FlowerLeaf

*AriaLien Sub BLOG*

2017年09月

お憑かれ様です 10話(終)



お店を出て若干ふらつく足取りで輝臣さんにもたれ掛りながら夜道を歩いていた。

「水穂ちゃん、家まで送って行くよ」
「…」
「タクシーがつかまる大通りまであと少しだから」
「…ない」
「え」
「家…帰りたくない」
「…」
「また昨日みたいな事があったら私…怖くて」
「あぁ、大丈夫だよ。君に纏わりついていた生霊、今はもううろついていないから。もう襲って来る事はな──」

私は優しく語る輝臣さんの腕を一層強くギュッと締めた。

「…解って」
「え」
「……もっと一緒に…居たい」
「…」

輝臣さんと彼氏彼女という関係になってから二時間も経っていない。

だけど私の中では少し甘い肩書きの相手となった輝臣さんとの繋がりをもっと感じたいと思った。

「ダ、ダメ?他のお店でいいからもう少し話を──」
「はぁ、本当参った」
「え」

急にグッと体を引き寄せられ、きつく抱きしめられた。

「今夜は見逃してあげようと思ったのに…煽ったのは君だからね」
「!」

耳元に唇を寄せられ、囁かれた言葉に一瞬にしてブルッと体中が粟立った。





───其れからの事は…よく覚えていなかった








「はぁっ、あんあんあんっ」
「ふっ…ん、んっ」

次に意識がはっきりしたのは、輝臣さんの部屋のベッドの上でだった。

ぼんやりと覚えているのは、タクシーに乗って連れて行かれた輝臣さんの暮らす部屋のあるマンションで、なんだか妙に広い部屋の廊下をお姫様抱っこされてフワフワとした気持ちになったという事。

そしてこれまた大きなベッドに下ろされ、そして性急に唇を塞がれ、其れと同時に体中がカッと熱くなる愛撫を受けた。


「や…激し…ぃっ、あっ、あんあんあんっ!」
「ごめん──手加減出来ない…んっ」

深く濃い、ねっとりとした前戯を散々施され、もどかしいまでに疼き濡れ過ぎた私の中に輝臣さんの荒ぶったモノは容赦なく挿入り込んだ。

「あぁん、あっ、あっ…あぅ、はぁん」
「はぁはぁ、んっ、あっ」

パンパンと激しく打ち込まれる楔は私の最奥をギュッギュッと擦り付ける様に押し続けた。

掲げ上げられた両足はより一層輝臣さんとの隙間を無くし、ごく短い距離で素早いピストンを繰り返していた。

「やぁ…あ、あっ…はぅ…!い、イッちゃう…イ…ッ」
「ん、んっ……あっ」

やがて私の中は蠢き、キュゥゥゥと中のモノを締め上げようとしていた。


(あ─── っ)


初めての感覚。


セックスで…


中でイクという快感を私はこの時初めて知った。




「はぁはぁはぁ…あっ…」
「…はぁ…凄い…水穂ちゃん…滅茶苦茶締め付けられたよ」
「やっ、は、恥ずかしい事云わないで!こんなの初めてなんだからっ」
「…え」
「初めて…中でイッた…」
「そ、そうなの?」
「~~~」

大して経験人数があった訳じゃなかったけれど、こんなに激しくて蕩けて気持ちのいいセックスは今まで知らなかった。

「ははっ、俺たち体の相性バッチリだね」
「! て、輝臣さんっ恥ずかしいからそういう事を───んっ!」

恥ずかしさから反論しようとした口はグッと塞がれた。

ねっとりと弄ばれる舌が痺れて来る頃、やっと唇を放してもらえた。

「あ…っ」
「本当に大好きだよ、水穂ちゃん」
「……わ、私も」
「俺が色んな事から君を護ってあげるから…安心して俺の傍に居なさいね」
「…はい」

麗し過ぎる眼差しと言葉で私はどうにかなってしまう気がした。



突然降って湧いた出逢いと繋がりに不思議な縁を感じながらも甘んじて受け入れた私。

(もしかして…澪と義姉妹になっちゃうかも知れない…?)

