「はぁ?!結婚っ?」

其の夜、仕事を終えた五條さんが真裕さんの部屋にやって来た。

私が用意した料理を前に、真裕さんが口にした言葉に五條さんは驚いて硬直した。

「へへっ、そう!俺たち結婚すんの」
「…はぃ」

隣に座っていた私の肩をグイッと引き寄せ、真裕さんは満面の笑みで云った。

「…なんだよ、其の急展開」
「本当急だよなぁ~ごめんね~幸より先に~」
「其の緩みっぱなしの顔見せるの止めろ、胸糞悪い」
「…五條さん」
「あぁっ?」

眉間に皺を寄せてグラスに口をつけている五條さんに私は話しかけた。

「私、ちゃんと真裕さんを受け止めますから」
「…」
「幸せに…しますから」
「──阿呆、其れは男が云う台詞だろうが」
「あ」
「そうだよ、澪!俺が澪を幸せにするんだからね!」
「は…はいっ」

強張っていた五條さんの表情が少しだけ緩くなった気がして安心した。


思い思いに料理に箸をつけ、歓談している中で真裕さんは急に姿勢を正して私と五條さんを交互に見つめて口を開いた。

「俺、手術受けようと思う」
「えっ」
「真裕」

其の言葉に私も五條さんも驚いた。

「今までは発作が起きても其の都度何とかなって来た訳だし、薬飲んでりゃ大した事ないと思ってやり過ごして来た」
「…」
「だけどさ、澪と結婚するって決めたら…こんなんじゃダメだと思って。医者が手術を勧めるなら其の通りにして、澪を少しでも安心させたいと思うんだ」
「ま、真裕さん…」
「俺、絶対澪より先に死なないから」
「…はい…はい」

真裕さんの温かな掌が私の頭上に置かれる。

泣きじゃくる私に何度も「いい子いい子」という様にポンポンと擦ってくれる。

其の感触が幸せ過ぎて、また私は泣いてしまう。

「真裕、偉いぞ」
「偉い?──でも正直ぶっちゃけると今まで手術とかって怖いと思っていたんだよなぁ…カッコ悪いけどさ」
「カッコ悪くなんてないよ、真裕さん」
「…ありがと。だけどさ、澪のためにって思うとなんか怖くなくなっちゃうんだよ。不思議だよな」
「愛の力ってやつか」
「幸っ、は、恥ずかしいから皆まで云うなよ~」

真裕さんと五條さん、ふたりのやり取りが軽妙で、嬉しくて泣いていた私はいつの間にか大声をあげて笑っていた。




愉しい祝いの席は瞬く間に終わってしまい、私は五條さんに家まで送ってもらっていた。

「十倉」
「…はい?」

心地よい電車の揺れに少し眠気を感じウトウトていた私は、五條さんの呼びかけで覚醒した。

「よく此処まで来たな、短い間で」
「…そう、ですね」
「余程真裕との繋がりが深いんだな」
「繋がり?」
「業っていうのかな、縁っていうか…人間にはそういう相手がいるんだよ。生まれる前に深く関わっていた人と巡り合ってまた関係を持ってしまうというのが」
「…」
「なんか、おまえと真裕を見ているとそういうのを強く感じる。物凄い速さでくっついたっていう事実が裏付けている様で」
「…そうかも知れません」
「…」
「私もそんな気がします。真裕さんとはこの世に生まれる前にも愛し合っていたみたいな…理屈じゃない愛おしさを感じるんです」
「…」
「だから今までの私の中にあった信念が一瞬で壊れたんだと思います。人を愛する事は素晴らしい事なんだって解った」
「──其れじゃあ敵わないな」
「え」
「真裕の事に関してはおまえには敵わない」
「…」
「好きになった順番とか、年月の長さとか、性別とか──恋愛においてそういうのは全然関係ないんだなって思うよ、おまえを見ていると」
「五條さん…」
「仕方がないから応援してやる。真裕同様、おまえも」
「あ、ありがとうございます…っ」

真裕さんの事をずっと好きだった五條さんが此処まで云ってくれた事に対して私は素直に感謝した。

五條さんは長年溜め込んで来た恋心を解放する事なく其れを昇華するのだと。

並大抵の感情じゃないと思った。

でもだからこそ五條さんの恋心は真摯で本物で…

そういった意味では私は一生五條さんには頭が上がらない様な気さえしたのだった。


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