FlowerLeaf

*AriaLien Sub BLOG*

2017年07月

世界の中心に暴君 (番外編)




──本当は漁師になりたかった


小学生の時、将来の夢という課題で書いた作文が賞を取った事があった。

其れが嬉しくて意気揚々に父に見せた。

だが

「馬鹿もん!何が漁師だ、おまえはこの早乙女の跡継ぎだぞ!おまえの将来は既に決まっているのだから馬鹿な夢を見るなどくだらない事をするんじゃない!」
「…」

頭ごなしに怒鳴られた事が幼心にもショックで、以来私は本当の自分というものを心の奥深くに封印する事を覚えてしまったのだった──






「なんだと?返済出来ないとはどういう事だ!」
「そ、其れがよく要領を得なくて…」
「いい、俺が直接行く」
「あっ、社長がわざわざ出向くほどの件では」
「黙っていろ!俺は自分の目で見た事しか信用しないんだ!」

大学を卒業した其の年に示し合わせたかの様に父が亡くなり、お決まりの様に私は貸金業の早乙女の会社を継いだ。

わずか23歳の若造が三代目として早乙女の看板を背負って行くにはあまりにも重く大きな看板で、何度も挫けそうになった。

いっその事早乙女などという名前など無くなってしまえばいいとも思った。

けれど到底そんな事は赦される事ではなく、金に群がる性根の腐った連中を相手にいつしか私自身も毒の部分が強く表に現れる様になっていた。

本当の私とは全く別の人格が表立って奮起する様になって、皮肉にも早乙女の家は繁栄する事になった。





「…はぁ…疲れた」

がむしゃらに働いて来て、気が付けば私は30歳手前になろうとしていた。

仕事に対して多少手の抜き処を覚え、任せられる処は信頼のおける部下に任せられるようになった。

そうして捻出した貴重な休みに唯一心が安らぐ趣味に没頭する事が私の愉しみになっていた。

「あっ」

クイクイッと掌に感じる振動に心が逸り、しかし慎重にリールを操る。

何も考えなくていい釣りが唯一の趣味だった。

人気のない山奥の穴場の川に休みの度にひとりで通っていた。

ボーッと釣り糸を垂れて何も考えない。

ふと気づくと鳥の鳴き声や風の吹き抜ける音、自然の息吹を感じる其の瞬間は私にとって至福の時だった。

小さい時は漁師になりたいと思っていた。

しかし其の夢は厳格だった父によってあっけなく握り潰された。

好きな事を仕事にしたいという選択は私には産まれた瞬間からなかったのだ。


「釣れますか?」
「え」

急に後ろから声を掛けられハッとした。

「あ、すみません。いきなり声を掛けてしまって」
「あ…いえ」
「あの…よく此処で釣り、していますよね?」
「え?」
「私、この先の小屋に住んでいて…此処、あんまり人が居ないでしょう?だからたまに人を見かけると気になって…」
「…」
「あなたは特に何度も見かけるのでつい、何となく覚えてしまって」
「…そう、ですか」