そんな浮ついた事を考えながらも再び始まった甘い遊戯に身をくねらせる私だった。





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お憑かれ様です 9話




約三年間の恋を終わらせた私には勿論哀しさはあったけれど、心の奥底でははっきりしてよかった──という気持ちの方が大きかった。


「ほら、これも食べなさい」
「あ…ありがとうございます」

雄二に別れを告げて、傷心の私を待っていたのは輝臣さんだった。

輝臣さんはしばらく私の泣きに付き合ってくれて、そして『お腹空いたでしょう?ご馳走してあげる』と云って輝臣さんの馴染みのお店に連れて来てくれた。

其のお店は一見普通の住宅で、でも中に入ると落ち着いた雰囲気のカフェ風の内装になっていた。

昼間はカフェで、夜になるとお酒なんかも出すバーになるのだと気さくな店主の女性が教えてくれた。

店内は個室式になっていたので他のお客さんに気兼ねする事なく話が出来るのはいいなと思ったのだった。

「これも美味しいから、はい」
「あ、あの…もう…お腹いっぱいで…」
「またまたぁ~遠慮しないで食べなさいよ」
「…」

幾つかの大皿料理を先刻から甲斐甲斐しく輝臣さんが取り分けてくれる。

先にアルコールが流し込まれていたために少しの量でも満腹感があった。

(…はぁ、なんだかなぁ)

ぼんやりと目の前に座っている輝臣さんを見つめる。

どうして輝臣さんは私なんかに此処まで付き合ってくれるんだろう、という気持ちがあった。

(私が単に澪の友だちで…澪や五條先輩から何を云われてたから…?)

ごく短い期間で出逢って知り合った輝臣さんに対してよく解らない感情が芽生えていた。

其の感情がどういったものなのかは解らないのだけれど。

「──ふっ、誘ってるの?水穂ちゃん」
「……は?」

優雅にワイングラスを持っていた輝臣さんの指先がいつの間にかフォークを持っていた私の手に重なっていた。

「もしかしてもう酔ってる?そんなトロンとした色っぽい目つきで見つめられると困るんだけど」
「え…ち、違います、誘ってなんか…っ」
「泣いて叫んで食べて…失恋の傷の治し方としてはもう一歩踏み込みたいと思わない?」
「…もう一歩って」
「新しい恋」
「!」
「俺と恋愛、しない?」
「?!!」







なっ




(何を~~~!)


何を突然云うのだと驚いた。

だって私にそんな気は全くなかったから。

フラれてほんの数時間しか経っていないのに、そんな…新しい恋だなんて──

(そ、そりゃ輝臣さんは素敵だけど…だけどだからってそんな…)

カァと赤くなっているだろう顔を輝臣さんから見えない様に逸らすと、押し殺した様なため息が聞こえた。

「…ごめん、俺、悪い男だね」
「え…」
「弱っている処に付け入ろうだなんて──年甲斐もなく先走り過ぎだっていうの」
「…あの」
「ん?」
「輝臣さんって…彼女、いないんですか?」
「いたら君を誘っていないけど」
「えっ、そんなにカッコいいのに?!」
「あのさ、外見がいいから彼女がいるって決めつけるの、よくないよ?現にカッコ可愛い水穂ちゃんは彼氏にフラれているじゃない」
「う゛っ!」

(い、痛い処を突くなぁ~~)

