五條さんの秘密を偶然知ったのは今から三年程前、私が大学2年生の時だ。

五條さんは親友の水穂が所属していた徒歩圏内の歩き旅サークルの先輩だった。

私は其のサークルには入っていなかったけれど、学部の違う水穂と待ち合わせをするためによくサークルの部室前で落ち合うために其の場所に来ていた。

其の日も水穂と待ち合わせの約束をしていて部室の前で待っていると

『──好きなんです、先輩が』

(えっ)

突然部室の中から聞こえた声。

(…も、もしかして中で告白タイム…?)

男性の声。

という事は女の先輩に告白をしているという事か。

(わぁ…勇気ある)

聞いてはいけないと思いつつも、何故か相手の人の出方が気になって其の場から立ち去る事が出来なかった。


──しかし数秒の後、聞こえた声に私は硬直した


『悪ぃ、俺、好きな奴がいるから』

(えっ…)

『そんな…ずっと好きだったのに…僕』
『そう云われても俺はおまえの事はただの後輩としか思えない』

(え、え、え、えっ)

『…僕、先輩を困らせたくはないんで…あ、諦めます…でも…でもお願いです、一度だけ、一度でいいから僕とキス、してください』
『別にいいけど、其れでちゃんと諦めてくれんの?』

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ──?!)

告白されている人の声は何度か挨拶を交わした事があったサークルの部長の五條幸臣、其の人だった。

(嘘!男…?男同士、で?)

其の手の世界に疎い私でも実際其の場面を彷彿とさせる声を聞いてしまうとドキドキしてしまう。

『…ありがとうございました』
『ん、じゃあな。俺、先に帰るけどおまえは部室、片付けてから帰れよ』

(あ、いけない、部室から出て来ちゃう!)

私は硬直している体を奮い起こして、慌てて其の場から立ち去ったのだった。


──思わず知ってしまった噂のモテ男部長の秘密


「澪、どうしたの?最近元気ないね」
「え…?そ、そんな事、ないよ」
「そう?でね、今度サークルで行く神社なんだけど」
「…」

五條先輩の秘密を知ったあの日から数日、私は悶々とした日々を送っていた。

水穂は勿論、他の人にも話す事が出来ず、自分ひとりが抱え込むには実に不快な秘密だ。

(まぁ…別にいいんだよね、男が男を好きになったって…)

そんなのはよくある話だ。

人を好きになった事がない私にとっては普通の恋愛でもあれこれ考えられない。

其れなのに同性同士の恋愛というハイレベルな事を普通にしている五條さんはもはや私にとっては未知の存在となっていた。


「あぁ、此処にいた。えっと…十倉澪、さん?」
「──え」

構内の雑多なカフェで急に横からフルネームを呼ばれた事に驚いたけれど、其の声、そして目に入った其の顔に私は茫然とした。

「あ、五條先輩!」
「寺門さん、悪いけど十倉さんを借りてもいいかな?」
「澪を?どうかしたんですか?」
「十倉さんが神社仏閣について詳しいって聞いて、次の旅行の事でちょっと相談したいんだよね」
「えっ、澪ってそうだったの?わたし知らなかったよ」

「…」

「今度の旅行の参考にしたいなと思った事があって。こういうのはサークル以外の人からの情報の方がいいじゃない?サークルのみんなにはサプライズ的な趣向って事で考えているからさ」
「あぁ、そうなんですね。澪、五條先輩に協力してあげてよ」

「…」

「じゃあ行こうか、十倉さん」

「…」

(わ、私…神社仏閣なんかに詳しくないのに~~!)



──こうして私の受難は其の瞬間から始まったのだった


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