元々が人見知りの性格。

逢ったばかりの人間に対して言葉を交わすといった事は苦手だった。

しかしこの女性とは一目見た時から自然と目を合わせて言葉を交わし合う事が出来た。

不思議だな、と思った。


──だけど其れは私にとって必然的な出逢いだったのだと後々知る事になる


彼女は夏の間だけ山小屋に寝泊まりして、此処等に生えている草花で染料染めをしていた。

初めて言葉を交わした日から幾日も経ち、私が釣った魚を彼女の小屋で料理して食べる様な仲から親密な関係になるのにさほど時間はかからなかった。

既にいい歳になっていた私の元には見合い話を筆頭にあらゆる結婚相手の女性たちが群がった。

だけど其のどの女性に興味も食指も湧かなかった私が唯一自ら欲しいと願ったのが彼女だった。

彼女は私に何も望まなかった。

金も名誉も下手をしたら妻という立場さえも。

ただ自然の中に居て、草花を相手に自由に気ままに生活して行くだけで幸せなのだと云った。

だけど其れを私は自分の欲のために手折ってしまった。

かなり強引に彼女を妻として早乙女の家に招き、愛するが故屋敷から極力出さない様にしてしまったのだ。

彼女は私の事を愛してくれたけれど、早乙女という家には馴染む事無くいつも哀しげな瞳を私に向けていた。

私は本当の意味での愛し方というのを知らなかったのだ。

ただ贅沢なものを与え、好きだといった染料染めもありとあらゆる道具を揃え屋敷内で行える様にした。

そんな事で彼女を幸せにしているつもりになっていた。

だけどそんな小さな歪みは溜まりに溜まってやがて彼女を病気で亡くすまで気が付く事が出来なかったのだ。

ひとり娘の凛子を抱え途方に暮れた。

しかし凛子を彼女の二の前にしたくなくて、私は凛子が小さな時から最高の贅沢を与えて育てて来た。

この環境に嘆く事がない様に。

亡くなった彼女の分まで私の愛情を凛子に注ぎ込みたいと思ったのだった。





「──で、社長はこれからどうなさるつもりですか」
「私は…船に乗る」
「は?なんですって?」
「昔私は漁師になりたかったんだ。家のせいで叶わぬ夢だったが」
「…」
「早乙女の会社も家も無くなった今、私は今まで出来なかった事をさせてもらう」
「…社長」
「マグロ漁船にでも乗れば其れなりに稼げるだろう。其の賃金はいずれおまえに返そう」
「社長、マグロ漁はかなりきついですよ。相当な体力と精神力が必要かと」
「だから余計に乗り込む価値があるのだ──私は様々な贖罪を背負っているのでな…そういったものを体を痛めつける事で少しでも昇華したいという気持ちがある」
「…そうですか」

心の何処かで願って来たかも知れない早乙女の家の崩壊を実際目の当たりにした時、私は思った以上に冷静だった。

これからは亡くなった彼女の弔いと、今までの数々の愚行を顧みるいい機会なのだと思った。

「どうか凛子の事を…よろしく頼むぞ──天眞」
「…仰せのままに」


最愛の娘である凛子には無体な事をしてしまうと思ってしまっても、どうしてもこの現状が私にとっては最善だったと思わずにはいられない。

これからは私は私の本当の意味での人生を歩んで行きたいのだから──


数少ない所持品の中にある家族三人の写真を見つめながら、私は長年住み慣れた屋敷を去って行ったのだった。





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世界の中心に暴君 30話(終)




『──覚悟しろ、これからは容赦しないからな』

そんな天眞の言葉通り、私は今までの様に容赦してもらえなくなっていた。



「凛子、ほら、起きろ!」
「ふっぁ…あっ」
「意識飛ばしているんじゃない、まだ終わっていないぞ」
「ひゃっ!」

グッと太ももを持ち上げられ、一気に奥まで貫かれた。

「あぁっ…滑りがいいな」
「あぁぁぁっ!や…こ、壊れちゃう~~!」
「壊れる訳がない──んっ…まだまだ強請っているぞ、凛子の中は」
「ひゃぁん!あっ、あっ…」

激しい腰遣いで攻められ奥深くをギュッギュッと擦られた衝撃でまたキュゥゥゥゥと天眞のモノを締め上げていた。

「うっ…お、おい…凛子、イキ過ぎ」
「はぁはぁ…はぁ…だ、だってぇ…」


天眞からのプロポーズを受けた瞬間から私たちの関係は完全に恋人同士──いや、婚約者の其れになった。

流れる様に始まった愛の行為はもう三時間以上続いていた。


「凛子…其の蕩けた顔…可愛過ぎて滅茶苦茶にしてやりたい」
「な…何云って…」

生理的な涙とだらしがなく開け放たれた口から流れていた唾液を天眞はベロッと舌ですくった。

「…凛子の液体は何処も彼処も甘いなぁ…病みつきだ」
「や…っ、な、舐めないでぇ…」

顏、首筋、胸、臍、そしてトロトロと蜜を垂れ流している秘所までくまなく舐め取る天眞に恥ずかしさを通り越して畏怖を感じたりもする。

「なんで?凛子自身は勿論、流れ出る液体一滴だって俺のものだよ──此処から出てくるものだって勿論、ね」
「! ひゃぁぁぁん」
「ふっ…ヒクヒクして来た…噴きそう?」
「や、やだぁ…厭…っ…は、恥ずかしいっ」