「俺、こう見えて恋愛には奥手なの。なまじ見たくないものまで見ちゃうから、恋愛に発展する前に厭気が差しちゃうんだよね」
「…」
「見たくもない本性とか、背負っているものとか…たまーに付き合うまでいっても、俺の仕事の事で根を上げられて長続きしない」
「輝臣さんの仕事って」
「祓い屋」
「祓い屋?!」
「表向きは興信所って看板掲げているけど、本当は霊的な相談を請け負っているちいさな会社を経営してるの」
「其れって輝臣さんが社長さんって事ですよね?だったらなんで?いいじゃないですか、ちゃんと仕事に就いていて」
「請け負う仕事によっては色々大変な状況になるの。滅多にはないけど俺自身ボロボロになって別人になったり、引き込んだ霊障で周りに不可解な現象を起こしたり、霊的な症状に襲われたりもする」
「…はぁ」
「つまり俺と一緒に居ると安穏な生活が送れないって事」
「…」

(其れは確かに…普通に考えたらハードル高いよね)

「だから一目惚れしても中々告白する勇気が持てないの」
「…一目惚れ」
「あの二次会で俺、君の事見かけた瞬間いいなと思ったんだよ」
「!」
「澪ちゃんに其れとなく訊いて、君が澪ちゃんの親友の水穂ちゃんだって知ってついでに彼氏がいる事も知ってあぁ残念だなって思ったんだけどさ、ジッと見ているとなんだかよくない気が纏わりついていたから余計気になっちゃって」
「だからあの時、あんな事を云って?」
「ほんのアピールのつもりだった」
「…」
「だけど…言葉を交わしたら堪らなくなった」
「…」
「俺が君を護りたいって思ってしまったんだ」
「…輝臣さん」

いつの間にか私は持っていたフォークをお皿に置き、輝臣さんに握られていた手を握り返していた。

「フラれて弱っている隙をついてでも君をものにしたいと思っているズルい男だけど、お試し感覚でちょっと付き合ってみない?」
「…そんな、茶化して云わないでください」
「え」
「私…私だって輝臣さんの事…」
「…」
「フラれたばかりで易々と誘いに乗るなんて…尻軽で図々しい女だって思いませんか?」
「えっ…じゃあ」
「…」

私は返事の代わりに輝臣さんの掌を強く握った。

そして指を絡める様に握り直して、ジッと輝臣さんを見つめた。

「…ははっ、俺、一生分の運、使い果たしたかも知れない」

最初に出逢った頃よりも少し幼い笑顔を私に見せた輝臣さんに私の胸は最高潮に高鳴ってしまっていたのだった。

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お憑かれ様です 8話



そうするんだと決意してからの私の行動は早かった。


「えっ…み、水穂?!」
「やっと逢えたわね、雄二」

「…」

此処数ヶ月頭を悩ませて来た悩みをハッキリさせるために私は強硬手段に出た。

幾らメールを打っても電話をかけても繋がらなかった雄二の元に、私は直接やって来たのだ。

嘘をついて早引けした其の足で雄二の会社まで赴き、そしてずっと退社する雄二を待っていたのだ。


19時過ぎに会社から出て来たのは雄二と

「其方どなた?」
「あ、あの、こ、これは…!」

雄二の少し後ろに小柄な女が立っていた。

慌てている雄二を見て事の顛末が一気に解り、そしてあっという間に熱が引くのを感じた。

「──どうしてさっさと云ってくれなかったのよ」
「…え」
「好きな子が出来たならなんでちゃんと云ってくれなかったのよ!」
「み…水穂…そ、其れは…」
「怖かった?別れ話を切り出したら私が駄々をこねて面倒な事になりそうだと思った?」
「…」
「甲斐性はないけど優しくて、私の云う事、する事に文句ひとつ云わずに付き合ってくれる処が好きだった」
「…」
「気が弱い処だって、私が引っ張って行けばなんの問題もないと思ってた」
「…」
「だけどね、堂々と二股掛けて平然とのうのうといられる位図太い神経しているなんて知らなかったよ!」
「…」
「私との三年という付き合いを自然消滅出来るって軽々しく考えたあんたの事を軽蔑する」
「!」
「さようなら──今までありがとう」
「み、みず」
「──其れからあなた」

