久しぶりに胸が熱くなる夢を見た。





『──えさん』





だけど夢の内容は全く覚えていなくて…





『ま、えさん』




ただ泣きたくなるほどに幸せなひと時だった気がしたのだ──



「愛恵さん!起きて下さい!」
「んぁっ」

耳に劈(ツンザ)く声と揺さぶられた体の感触で飛び起きた。

途端に周りの騒々しい音の洪水に呑み込まれる。

ジリリリリリーン!

「もしもし?!え、まだ刷り上がっていないってどういう事!」

「えっ違う違う、其の進行は先月号ので今月は──」

(あ~ …朝、だぁ)

「もう、愛恵さんまたデスクで夜を越したんですか?」
「…あ、有城(ユウキ)くん、おはよう」
「おはようじゃないですよ、いい加減家に帰って寝たらどうですか?」
「あ~だって面倒くさい」
「そんな事やっているから誤解されるんですよ、愛恵さんは。本当勿体ない使い方していますよね」
「は?何が」
「其の美貌を、です。ちゃんとしていればモテ要素満載なのに…仕事ばかりにのめり込んで自分を顧みなくて…あー勿体ない!」
「私、褒められてるの?けなされてるの?」
「両方!もう、いいから顏、洗って来てください」
「はいはい」
「はいは一回!」
「…はぃ」

(あんたは私のオカンか)


もたつく足取りで洗面所に向かう途中、四方八方から声を掛けられ時には笑われたりもした。

こんな光景はもうすっかり当たり前の事で、誰も彼もが私の事を【枯れ果てた女】という評価付けしているのが解り過ぎる程に解っていた。

(いやいや、これでいいんだ。余計な波風は立たせたくない)


ザバザバと水道水で顔を洗って、ふと鏡の中の自分を見つめる。

(…酷い顔)

女も25を過ぎると肌の手入れをきちんとしているかいないかの差が目に見えて現れる。

当然私は仕事の忙しさにかまけている事を云い訳にしている堂々の後者側である。

デスク仕事とはいえ一応其れなりに身なりは整えるけれど、すっかり手を抜く事を覚えた。

(今の私を見たらなんて云うかしらね)

薄いベージュの口紅を引きながらふと思った。

飛び起きる寸前まで甘く初々しい気持ちを感じていた。

其れは昔懐かしい初恋を思い出す夢を見た、からだったか。

「…ま、みやくん」

私の全てに刻み込まれている人の名前を呟く。


北森 愛恵──あの15歳の甘いひと時から一気に十年の年月を経て得たのは、地味さが益々進化した仕事をするしか能のない枯れ果てた姿──だった。

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