火照った衝動が鎮まった頃、真裕さんが呟いた。

「澪、今日はゴムしてって云わなかったね」
「え」

ベッドにもたれ掛っていた真裕さんは、床に寝そべっている私と同じ様に床に伏せて視線を合わせた。

「なんで云わなかったの?」
「…」
「避妊、しなかったら…赤ちゃん出来ちゃうかもしれないよ」
「…うん、そう、だね」
「…」
「出来たら…産んでもいい?」
「──え」

私が瞬きをしないで真っ直ぐに真裕さんの目を見て言云った言葉に、真裕さんはとても驚いた顔をした。

「私、真裕さんの赤ちゃん、欲しい」
「…」
「真裕さんと…家族になりたいの」
「!」

其れは私からの逆プロポーズだった。

そう、私は決心していた。

私の人生を掛けてまで叶えたい夢が見つかった。

いつの間にか真裕さんという存在其のものが私の夢になっていたのだ。

「澪…何を云ってるか解ってるの?」
「解ってるよ。私、真裕さんにプロポーズしているの」
「…」
「ずっと傍にいるって云ったでしょう?約束したじゃない」
「…」
「もう…片時も離れていたくないの」
「…其れって、俺の病気と関係あるの?」
「──え」

素直な気持ちを吐露していた私に、真裕さんは冷めた低い声で云った。

「急にそんな事を云うタイミングがさ…なんかあれじゃん。俺が倒れて、病名知って、なんか普通と違うって感じで…そんなタイミングでプロポーズって…死んじゃうかも知れない俺に同情してそんな事を云うのかな、って」
「なんでそんな事云うの?!」
「え」

浸っていた甘い気持ちが一瞬で吹き飛んでしまって、気が付けば私は真裕さんを起き上がらせて一緒になって床に座り直した。

「真裕さんは死なない!真裕さんの病気はちゃんと治療を受ければ死ぬ事はない!だから私は真裕さんと結婚して家族になりたいって云っているのに!」
「…澪」
「同情?そんなの全く考えた事もないわ!同情なんて気持ちで私は結婚なんて出来ない」
「…」
「真裕さんはこれからもうんと長生きをして、私と沢山の子どもたちに囲まれて幸せになるんだから!」
「…」

泣きじゃくりながら気持ちをぶつけた私は、堪え切れずに其の場から立ち去ろうとした。

だけど

「きゃっ」
「澪!」

素早く腕を取られて其のまま真裕さんの胸の中に体が収まってしまった。

「ま、真裕さ」
「今までそんな事を云ってくれる女の子、いなかった」
「えっ」
「…本当は俺、ずっと…ずっと家族が欲しかったんだ」
「!」

声だけしか聞こえない状況なのに、真裕さんがどんな表情で其れを云っているのかが解ってしまう。

「俺には縁のなかった普通の家族っていうの…ずっと欲しくて堪らなかった。だから躍起になって探していたんだ。俺と家族になってくれる女の子を」
「…」
「今までの相手とは結局遊び止まりの付き合いでしかなかった。俺にとって付き合うって事はいつも結婚を見据えての付き合いだったけど、相手はそうじゃなかったんだ」
「…」
「いっその事結婚を迫る口実を作るために…酷いセックスを強要した事もあった」
「其れって…避妊をしないでって事?」
「…うん、単純に赤ちゃんが出来れば結婚を考えてくれるだろうって。でも大抵は酷く抵抗されて、其のまま関係が終わってしまうパターンばかりだったけど」
「…そう、だったの」
「だから澪にもつい…今までみたいなセックスを強要していた処があった。でも其れは本気で澪の事が好きで、出来れば結婚したいと思っていて」
「!」
「だけど付き合い始めてそんなに経っていないし、澪が何処まで俺との事を考えてくれているのか解らない状態で…其れに俺には持病があって…こんな俺が結婚とか望んでいいのかなって思ったりして──んっ」

堪らなくなった私は話している途中の真裕さんの顔を引き寄せキスをした。

「み、澪」
「嬉しい…同じ気持ち、だったのね」
「…」
「…真裕さん、結婚しよう?」
「…澪」
「私は真裕さんと幸せになるの」
「澪」


──結婚なんて考えた事もなかった

そう、真裕さんと出逢う前の私からは選択肢として出て来る事さえなかった未来だった。

愛する人を失う恐怖に怯えて人を愛する事を拒否していた私だったけれど、今の私からしたら其れはとても愚かな事だったのだと解り過ぎる程に解ったのだった。

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