「!」

雄二の後ろで私たちのやり取りをオドオドしながら見ている女に声を掛けた。

「金輪際私の事を考えないで。私はもうこんな男と何の関わりも持ちたくないし、好きだって気持ちだってないんだから」
「…」

まるで恐ろしいものを見たかの様に見開いた目を私は見た事があった。

(やっぱり…)

昨夜私を襲ったあの生霊の放った視線と今、目の前にいる女の其れは何処となく似通っていた。

ただ本人は自分が生霊を飛ばしている事には気が付かないのだと輝臣さんは云っていた。

(無意識に生霊を飛ばすほどに私の存在を気にして疎ましく思っていたって訳)

其れほどまでに雄二の事を好きでいるのなら、もうとっくに私の雄二への気持ちは彼女相手に負けていたのだ。

「じゃあね、お幸せに」

少し気を緩めると涙が出て来そうだったから私は慌てて踵を返した。

背中越しに聞こえた雄二の「水穂、ごめん…本当にごめん!」という言葉をまとって私は一度も振り返る事無くふたりの元から去って行った。




(何て事ない…これでスッキリしたんだから!)

ボロボロと溢れる涙を何度も手の甲で拭きながら闊歩する。

やがて霞む視線の先に見慣れた派手ないでたちを見つけた。

「…あっ」
「おかえり、水穂ちゃん」
「て、輝臣さん」

なんでこんな処に居るのだろうと思った。

「なんでこ──」

そう訊こうとした言葉は途中で途切れた。

「よく頑張ったね、いい子いい子」
「~~~」

いきなりギュッと抱きしめられて、また頭を撫でながらいい子いい子を連発された。

(なんで…なんで…)


なんでそんな事をするの?


なんでいつも気が付くと傍にいるの?


なんで


なんで…



「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
「よしよし、泣きなさい。うんと泣いて喚いてスッキリしなさい」

なんでまだ知り合って間もない、よく知りもしない人に全てを曝け出して任せてしまう事が出来るんだろうと不思議に思った私だった。

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お憑かれ様です 7話



昨夜幽霊に襲われた時に助けられた状況の謎は解けた。

だけど

「でもなんでいきなり霊に襲われたんですか?今まであんな目に遭った事なかったし、霊感だって全然ないんですよ」
「あぁ、其れについての話をしてからの方が昨日の事についての理解が早いかな」
「…どういう事ですか?」
「まずは、澪ちゃんの話からなんだけど」
「は?澪?」

どうして此処に澪の話が出て来るのだろうと不思議だったけれど、ちゃんと輝臣さんの話を訊こうと思った。

「澪ちゃんはね霊に憑依されやすい、いわゆる霊感の強い子だったんだけど其れを彼女の亡くなった父親があらゆる霊災から彼女を護っていた。そして其れは同時に澪ちゃんの近くにいた君も護って来た、という事だった」
「は?澪のお父さんが澪だけじゃなくて私も?其れはどうして」
「つまり昔から澪ちゃんと仲が良く、常に一緒にいた君も弱いながらも澪ちゃんに纏わりつく霊の影響を知らず知らずの内に受けていたという事なんだよ」
「う、嘘…!」

(そんな事、全然知らなかった)

「そう悟られない位澪ちゃんの父親は君も護って来たって事なんだけど、其の父親の霊をよりにもよって幸臣が昇華させちゃったんだよね」
「えっ、五條先輩が?!なんで」
「本来なら亡くなった人はちゃんと成仏させてあげなくてはいけないという理(コトワリ)を、澪ちゃん自身の強い負の念で現世に留めて歪めてしまっていたという事が大きな理由なんだけどね」
「…本当はいてはいけない状況を澪が作っていた…って事?」
「そう。其れを見かねて幸臣は本来あるべきの正しい行為をしたんだけど、其れによって澪ちゃんと水穂ちゃんを護って来た存在が無くなってしまったという訳」
「…」
「まぁ、澪ちゃんは代わりに幸臣の加護を得て、其れがきっかけでふたりは親しくなって付き合い出したって裏話があるんだけど」
「わ、私は…?」
「──其処が問題だよね」
「…」
「流石の幸臣も水穂ちゃんが澪ちゃんの影響を受けていた状態までは気が付けていなかったみたいなんだ」
「そ、そんな…」