天眞の指と舌が私の恥ずかしい穴を刺激する。

いつも天眞のモノを受け入れるものとは違ったむず痒さが私を痺れさせる。

「見たいなぁ…凛子の潮吹き」
「やだぁ!そ、そんなの…絶対しないからぁ」
「ふふっ…其の羞恥に満ちた表情がより一層俺を煽っているって解っていないの?」
「~~~」

今まで以上に変態要素が高くなった天眞に戸惑いしかない。

(同等の関係になれて嬉しいと思っているのに…)

だからといってこの行為の変化は大概なものだ。

「もっと…もっと感じさせてくれ」
「…」
「凛子が俺の、俺だけのものになったんだという実感を…もっと感じさせてくれ」
「…天眞」

ほんの一瞬、切ない表情を浮かべた天眞にドキッとして、そして胸があり得ない程に高鳴った。

(あぁ…私…やっぱり本当に天眞が好き)

天眞にならどんな事をされても、どんな辱めを受けても…

其れを悦びとして感じ、受け取ってしまう自分がいる事に気がついてしまった。

「凛子…」
「…いいよ」
「え」
「天眞が望むなら…どんな事も受け入れる」
「…」
「もっと感じたいというなら感じさせてあげる」
「…」
「…だって私…どんな天眞だって好きだから…」
「…凛子」

私が天眞の全てを受け入れると云った其の瞬間、切なげだった天眞の瞳はすぅっと細められた。

(え)

「そうか…そんなに俺の事が好きなのか、凛子は」
「…」
「俺の要求を厭がりながらも最後には受け入れてしまう──そんな凛子にゾクゾクして仕方がないよ」
「…」
「ふっ…じゃあそんな凛子を堪能するべくまだまだ愉しませてもらおうか」
「! じょ、冗談でしょう?!」

天眞が妖しい表情で私を嘗め回した。

「冗談?何を云っているの。俺、云っただろう?」
「…」
「これからは容赦しないって」
「…」
「今まではかな~り抑えていたんだよ?本当の俺を見せたら凛子、引くかなぁと思って」
「…」
「だけど嫁には容赦しなくていいから。たっぷり可愛がってあげる」
「~~~!!」


嘘!


嘘嘘嘘!!


(嘘でしょう~~?!)


まさか天眞が此処まで好色だとは知らなかった。

「俺の持てるありとあらゆるスキルで凛子を愛してあげるからね」
「や…やぁ…もう充分…愛してもらっているから…」
「冗談──まだまだだよ」
「~~~」


結婚を決めた私たち。

お互いを愛し合い、敬い合い、同じ立場の同等の甘い関係になった──と思ったのに…


「凛子、其の可愛らしい口を目一杯開けてごらん」
「や…」
「入るかな?入るよね…くれぐれも歯を立てたらダメだよ」
「~~~?!」


なんだか…

(ほんの少し天眞の方が立場が優勢になっている気がするのは私の気のせい…なのかな?)


今、こんな状況になって気が付いたのは、以前暴君になっていた時の天眞はいつもの天眞よりもうんと素に近い性格だったのかも知れない──という事だった。






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世界の中心に暴君 29話



『凛子、結婚してください!』

確かにそう、天眞は云った。

「…え、え…?」
「凛子、俺と結婚して欲しい」
「ど、どうしたの…い、いきなり…」

このいきなりのプロポーズに戸惑っていた。

勿論厭という気持ちからではなく、どうしてこのタイミングで──と思って。

「…返事は」
「ど、どうしていきなり今、このタイミングなの」
「…」
「其れ、教えてくれなきゃ…答えられない」
「…お嬢様が…名前で呼んでと仰ったので」
「──は?」

(というかまた『お嬢様』に戻っているし)

「昨日お嬢様が名前で呼んで欲しいと云いました」
「云ったわね」
「其れで…考えました」
「何を」
「俺は何故お嬢様を名前で呼べないのかと」
「…」
「答えは──ごく簡単でした」
「何」
「俺はお嬢様を名前で呼んだら…もうお嬢様扱い出来なくなってしまうと思って、だから呼べないのだと」
「!」

(や、やっぱりそういう事?!)

