衛藤の家に居付く様になってから一週間が経っていた。


「はぁ…」
「なんだ、今日もダメだったのか」
「…うん」

私の職探しは続いていた。

だけど自分が希望する職種と条件がズレていて、中々これというものに出会えていなかった。

「まぁじっくり探せばいい。焦って妥協して就職しても続かなかったら本末転倒だからな」
「…そうだね」

30女が再就職するのがこんなに大変だとは思わなかった。

ただ条件を甘くすれば見つかる事もある。

でも其れら多くは自分が一生涯を掛けてまでやり遂げたいと思う職ではないものばかりだった。

(衛藤はそう云うけれど…やっぱりあんまりのんびり構えてもいられないよね)

家賃や光熱費などの生活費が大幅に節約出来ているとはいえ、持ち合わせの貯金は減る一方だ。

このままズルズルと彼の優しさに甘えていてはいけないと重々承知している。


(…っていうかさ)

ふとソファに座って雑誌を読んでいる彼に視線を這わせた。

(本当に……何もないんだね)

ひとつ屋根の下で過ごす事一週間。

其の間、彼が私に手を出す事は一度もなかった。

(まぁ…そういう事、なんだろうけど)

何もない日々が過ぎる度に彼は本当にただの親切心から私を此処に置いてくれているのだと思い知る。

其れでいい。

其れが当たり前──だと思っているのに…

(なんでこんなに苦しいのかな)

はぁとため息を吐きながら私は洗面所に向かった。




「…あぁ…この肉がぁ」

お風呂に入るために脱衣所で服を脱ぎ、鏡の前でジッと体の線を見ていた。

ウエストラインの肉をぷにっとつまんではまたため息が出る。

主婦だった頃の運動不足が祟って結婚前よりも5キロほど体重は増えた。

離婚のために発生した心労で増えた分の体重はなくなったけれど、やっぱり微妙に増えた分の余韻が体に残っている様に思えた。

(また短期のバイト探そうかな)

就職活動の合間に資金調達目的でこなして来た短期のバイト。

体を動かすからダイエットにもなるしお金も貰えるという事で一石二鳥なのだけれど、下手したらちゃんとした就職をしなくてもこうやってずっとバイトしていればいいかなという気持ちになる事が怖かった。

(バイトじゃ駄目だ…ひとりで生きて行くにはちゃんとした生活の保障がある正社員に──)

鏡の前でそんな事を考えていると

ガチャ

「!」

鏡越しに衛藤と目が合った。

「あっ、悪い。風呂に入ろうと思って──」
「………」

一瞬にして頭が真っ白になった。

ぼんやりとしている頭の中に衛藤の視線だけが真っ直ぐに突き刺さった。

「…先に入るなら入るとひと言声を掛けろ」
「…」
「てっきり部屋に行っているとばかり思っていて…だから」
「…」

衛藤の声は段々小さくなって行った。

だけど決して視線は私の体から放される事が無くて

「…幾田」
「み……見ないで!」

思考とは別の言葉が呟く様に私の口から発せられた。

「見ないでって、今更だよ──もう見たよ」
「…見ない、で」
「だから見たって」
「~~~」
「──もう、遅いんだよ」
「!」

いきなり脱衣所に足を踏み入れた衛藤は私の腕を取り、其のまま抱きしめた。

「俺の前で裸を晒すとか」
「さ、晒してない、衛藤が勝手に扉を開けて…」
「こんな事してどうなるか──解っているんだろうな」
「わか、解らないよっ」

ギュッと抱きしめられながら耳元で囁かれる。

間近で感じた衛藤の切ない声や仄かに香る匂いや腕の力強さが私の気持ちを過去に引き戻す。

「あの日…あの夜の事…覚えているか」
「!」
「あれは君にとっては…何でもない事だったか」
「…」
「だよな──だから君は俺の元から」
「違うよ!」
「!」

抱きしめられていた腕の力が緩んだ気がした。

「覚えているに決まっているでしょう!」
「…」
「何でもない事じゃなかったから…私は衛藤の前から去ったんでしょう!」
「…幾田」


私が叫んだ本音が私と衛藤の関係を変えて行った──


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