なんて恐ろしい事を云われているんだろうと思った。

今までそういった関係の怖い目になんて遭った事がなかったと思っていたのは、私の知らない処で護ってくれていた人がいたからだなんて。

(あ…!でも)

「あの、でも澪のお父さんが護ってくれなくなって随分経ちますよね?其の、先刻五條先輩がいなくなったお父さんの代わりに澪を護って、其れがふたりの付き合うきっかけになったって」
「あぁ、そうだね。かれこれ四年程前になるかな」
「其の間、私は何も霊的な怖い目に遭った事がないですよ?」
「だからね、澪ちゃんから受けていた影響って本当に微妙なものだったんだよ。其れに就職で澪ちゃんと一緒にいる時間も学生時代よりはうんと減ったでしょ」
「…確かに」
「ぶっちゃけごく普通に生活している分にはそんなに影響を受ける事はない程度の霊しか寄って来ていなかった。其れに元々霊って明るい性格の人間には近寄りがたいものだから今までは君の持つ性格に救われていたって事なんだろう」
「明るい性格…」

そういうものなんだ…と思った。

確かに私はずっと明るく前向きな性格だと自負して来た。

そりゃ悩んだりする事だってあるけれど、何とかなるさ精神で鬱々とした気持ちは早々に吹き飛ばして来たのだった。

「だけど其の本来持っている君の気質が此処数ヶ月で乱れているでしょう」
「え…」
「思い当らない?長く鬱々と悩んでいる事」
「……」


──其れって…



「で、話は昨日の事に戻ります」
「え」
「昨夜、君を襲った霊、あれは生霊だよ」
「い、生霊?」
「死んだ霊魂じゃなくて、生きている人間の強過ぎる思念が実体化した霊って事」
「!」

(幽霊じゃなかったって事?!)


生きている人間の霊って…


其れって…


「…誰?」
「…」
「誰の…霊、なんですか」
「…」


本当は何となく解っている様な気がした。

昨日の生霊がしつこく私に語り掛けていた言葉を反芻すると…

「…は、ははっ…やっぱり…私はもう…」
「早まらないで、水穂ちゃん。ちゃんと話をした方がいい」
「…」
「ちゃんと話を訊いて、真実を知るんだ。もしかしたら相手の一方的な思慕だって事も──」
「…ありがとうございます、輝臣さん」
「…」
「本当に…ありがとうございます」
「…水穂ちゃん」


私は泣きそうになる気持ちをグッと堪えて、ぎこちない笑顔を輝臣さんに向けながら真実を知る決意をしたのだった。

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お憑かれ様です 6話



一体何が起こったのかさっぱり解らない──


「あ、モーニングセットください」
「かしこまりました」

「…」

にこやかに店員に注文を告げている目の前の人はごく普通に、まるで最初から其処にいたかの様に座っている。

(何なの、この状況は)

だけど私はこの状況に戸惑いながらも、何故か心の奥底ではホッとしている処があった。


『あのねぇ水穂ちゃんの件は俺が何とかするから気にしなくていいよ~』


(先刻、澪に話していたあの言葉…)

あの言葉の真意が一体何なのか解らないけれど、何故かこの人にすがってもいいんだという気持ちになって安心していたのだ。

「──さて、と」
「!」

おしぼりで手を拭き終った輝臣さんは徐に私に視線を合わせた。

「水穂ちゃん、俺の事誰だか解る?」
「…あの、澪から五條先輩のお兄さんだって」
「そう、訊いたんだ。じゃあもう俺の事、不審者だとは思っていないよね?」
「はい、其れはもう」
「よかった。其れじゃあ順に話を進めるね」
「はい…」
「俺と初めて逢った時に俺が君に云った言葉って覚えているかな」
「…言葉?」

一瞬なんの言葉だろう──と考えたけれど、直ぐに


『君、憑かれ易いから気をつけなさいね』


(あ…そうだ)

「覚えています。疲れやすいから気をつけろって…云いましたよね」
「うん、そう。よく覚えていたね~いい子いい子」
「!」

いきなり笑顔でポンポンと頭を撫でられビックリした。

(なんで頭?!)