予想していた事を実際天眞の口から云われた事にガッカリしている私がいた。

──だけど

「お嬢様を名前で呼んだらもう……俺はお嬢様を完全に嫁扱いしてしまう」
「……へ」
「だってそうでしょう!俺が本当に望んでいた事は…お嬢様と俺の行く着く先は結婚で…其処には主従関係は発生しない」
「…」
「ただの愛する男女で…夫と妻という同等の関係になるのです」
「…」
「だから俺は…まだそんな…お嬢様に何も伝えていない状態ではとても名前呼びなど出来なくて…」
「…」
「でもお嬢様があんなに懇願して…名前を呼んで欲しいとお強請りされるから──俺は腹を括りました」
「!」

天眞が鞄の中から小さな袋を取り出し、其の中身を取り出し私の前に差し出した。

青いビロードのちいさな四角い箱を開けると其処には

「お嬢様、俺と結婚してください!」
「……」

箱の中でキラキラと光を放つ指輪と共に天眞から紡がれた言葉が私の目と頭と心の中にスッと入り込んだ。

「…お嬢…様」
「……名前」
「え」
「名前で…先刻みたいに名前で呼んで…云って」
「…」

最初に云ってくれた時は名前を呼んで云ってくれた。

「もう一度…ちゃんと云って」
「…凛子、俺と結婚してください」
「~~~はい!」

感極まってボロボロ流れる涙で視界がぼやけて天眞の顔がよく見えない。

天眞からのプロポーズを受けた其の瞬間、天眞はどんな顔をしたのだろう?

「ほ、本当に?本当に…俺と結婚、してくれるんですか?」
「する!…するに決まっているでしょう」
「~~~」

涙を拭って見た天眞の顔は今まで見たことがない、幼い子どもの様な表情を浮かべていた。

昔から欲しくて欲しくて堪らなかった宝物をやっと自分だけの物に出来た時の喜びの表情みたいな…

そんな印象を受けた。

「…あ」

天眞が指輪を私の指にはめてくれた。

其れは驚くほど私の指にピッタリとあてはまって驚いた。

「よかった、凄く似合っている」
「もしかして…この指輪を買いに行っていたから遅くなったの?」
「そう。でも買ったのは今日じゃない」
「え」
「本当はもっと前に買っていて指輪の大きさを調節してもらっていた。いつか渡せる時まで店の方で預かっててもらっていたんだ。其れを今日は取りに行っていただけ」
「そ、そうだったの?」

そんな事をしていただなんてと驚いてしまったけれど…

(なんだか先刻から…違和感が…)

「俺はもうずっと凛子との結婚を視野に入れて色々動いていたんだ」
「…」
「だから…やっとこの日が来た事を嬉しく思っている」
「…」
「名前だって、本当はずっと呼びたいって思っていたんだ」
「…」
「凛子を抱いている時はいつも心の中で名前を呼んでいた」
「…あ、あの…」

堪らなくなった私は天眞の話に割って入った。

「ん?何、凛子」
「て、天眞…く、口調が…」
「え」
「急に…其の、タメ口に…なったね」
「…」
「なんだか…いきなりで驚いちゃって…」

そう、天眞の話し方が今までのかしこまった云い方から砕けたものへと変わっていて驚いた。

すると天眞は私を優し気に見つめて其のまま押し倒した。

「!」
「云っただろう?名前で呼ぶという事は──こういう事だと」
「あっ」

首筋に天眞の熱い唇が押し当てられた。

「これを凛子は望んでいたんだろう?」
「ふ…ぅ」

紡がれる天眞の甘い囁きにゾクゾクとした快楽が競り上がって来る。

「──覚悟しろ、これからは容赦しないからな」
「~~~」

いつかの時の天眞の様な妖艶な表情を向けられ、私の中はあっという間に天眞で満たされてしまったのだった。


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世界の中心に暴君 28話



カチコチカチコチ


(…)

居間の壁掛け時計の秒針がやけに大きく響いている。

(遅いなぁ…天眞)

其の日、天眞の帰りは遅かった。

いつもある帰るコールも今日はなかった。

(残業かな…忙しいって話は訊いていなかったけれど)

天眞が社長を務める【リンテン】は業績が好調らしく、この春採用の社員も増えたと云っていた。

元々商才があるのだろう。

天眞自身は『自分はトップに立つよりも二番手ぐらいが丁度具合がいいのです』と云っていたけれど其れは謙遜なんだと私はとっくに気がついていた。

(昔から優秀だったからね)

