『海斗、聞いてよ!持田くんが私にプリント手渡してくれたの!』
『…其れ、クラス中の連中が同じ様に手渡されていたぞ』
『其れでも!其れでも私に手渡す時、少しだけ指が触れたんだもん!』
『おまえは小学生か。今時指が触れただけで舞い上がる女子高生って』
『う、煩いなぁ海斗は!どうして私のこの湧き上がる嬉しさを共に喜べないの!』
『気色悪過ぎて喜べる訳ないってーの』
『海斗!』


友だち、というより悪友──だったのかも知れない。

高校に入学して同じクラスになって、五十音順に座った席で前後になってからの付き合いだった。

端正な顔立ちの海斗は見てくれはよかったけれど他人を寄せ付けないオーラを常に纏っていた。

いつ見ても不愛想で、みんなから一歩引いて遠くにひとりでいた。

だけど私は後ろの席から常に海斗の仕草、動向を観察している内に、本当の海斗は見かけ通りなんかじゃないと解って徐々に距離を縮めて行った。

最初は私もみんなと同じ様に海斗から睨まれ、無視された。

だけど毎日海斗の大きな背中を見つめていると何故か『ひとりにしちゃいけない』という気持ちが湧き上がって来て、どんなにスルーされても私は海斗に纏わりついた。


そんな毎日が三ヶ月程経った頃、ようやく海斗は根負けしたのか私に話しかけてくれるまでになった。

『おまえは…本当に変な女だな』

そう云って私の額をデコピンした痛さは今でも覚えている。



──そんな海斗が実は数ヶ月前から此方に戻って来ているという事を知った


(もう、なんでそうならそうと連絡してこなかったのよ!)

少し憤りを感じながらも私は何処かソワソワしながらカフェの入り口を気にしつつ、カップを手に取った。


昨夜、海斗からメールを受け取った私は直ぐに返信をした。

其れから2~3回メールのやり取りをして、私たちは直接逢う約束をした。

そして現在、待ち合わせのカフェに来た私は海斗を待っている──という状況だったのだけれど…

(遅いなぁ…約束の時間30分も過ぎてるよ)

この時になってやっと私は海斗の携帯の番号を知らない事に気が付いた。

海斗の方も私の番号を知らなくて、唯一高校卒業間近に教えた私のパソコンのメールアドレスだけは残っていたという有様だ。

(どうしたんだろう…約束を破る様な男じゃないし…まさか事故──)

良くない考えばかりが浮かんでは消え、随分あたふたとしているなと自分でも解って来た頃、いきなり私の後ろの席から「くっくっく」と押し殺したような笑い声が聞こえた。

「え」

厭な予感がしてそっと後ろを振り向く。

すると其処には

「ははっ、おまえ…相変わらず変な女だぜ」
「! か、海斗?!」

七年振りに再会した海斗は私よりも先にカフェに来ていて、私がお店に入ってから席を移動して以来ずっと私の動向を見ていたのだと云った。

「おまえなぁ、もう少し早く気が付けよ」
「だってそんなの気が付かないよ!七年振りだから私が知っている頃の海斗じゃないし…」
「俺、そんなに変わったか?」
「……変わった」

同じ席で向かい合って座った海斗を正面から見て、私は内心ドキドキしていた。

(なんで…更に格好よくなってるの?!)

高校生の時は常に康彦贔屓でいた私だったから、いくら海斗が恰好いいと女子たちに騒がれていても私は気に留めた事がなかった。

だけど今、改めて大人になった海斗自身を見て康彦よりもうんと雰囲気のいい大人の男になっていた事に胸が高鳴る。

(高校生の時とは違ったいい男になっていたんだね)

この目の前の男は、私の知っている海斗じゃないと思っても仕方がない変貌を遂げていたのだ。

ただ

(笑った顔はそんなに変わっていない…のかな)

私の知っている海斗を見つけて少しホッと安堵した。

(だけどこれじゃあ、少し見かけた位で海斗だって解る訳ないよね)

カフェで海斗を見つけられなかった云い訳を心の中でそっと呟いた。

「凪子は変わっていないな」
「其れは厭味?」
「いや、厭味じゃない。少し安心した」
「…海斗」

ふと優しい目つきをした海斗にまた胸が高鳴った。

高校生の時にもたまに見た事のある、何ともいえない表情だった。

「其れより凪子、おまえ大丈夫か?」
「大丈夫って何が」
「何がって…康彦の事」
「あ!」

私は海斗から康彦の名前が出るまですっかり彼の事を忘れていた。

「あいつ…二股掛けていただなんて信じられないぜ。とりあえず思いっきり罵倒しておいたけどよ」
「…海斗」

康彦にフラれた事を思い出して一気に気持ちはドンと落ち込んだけれど、其れと同時に私は今、物凄く厄介な事案を抱えていた事も思い出して急に目の前が真っ暗になったのだった。

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