いい子いい子と頭を撫でられる様な事をした訳でもないのに、其れに

(子ども扱いしている?!)

理解不能な行動をされて少しの照れと腹立たしさが湧いたけれど、物凄く邪気のない笑顔を向けられてあっという間に赦してしまっている私がいた。

「でね、此処で質問。俺が云った『つかれている』って漢字、どう書く?」
「…は?」

いきなりスーツの内ポケットからメモ帳みたいな冊子を取り出し、私の前にペンと共に置いた。

「此処に書いてみて」
「…」

突然何を云っているんだろうと思いながらも私は云われるまま其のメモ帳に【疲れている】と書いた。

其れを見た輝臣さんは「まぁ、そうだよね」と云いながら薄っすら笑った。

「なんですか、間違っていますか?」
「あーううん、間違っていないよ。普通こういう漢字の方の意味で受け取るよね」
「違うんですか?」

すると今度は輝臣さんがメモ帳にサラッと何かを書いて私に見せた。

「俺が君に云った『つかれやすい』の『つかれる』っていうのはこういう漢字で書くの」
「…」

其処には見慣れない【憑かれる】という字が記されていた。

「見慣れていないとおかしな漢字だよね。この憑かれるって漢字の意味はね、霊に憑りつかれるとかっていう意味で使われる漢字だよ」
「えっ」

瞬間、私の中で恐ろしい程の冷気を感じた。

体の芯から凍えてしまう様な冷たさを感じ、フルっと体が震えた。

「身に覚え、あるよね」
「…あの…昨夜……わ、私…」
「云わなくていいよ。解っているから」
「え」
「俺には全部解っているから」
「…」

いつの間にか体の震えが止まっていた。

輝臣さんのとても優し気な視線と、形のいい口から発せられる穏やかな口調の言葉が空気を伝って私に届いた時、あんなに寒さを感じていた体の中がポカポカと暖かくなった。

──特に背中のあたりが…

「多分昨日の内に姿を現すと思っていたんだ。其の読みが当たってよかったよ」
「?…あの、其れはどういう」
「昼間君に護符を貼りつけておいた」
「ご、護符?そんなものいつ──」
「背中。こう、バンッと叩いたでしょ」
「……あっ!」

輝臣さんの言葉を受けて思い出した。

(そういえば神社でいきなり抱き寄せられて背中を)

どうしていきなり背中を叩かれたのか解らなかったけれど、酷く痛かった記憶が蘇った。

「初めて逢った時から君の周りを取り巻くよくない気が気になっていたんだよね。で、昨日逢ったら其れが凄いスピードで濃くなってて、こりゃ一日の間に実体化するなと思っていたんだよ」
「そ、其れって…」

(私が幽霊に襲われる事を予見して護ってくれた──って事?)

思わぬ真実に私は驚くと共に、この輝臣さんという人が普通の人間にはない力を持った人なんだと知って戸惑いながらも

(やっぱり五條先輩のお兄さん…なんだ)

そう納得した。

澪から訊いていた五條家の歴史。

平安時代からの流れを汲む陰陽師の末裔だと──

(本物…なんだ)

陰陽師なんて歴史の…物語か何かの中だけに存在しているものなんだと思っていたけれど、いざ私の前にいる人が確かに存在している事で、其れは絵空事なんじゃないのだと受け入れたのだった。

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樹野 花葉

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