ふと昔の天眞の事を思い出して心がほっこりした。


『なんで化学だけ98点なのよ!私はオール満点取れって云ったのよ!』
『申し訳ありません…つい1と7を書き損じまして…』
『呆れたぁ…どうやったら1と7を書き間違えるのよ。そういう凡ミスが多いわよね、天眞って』
『本当に申し訳ありません、お嬢様』
『…でも…まぁ…今回は大目に見てあげようかなぁ』
『え』
『だってどうしても観たい映画なんだもん。今大きなスクリーンで観たいの。だから映画のお供は天眞にするわ』
『! 本当ですか、お嬢様』
『まぁ、頑張ったご褒美よ──っていうか天眞、そんなにあの映画が観たかったの?』
『え…あ、はい』
『でもあんた、ホラー嫌いじゃなかったっけ?』
『い、いえ…す、好き、ですよ』
『……ふぅん』


今思い返せばあの時の天眞は単に映画が観たいからって訳じゃなくて、私と一緒に出かけたいという気持ちが大きくて頑張ったんだろうなと思う。

大きくなるにつれて外での浅い交友関係が広がって行き、お金目当てでチヤホヤする取り巻きに気が付かずにいい気になって天眞を蔑ろにしていた時期だった。

其の癖天眞を人一倍傍に置きたがって翻弄して…

(酷い女だったよね、私)

今では懐かしく思える黒歴史の日々。

(でも天眞はそんな私の事が好き、だったんだよね)

蔑ろにされて喜ぶなんてどんな変態だって思ったけれど…

(其れが今では嬉しくて幸せで堪らない気持ちを私にもたらしている)

そんなほんの少し苦くも甘い想い出に身を焦がしながらうとうととしてしまった。





「──さま」

「…ん」

「…嬢様」

「…」

ゆさゆさと揺れる体と耳元で囁かれた甘い声で意識が浮上した。

「……あっ」
「お嬢様、やっと目を覚まされましたね」
「て、天眞」

ちゃぶ台に突っ伏して寝ていた私を起こしたのは帰宅していた天眞だった。

「こんな処で寝ていては風邪をひきますよ」
「遅かったのね、残業?」
「…え、えぇ……まぁ」

(ん?)

天眞が変に目を逸らした。

其の不自然さ全開の仕草に何故かある種の勘が働いた。

「──何を隠しているの」
「えっ」
「天眞、私に隠している事があるでしょう」
「…いいえ…何も」
「…」

ジッと天眞の目を見つめる。

天眞はしばらく何事もない様に同じように私を見つめていた。

其の時間、恐らく数十秒だった。

やがて

「~~~」
「…何赤くなっているのよ」

じわじわと天眞の頬が赤らんで来た。

そして明らかに照れているだろうと突っ込みたくなる様な様相になった。

「はぁぁぁ!そんな可愛らしい顔でみ、見ないでください!」
「今更何よ、そんな事云って誤魔化されないわよ!」
「…」
「さぁ、云いなさいよ、私に何を隠しているの?!」
「……お嬢様」
「ん?」
「…お嬢様…お嬢様…お嬢様」
「ちょ、何よ…其の連発」
「お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様」
「ちょっと天眞!何ふざけてい──」
「──凛子」
「!」

真っ赤な顔をしながら『お嬢様』を連発した天眞は徐に私の名前を呼んだ。

「え…い、今…」
「…」
「今、呼んでくれた?名前」
「…凛子」
「!」
「凛子…凛子、凛子凛子凛子凛子」
「今度は何?!なんでそんな連発して──」
「凛子、結婚してください!」
「?!」

天眞が壊れてしまったのかと戸惑っている処に飛び込んで来たひと言に驚き過ぎて、私は思わず口を開けてポカンとしてしまったのだった。


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世界の中心に暴君 27話



泣きたくなるほどに辛い日々だったけれど、そんな中でも唯一幸せだと思えた事は好きな人から名前を呼ばれた事だった──


「…ん」

不意に目が覚め薄っすらと目を開けると辺りは明るかった。

「……え」

慌てて飛び起きると私は布団に寝かされていた事に気が付いた。

(あれ?あれあれ?確か…お風呂で天眞と…)

恥ずかしい記憶がフラッシュバックの様に頭にいくつも浮かんだけれど、湯船で天眞にしがみついていた処で記憶はブッツリと切れていた。

(も、もしかして…昇天していた?私…!)

