんがあたしの作品いいよ、面白いよって云ってくれた最初の編集者さんでぇ、書き続ければ絶対大輪を咲かせるって言葉があったからあたし、書き続けれたんですからぁ』

あっけらかんとそう云って、此方がお願いした執筆を快く引き受けてくれた。

其れ以来、私は志形ナナという作家に頭が上がらない。

其れは決して卑屈な気持ちからじゃなくて、人として私なんかよりもずっと大人の考えを持っている彼女自身の人となりに感服しているのだ。

(才能豊かな人は少々凡人とは違うというしね)

人は時として見た目や喋り方だけで其の人というものを判断しがちだけれど、其れは決していい事じゃないんだと恥ずかしながらこの歳になって学んだ。

だから私は有城くんが志形先生とどうにかなるのを咎めたりしない。

志形先生も有城くんもお互いが真剣ならいいんじゃないかとむしろ応援したい気持ちだった。

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樹野 花葉

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