電車に乗る事10分程。

「降りるぞ」
「あ、はい」

駅を3つ通過した処で電車を降りた。

(八幡駅…此処、何かあったかな?)

一応地元ではあるけれど、あまり馴染みのない場所だった。

「此処から徒歩で10分程だ」
「はい」

案外近いなと思いながら五條さんの後をついて行くと、視界に大きな建物が見えて来た。

(え…まさか)

一瞬厭な感じがした。

其の感じは私が出来れば行きたくない場所──という印象からのものだと解って

「どうした、十倉」
「あ…」

私の足取りが鈍くなったのを目敏く見つけた五條さんが立ち止った。

「なんだよ」
「あの…もしかして今から行く処って…」
「あぁ、あそこの市民病院だ」
「…」

(やっぱり)


私は病院という場所が好きじゃなかった。

11年前、父の死を看取った場所であり、人の生き死に関係するこの建物が何故か怖くて仕方がないのだ。


「行くぞ」
「あの…何をしに行くんですか?」
「友だちが入院しているんだよ。其の見舞いだ」
「は?友だち…って、五條さんの?」
「当たり前だろう」
「え?な、なんで?五條さんのお友だちが入院していて…其れでどうして私がお見舞いに付き合わされるんですか?」
「…」

五條さんの顔つきがほんの少し険しくなったと思った。

何か複雑な想いを含んだ其の憂いた顔がどうしてか目を惹いて、そして急に何かが解った気がした。

「五條さん、もしか、して…」
「…」
「いつか云っていた…人、ですか?入院、されているのって」
「…」
「五條さんの──」
「そうだ」
「!」

瞬間胸がドキンとした。

とても大きな動悸で一瞬息苦しくなった。

「十倉」
「や…厭、です」
「…」
「私、お見舞いに行きたくないです」
「なんで」
「なんでって…私の気持ち、知っているくせに!」
「…」
「なのになんで…よりにもよってそんな…」
「…」
「何処まで私を苛めれば済むんですか!」
「…」

思わず大きな声で叫んでしまった。

休日の病院へと続く道に人通りがなかった事が幸いした。

私を奇異の目で見る人がいなかった事に少し安堵していた。


「──おまえ、ふざけんなよ」
「!」

呟く様に吐き出された五條さんの言葉にハッとなった。

「あいつは死なねぇよ」
「…」
「今回の入院は検査入院だ。元々別に命に関わる重病じゃねぇし。ただ退屈だから女連れて来いってあいつに云われたからおまえを連れて行くだけだ」
「…どう、して私を…五條さんだったらもっと綺麗で素敵な」
「あいつに逢わせてもいいと思う女はおまえだけだ」
「!」

(あぁ…そういう事、か)

其処で私は少しだけ気持ちが落ち着いた。

五條さんの秘密を知っている私は、どうしてこういう状況になったのかなんとなく解ってしまったのだった。


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