カァと顔が赤くなった。

天眞に抱かれるとたまにあった事だ。

あまりにも激しく求められると私は気を失う事が多々あったのだ。

「ハッ!て、天眞?!」

私は隣に天眞がいない事に気が付き慌てて隣の居間に行った。

だけど其処にも天眞の姿はなく、丸いちゃぶ台の上にはいつも通り朝食の支度がしてあった。

其のトレイの横にある白い紙に気が付いた。

手に取って読むと

【仕事に行って来ます。くれぐれも家のドアを不用意に開けない様にお願いします。】

とそっけなく書いてあった。

「開けないわよ!学習したってーの!」

フンッと鼻を鳴らして私は其のメモ用紙をバンッ!とちゃぶ台に置いた。

「…」

だけど直ぐに手に取り、箪笥の引き出しから取り出したノートに貼った。

(…随分溜まったなぁ)

私は天眞からのメモをこのノートに1枚1枚貼りつけて大切に取ってあった。

時々は其れを読み返して其の時の状況を思い浮かべひとりニヤニヤしたりガッカリしたりして自身の成長の糧にしていた。

(天眞…)

ノートは残り少なくなっていた。

其れだけ天眞からのメモがあって、其れだけの月日が経っているという事。

なのに

(なんで名前、呼んでくれないんだろう)

そんなに難しい事だろうか?

性格を偽って私を甚振っていた時には何でもない様に何度も呼んでいた名前なのに…

(……)

其処でハタッと厭な予感がした。

(…まさ、か)

じんわりと頭に蘇って来たのは、天眞が私に真相を話した時の事。

あの時の天眞の様子を反芻すると天眞が私の事を名前で呼びたがらない理由が解る様な気がした。

(まさか天眞…)

天眞は私の【お嬢様】という肩書に酔っているんじゃないのだろうか?!

落ちぶれた元・お嬢様ではあるけれど、あの真面目な天眞の事。

今も変わらず落ちぶれた私に対して【お嬢様】という肩書…というか付加価値を付けて、そんな私を可愛がる事で自分の性的思考を満たしている──って事じゃないのだろうか?!

(そう考えると…納得出来る…)

『お嬢様』呼びを続ける訳も…

名前を呼びたがらない訳も…

私がただの『凛子』になったら…

其れを天眞自身も認めてしまったら…


(もう私の事を愛せなくなるって考えているんじゃないでしょうね!)


──あまりにもドンピシャな答えに辿り着いた事にガックリと肩を落とした


(そうよ…そうだわ…あの天眞よ…)

あの無駄に変態的な程に私の事を大好きな天眞の事。

【お嬢様】の私をようやく自分のものに出来た悦びに打ちひしがれているのだろう。

(まぁ…元・お嬢なんだけどさ)

妙に納得してしまった私の心は少し寂しい気持ちが溢れていた。

(天眞…)

もし其れが真実だとしても私は天眞の事を嫌いにはなれないし、天眞から離れたいとも別れたいとも思えない。

天眞がお嬢としての私の事を好きだとしても…

(其れは其れで仕方がない事…なのかなぁ)

惚れた弱みとはいえこれは中々苦しい選択だった。

いつか結婚──という話になって、実際結婚して夫となった天眞は妻である私の事を『お嬢様』と呼び続けるのだろうか?

(いや…其処まではなんとか我慢出来たとしても仮に子どもが出来たら?)

子どもの前で妻である私を『お嬢様』と呼ぶ天眞を想像して青くなった。

(厭!そ、其れは絶対に厭ぁぁぁぁぁ──!)

誰もいない居間で悶々と考え込み、そして其の考えに一喜一憂して悶絶する私はきっとおかしな女なんだろうなと冷静に考えている私もいた。

(か、監視カメラとか設置していないでしょうね)

いつだったか天眞が口走った事をハタッと思い出し、無駄に部屋の中を掃除する体(テイ)で捜索してしまった私だった。


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Author

樹野 花葉

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